漁業許可とは?漁船登録との違い・定置網と新規参入の手続きを解説
漁業の研修を受け、漁船や漁具を用意すれば、すぐに漁業を始められるのでしょうか。
第10回では漁業権の仕組みと新規参入の基本を、第11回では新規漁業就業者向けの研修・支援制度と独立資金を紹介しました。技術や資金の準備とともに確認しておきたいのが、実際に漁業を営むための手続きです。
今回は、自ら漁業を営む場合を中心に、「漁業許可」と「漁船登録」の役割を見ていきます。
📖目次
1.漁業を始める手続きは、漁業権だけではない
漁業権は、一定の水面で特定の漁業を営む権利です。しかし、漁業を始めるすべての人が、自分で漁業権の免許を受けるわけではありません。
漁業の種類によっては、農林水産大臣や都道府県知事の許可を受けて営む漁業があり、届出などが関係する場合もあります。「どこで、何を、どのような方法で採るのか」によって、確認すべき制度が変わります。
漁業権と漁業許可を、どちらか一つを選べばよい制度と考えるのも適切ではありません。希望する操業について、漁業権との関係と、許可・届出などの必要性を確認することが大切です。
漁業権の種類や漁協との関係は、第10回の記事で詳しく紹介しています。
2.漁業許可とは?なぜ許可が必要なの?
漁業許可とは、法令で許可の対象とされている漁業を営むために、行政庁から受ける許可です。
海には多くの漁業者がいて、さまざまな漁具や漁法を使って操業しています。限りある水産資源を利用しながら漁業を続けていくには、資源への影響や、ほかの漁業との関係を考える必要があります。
そこで、対象となる漁業について許可制度を設け、使用する船舶や操業区域などを管理・調整しています。
ここでいう許可は、漁師として働く人全員が取得する全国共通の「漁師免許」ではありません。雇用されて乗組員として働くことと、自ら許可の対象となる漁業を営むことは、分けて考えましょう。
3.大臣許可漁業と知事許可漁業の違い
漁業許可には、農林水産大臣が行うものと、都道府県知事が行うものがあります。
| 区分 | 許可する行政庁 | 漁業の例 |
|---|---|---|
| 大臣許可漁業 | 農林水産大臣 | 沖合底びき網漁業、大中型まき網漁業など |
| 知事許可漁業 | 都道府県知事 | 小型機船底びき網漁業や、都道府県の規則で定める漁業など |
底びき網は、海底付近で網を引いて魚介類をとる漁法です。まき網は、魚の群れを網で囲んでとる漁法です。ただし、同じような呼び方の漁法でも、船の規模や操業方法などによって制度上の区分が変わります。
知事許可漁業には、国の省令で定めるものに加え、都道府県の規則で定めるものがあります。例えば、福岡県漁業調整規則では、刺し網漁業などが許可の対象とされています。刺し網は、水中に張った網に魚を掛けてとる漁法です。
「大きな船なら大臣、小さな船なら知事」とだけ覚えるのではなく、自分が行いたい漁業がどの区分に当たるかを確認しましょう。
定置網漁業は、どの制度に当たる?
定置網は、一定の場所に網を設置し、そこへ入ってきた魚をとる漁法です。第10回で紹介した定置漁業権に基づく漁業は、漁業許可ではなく、漁業権の免許の仕組みによります。
ただし、「定置網」と呼ばれる漁業がすべて定置漁業権の対象になるわけではありません。小型定置網漁業は、共同漁業権の内容となる場合や、知事許可の対象となる場合があります。
例えば、福岡県の規則では、小型定置網漁業について、一定の除外を設けたうえで知事許可の対象としています。共同漁業権のもとで組合員が営む場合などは取扱いが異なるため、網の規模や設置場所、漁業権の内容を含めて確認する必要があります。
「定置網だから漁業権」「小型だから許可」と名前だけで判断せず、具体的な操業内容を窓口へ伝えましょう。
4.申請すれば、誰でも漁業許可を受けられる?
漁業許可は、申請書を提出すれば必ず受けられるものではありません。
対象となる漁業によって、申請者の適格性のほか、許可できる船舶の隻数や総トン数、操業区域、漁業時期などに制限が設けられる場合があります。申請できる期間が定められる場合もあるため、いつでも希望どおりに始められるとは限りません。
また、許可を受けた後も、その許可の内容や条件に従って操業する必要があります。
船を用意する前の段階で関係する仕組みとして、「起業の認可」もあります。水産庁は、大臣許可漁業について、船舶を使用する権利をまだ持たない人が、建造や購入などの前に、あらかじめ起業の認可を受けられる制度を案内しています。福岡県の知事許可漁業にも、起業の認可に関する規定があります。
ここでいう「起業の認可」は、会社を設立するための認可ではありません。船を確保する前に、予定する漁業について確認・手続きを進めるための制度です。利用できるかどうかや、その後の許可申請については、担当窓口へ相談しましょう。
ここがポイント
漁船や漁具の購入を先に決めるのではなく、希望する漁業の許可を受けられる見通しと、必要な手続きの順番を確認することが大切です。
5.許可が必要ない漁業なら、自由に操業できる?
漁業許可の対象ではない場合でも、何でも自由に採ってよいわけではありません。
漁業権の対象となる水産動植物や漁業との関係に加え、漁業調整規則や漁業調整委員会の指示などを確認する必要があります。採捕できない期間や大きさ、禁止される漁具・漁法などの規制が関係することもあります。
また、対象となる魚種などによっては、漁獲量の管理や報告のルールも確認しなければなりません。
「漁業許可が不要」ということは、許可という手続きの対象ではないという意味であって、ほかのルールまでなくなるという意味ではありません。地域の漁業者が利用している漁場であることも踏まえ、事前の確認と調整が必要です。
6.漁船登録とは?漁業許可との違い
漁船を使う場合には、漁業の許可とは別に、漁船についての手続きも確認します。その一つが、漁船法に基づく「漁船登録」です。
福岡県の案内では、県内を主たる根拠地として使用する漁船は、福岡県で漁船登録を受け、船に登録票を備え付け、登録番号を表示する必要があるとされています。「主たる根拠地」は、漁船の活動の拠点となる場所と考えると分かりやすいでしょう。
| 制度 | 主に確認すること |
|---|---|
| 漁業許可 | 対象となる漁業を、どのような内容・条件で営むか |
| 漁船登録 | 漁船の所有者・使用者、船の仕様や主たる根拠地など |
漁船登録を受けたからといって、希望する漁業の許可まで受けたことにはなりません。漁業を営むための手続きと、船についての手続きは、それぞれ確認する必要があります。
なお、漁船法に基づく登録の基本的な仕組みは全国共通ですが、申請窓口や必要書類、申請方法などは、登録する都道府県の案内を確認する必要があります。ここでは福岡県を例に紹介していますので、ほかの地域で始める場合は、その地域の最新情報を確認してください。
7.中古の漁船を購入するときに確認したいこと
独立に向けて、手頃な中古の漁船を探すこともあるでしょう。しかし、価格や船の状態だけで購入を決めると、希望する漁業に使えない可能性があります。
まず、予定する漁法や操業海域に適した船か、船の総トン数や機関などが許可の条件に合うかを確認します。漁業許可を受けた人が使っていた船であっても、その船を買うだけで、自分も同じ許可のもとで操業できると考えてはいけません。
漁船登録についても注意が必要です。漁船法では、登録を受けた漁船が譲渡された場合、その登録は効力を失うとされています。以前の所有者の登録が、そのまま購入者へ引き継がれるわけではありません。 購入後に使うための登録手続きを、事前に確認しておきましょう。
操縦に必要な資格や、船舶検査の要否・内容なども、船や使用方法に応じて確認します。
購入費のほかに、修繕、点検、保険、燃油などの費用もかかります。資金準備については、第11回の記事もあわせてご覧ください。
8.準備を進める前に、どこへ相談する?
まずは、希望する地域の都道府県の水産担当部署や地域の漁協などへ相談しましょう。技術の習得や受入れ先の相談は、漁業就業支援窓口も入口になります。
相談するときは、「漁師になりたい」という希望に加え、どの水域で、何を、どのような漁法で採りたいのか、どのような船を使う予定なのかを伝えると、確認すべき制度を整理しやすくなります。
まだ具体的に決まっていない場合は、その段階から相談して構いません。研修や現場の見学を通じて希望を絞りながら、手続きや資金の準備を進めていく方法もあります。
福岡県では、漁業許可や漁船登録について、漁業管理課が相談先の一つになります。船の資格や検査については、内容に応じて運輸局や日本小型船舶検査機構など、担当する窓口を確認します。
漁港や地域の資源を生かす「海業」の相談窓口も
漁業に加えて、漁港やその周辺の資源を生かした水産物の販売、飲食、観光や体験などの取組を考えている場合には、水産庁の「海業振興総合相談窓口(海業振興コンシェルジュ)」も参考になります。
この窓口は、すでに漁業をしている人だけを対象とするものではありません。海業振興に取り組む漁協、民間事業者、自治体、地域団体などが利用でき、漁港の利活用や利用調整、支援制度、取組事例などの相談を受け付けています。
漁師になるための研修や個別の漁業許可の確認は、まず地域の担当窓口へ。漁港や地域の資源を生かす事業の相談には海業の窓口も検討する、というように、相談内容に応じて使い分けましょう。
まとめ|漁業と漁船、それぞれの手続きを確認しよう
漁業を始めるときは、漁業権だけでなく、希望する漁業に必要な許可や届出、操業に関するルールを確認する必要があります。漁船を使う場合は、漁船登録や、船の資格・検査なども関係します。
漁業許可と漁船登録は、名前が並ぶと同じような手続きに見えるかもしれません。しかし、漁業を営むための許可と、漁船についての登録では、役割が異なります。
大切なのは、船を購入してから考えるのではなく、希望する漁業を営める条件と、手続きの順番を先に確認することです。研修で技術を身につけ、資金の準備を進めながら、行政や漁協などへ相談し、実際に操業できる形を整えていきましょう。
📚過去記事
- 第1回:「農業・水産業支援」への想いと、行政書士のつながり
- 第2回:農地転用とは?農地を守るためのルールをやさしく解説
- 第3回:農振とは?農地転用との違いと農振除外の流れ・期間を解説
- 第7回:新規就農にはどんなお金が必要?資金調達と支援制度を解説
- 第9回:農産物を作った後はどう売る?販売方法と契約・取引の基本
- 第10回:漁業権とは?仕組みと新規参入の基本を農地法と比較
- 第11回:漁師になるには?新規漁業就業者向け研修・支援制度と独立資金
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🔗参考記事
2026年9月30日に確認した公表資料をもとに作成しています。個別の許可条件や申請時期は、担当窓口で最新情報をご確認ください。
- 水産庁「漁業法」
- 水産庁「大臣許可漁業の許可又は起業の認可に関する手続について」
- 水産庁「大臣許可漁業の許可に関する情報の公開について」
- 福岡県「漁業調整規則」
- 福岡県「漁船登録について」
- 九州漁業調整事務所「漁業権について」
- 水産庁「海業支援パッケージ・海業振興総合相談窓口」
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