【農業コラム】米国産「生ジャガイモ」の輸入解禁をめぐる動き|いま何が検討されている?

アメリカ産の「生ジャガイモ」について、一般流通用としての輸入を認めるかどうか、農林水産省とアメリカとの間で検疫協議が進められています。

この問題を伝える記事の中には、見出しだけを見ると、すでに輸入解禁が決まったかのように感じられるものもあります。

しかし、2026年9月9日現在、米国産の一般流通用生鮮ばれいしょの輸入解禁が決定したわけではありません。

現在は、輸入によって日本国内へ持ち込まれる可能性がある病害虫を確認し、それらの侵入を防ぐために、どのような対策が必要なのかを検討している段階です。

では、いま何が検討され、なぜ生産者から懸念の声が上がっているのでしょうか。

今回は、農林水産省と植物防疫所が公表している資料をもとに、米国産生鮮ばれいしょをめぐる現在の状況をご紹介します。

※本記事は、2026年9月9日時点で公表されている情報をもとに作成しています。

米国産「生ジャガイモ」をめぐり、いま何が起きている?

農林水産省の資料によると、アメリカは以前から、米国産生鮮ばれいしょに対する日本の輸入禁止措置を解除するよう求めてきました。

2006年には、用途をポテトチップ加工用に限定し、一定のリスク管理措置を講じることを条件として、一部の輸入が認められました。

その後、2020年に、アメリカ側から一般流通用の生鮮ばれいしょについて、改めて輸入解禁の要請が行われました。

ここでいう「一般流通用」とは、現在認められているポテトチップ加工用のように、輸入後の搬入先や用途を特定の加工施設に限定するものではなく、より広く一般に流通することを想定したものです。

農林水産省は現在、病害虫のリスク評価を行い、リスク管理措置についてアメリカ側と協議する必要がある病害虫を特定しています。

ポイント
米国産の一般流通用生鮮ばれいしょについて、具体的な輸入条件やリスク管理措置は、現時点では決まっていません。

生ジャガイモの輸入は、なぜ原則禁止されている?

海外から植物や農産物を輸入すると、その植物や土などに付着した病害虫が、日本国内へ持ち込まれる可能性があります。

一度侵入した病害虫が国内に定着すると、農作物への被害が広がり、生産者の営農や地域の農業に長期的な影響を与えるおそれがあります。

そこで、植物防疫法に基づく植物検疫によって、病害虫が国内へ侵入することを防いでいます。

植物検疫は、輸入されたジャガイモを食べた人の健康への影響を確認する食品衛生上の仕組みとは、目的が異なります。日本の農作物や農地を、海外から侵入する病害虫から守ることが、植物検疫の主な目的です。

生のジャガイモは、病害虫が付着している可能性があるだけでなく、土に植えれば芽が出て栽培できる植物でもあります。

そのため、食用として輸入されたものであっても、どのように流通し、どのように扱われるのかは、病害虫の侵入を防ぐうえで重要な問題となります。

米国産の生ジャガイモは、現在も一部輸入されている

米国産の生鮮ばれいしょが、現在まったく輸入されていないわけではありません。

2006年から、ポテトチップ加工用に限り、厳しい条件のもとで輸入が認められています。

植物防疫所が公表している基準や実施細則では、主に次のような条件が定められています。

  • 一定の要件を満たす指定生産地域で生産されたものであること
  • 生産地で病害虫や土の付着について検査を受け、植物検疫証明書が添付されていること
  • 密閉型コンテナを使用して輸入すること
  • 日本への到着後は、指定された加熱加工施設へ速やかに輸送すること
  • ジャガイモや加工時に発生する残さが、施設の外部へ漏れない設備を備えていること
  • ジャガイモを薄切りにし、130度以上の油で2分間以上加熱すること
  • 加工後の残さ、包装資材、使用した器具などを焼却または同等の方法で処理すること

さらに、日本向けの生産農地や集荷・包装施設の指定、栽培期間中の調査、シストセンチュウを対象とした土壌検診なども行われます。

つまり、現在認められているポテトチップ加工用の生鮮ばれいしょは、一般の流通から分けられ、輸入から加熱処理までを管理する仕組みのもとで取り扱われています。

今回検討されている「一般流通用」は何が違う?

現在認められているポテトチップ加工用と、今回協議されている一般流通用では、輸入後の流通や取扱いが大きく異なります。

現在認められているもの今回協議されているもの
ポテトチップ加工用一般流通用
指定された加熱加工施設へ輸送より広く一般に流通することを想定
加熱加工が前提具体的な輸入条件は検討中
密閉輸送や残さの処理などを実施必要なリスク管理措置を協議中

一般の流通に乗ることになれば、現在のポテトチップ加工用と比べて、輸入後にどこで、誰が、どのように取り扱うのかという範囲が広がります。

そのため、一般流通を認める場合に、病害虫の侵入リスクをどのような方法で抑えるのかが重要な検討事項になります。

注意点
一般流通用の具体的な輸入条件やリスク管理措置は、まだ決定していません。

どのような病害虫が検討されている?

農林水産省は、病害虫リスク評価の結果に基づき、アメリカ側とリスク管理措置を協議する必要がある病害虫として、21種類を挙げています。

その中には、コロラドハムシ、ジャガイモシストセンチュウ、ジャガイモシロシストセンチュウのほか、菌類、細菌、ウイルス、ウイロイドなどが含まれています。

例えば、ジャガイモシストセンチュウやジャガイモシロシストセンチュウは、ジャガイモなどの根に寄生する害虫です。農林水産省の資料では、シストと呼ばれる状態で長期間生存できる性質があると説明されています。

また、葉を食害するもの、塊茎を食害する可能性があるもの、土壌や貯蔵施設を通じて広がるものなど、それぞれ性質が異なります。

21種類が挙げられていることは、これらの病害虫が必ず日本へ侵入することを意味するものではありません。現在は、それぞれの病害虫について、侵入の可能性や想定される影響を評価し、どのようなリスク管理措置が必要なのかを検討している段階です。

生産者から懸念の声が上がっている

米国産の一般流通用生鮮ばれいしょをめぐっては、北海道や長崎県などの産地、生産者団体から懸念の声が上がっています。

農林水産大臣の記者会見では、産地から寄せられた意見として、病害虫の侵入リスクを本当に抑えることができるのか、関係者へ丁寧に説明してほしい、輸入を前提として協議を進めているのではないか、といった声が紹介されました。

農林水産省は、相手国から輸入解禁の要請があった場合、WTOのSPS協定に基づき、科学的知見をもとに協議を行う必要があると説明しています。

その一方で、日本の農業に悪影響を与えるおそれのある病害虫が侵入しないよう、慎重に協議へ対応する方針も示しています。

科学的なリスク評価を進めることと、実際に農業を営む生産者の懸念に耳を傾けること。その両方が必要ではないでしょうか。

輸入解禁に向けた手続きは、現在どの段階?

農産物の輸入解禁は、相手国から要請があっただけで直ちに決定されるものではありません。

農林水産省の資料によると、主に次のような手続きが予定されています。

  1. 相手国から輸入解禁の要請を受ける
  2. 検疫対象となり得る病害虫を特定する
  3. 病害虫リスク評価を行う
  4. 必要なリスク管理措置を検討し、相手国と協議する
  5. 植物防疫検討会を開催する
  6. 学識経験者や利害関係者などから意見を聴く
  7. 必要となる解禁条件や法令改正案を検討する
  8. パブリックコメントを実施する
  9. 必要な法令改正を経て輸入を解禁する

米国産の一般流通用生鮮ばれいしょについては、病害虫リスク評価の結果が取りまとめられ、現在は、リスク管理措置についてアメリカ側と協議する必要がある病害虫を特定した段階です。

今後、どのようなリスク管理措置が検討されるのか、その措置によって病害虫の侵入をどこまで防ぐことができるのかが、大切な確認点になります。

9月18日に全国説明会が開催される

農林水産省は、2026年9月18日に、米国産一般流通用生鮮ばれいしょの検疫協議について、全国向けのオンライン説明会を開催します。

  • 日時:2026年9月18日(金)13時~14時30分
  • 開催方法:Microsoft Teamsによるオンライン開催
  • 申込期限:2026年9月11日(金)10時

説明会では、病害虫リスク評価など、検疫協議の進捗状況について説明される予定です。

説明会に関心のある方へ

開催内容や申込方法は、農林水産省の公式案内をご確認ください。
米国産一般流通用生鮮ばれいしょの検疫協議の進捗状況に関する説明会の開催について(農林水産省)

また、全国説明会とは別に、主産地の農業関係者から意見を聞くための説明や意見交換も行われています。

全国説明会で、具体的なリスク管理措置についてどこまで示されるのかは、現時点では分かりません。まずは現在の状況について、どのような説明が行われるのかを確認する必要があります。

まとめ|現在の事実を知り、今後の動きを確認する

米国産の一般流通用生鮮ばれいしょについては、輸入検疫協議が進められていますが、2026年9月9日現在、輸入解禁が決定したわけではありません。

現在、米国産の生鮮ばれいしょは、ポテトチップ加工用に限り、指定生産地域での検査、密閉輸送、指定施設での加熱加工など、厳しい条件のもとで輸入されています。

今回協議されている一般流通用については、病害虫リスク評価の結果が取りまとめられ、今後必要となるリスク管理措置を検討している段階です。

海外との農産物の取引を進めることと、日本の農地や農作物を病害虫から守ること。

その双方を考えながら、科学的な検討を重ねるとともに、実際に農業を営む生産者へ丁寧に説明し、その声を聞くことが求められます。

見出しだけを見て、「輸入解禁が決まった」と受け取るのではなく、現在どの段階にあり、何が決まっていて、何がまだ決まっていないのかを確認することが大切です。

今後、どのようなリスク管理措置が示されるのか、そして生産者の懸念にどのように向き合っていくのか、引き続き公表される情報を確認していきたいと思います。

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