漁業権とは?仕組みと新規参入の基本を農地法と比較

農業を始める場合、まず思い浮かぶのは農地の確保です。農地を購入したり借りたりするときは、農地法などに基づく手続きが必要になります。

それでは、漁業を始める場合はどうでしょうか。海の一部を購入したり、借りたりするのでしょうか。

ここで登場するのが「漁業権」です。

もっとも、漁業権は海そのものを所有する権利ではありません。また、漁業を始めるすべての人に漁業権が必要になるわけでもありません。漁業の種類や操業する場所によって、漁業権のほか、許可や届出など異なる仕組みが関係します。

今回は、水産業支援シリーズの新しい入口として、沿岸漁業への参入を考えるうえで避けて通れない「漁業権」の仕組みと、新規参入の基本を見ていきます。農地との違いも比べながら、まずは全体像をつかんでいきましょう。

1.漁業権とは、海を所有する権利?

水産庁は、漁業権を「一定の水面において特定の漁業を一定の期間排他的に営む権利」と説明しています。

大切なのは、漁業権が海や湖などの水面そのものを所有する権利ではないという点です。決められた水面で、決められた漁業を営むことができる権利であり、対象となる区域、漁業の種類、存続期間などが定められています。

海の権利なのに「土地に関する規定」を準用?

漁業法を読むと、少し意外に感じる条文があります。

漁業法第77条(漁業権の性質)

漁業権は、物権とみなし、土地に関する規定を準用する。

海に関する権利であるのに、「物権とみなし、土地に関する規定を準用する」とされています。ここは、思わず「へぇ~!」と感じるところではないでしょうか。

物権とは、物を直接支配し、その権利を第三者にも主張できる権利です。代表的なものとして、土地や建物の所有権があります。

漁業権は土地の所有権ではありませんが、一定の水面で特定の漁業を排他的に営むという性質を持つため、その権利を安定的に保護する目的で物権とみなされています。

漁業権に基づく漁業を妨げる行為に対しては、妨害の排除や予防を求めることができ、態様によっては漁業権侵害罪が成立する可能性もあります。単なる営業上の期待ではなく、法律上、強く保護された権利なのです。

ここがポイント

漁業権は「海を所有する権利」ではなく、「決められた水面で、決められた漁業を営む権利」です。物権とみなされますが、土地の所有権と同じように自由に売買・貸借できるわけではなく、漁業法上の制限を受けます。

2.漁業権には3つの種類がある

漁業権は、定置漁業権、区画漁業権、共同漁業権の3種類に分けられます。名前だけでは違いが分かりにくいため、まずは「何を、どのように営む権利なのか」に注目してみましょう。

①共同漁業権

共同漁業権は、一定の水面を地域の漁業者が共同で利用して漁業を営むための権利です。採貝・採藻などが代表例で、共同漁業権は漁業協同組合などに免許されます。

海岸でアワビ、サザエ、ナマコや海藻などを採る行為が問題になることがあるのは、これらが共同漁業権の対象となっている場合があるためです。「少しだけなら」「自分で食べるだけなら」と思っても、自由に採ってよいとは限りません。

対象となる水産動植物や区域は地域によって異なるため、現地のルールを確認する必要があります。

②区画漁業権

区画漁業権は、一定の区域内で養殖業を営むための権利です。のりやわかめなどの藻類養殖、かきやほたてなどの貝類養殖、いけすを使った魚類養殖、真珠養殖などが該当します。

新しく養殖業へ参入したいと考える場合には、特に関係の深い漁業権です。ただし、養殖したい魚介類や養殖方法、漁場の状況によって必要な権利や調整は異なります。

③定置漁業権

定置漁業権は、一定の水面に大型の定置網を設置して漁業を営むための権利です。魚が通る場所に継続的に大きな漁具を設置するため、ほかの漁業や船舶の航行などとの調整が必要になります。

種類主な内容身近な例
共同漁業権地域の漁業者が一定の水面を共同で利用貝類・海藻などの採捕
区画漁業権一定の区域内で養殖業を営むのり、かき、魚類、真珠などの養殖
定置漁業権大型の定置網を設置して漁業を営む大型定置網による漁業

3.漁業権はどのように設定される?

漁業権は、空いている海を見つけた人が、いつでも自由に取得できる仕組みではありません。

都道府県は、漁場の自然的条件や利用状況などを踏まえ、海区漁場計画や内水面漁場計画を作成します。そこに、どの水面で、どのような漁業権を設定するのかが定められ、計画に基づいて都道府県知事が免許を行います。

計画案の作成に当たっては、利害関係人の意見を聴く手続きや、海区漁業調整委員会などの意見を聴く手続きも設けられています。

漁場の状況や要望の把握漁場計画案の作成関係者からの意見聴取漁場計画の決定免許申請都道府県知事による免許

漁業権には存続期間があります。そのため、いったん免許を受ければ永久に同じ権利が続くわけではありません。

現在の漁業権者が漁場を適切かつ有効に活用している場合は、その継続利用に配慮し、それ以外の場合には、地域の水産業の発展に最も寄与すると認められる者へ免許する仕組みとなっています。

4.漁協に入らなければ漁業はできない?

「漁業をするには、必ず漁協へ入らなければならない」と思われることがあります。しかし、すべての漁業について漁協加入が法律上一律に必要とされているわけではありません。

共同漁業権のように漁協などへ免許される漁業権のもとで漁業を営む場合は、その漁協の組合員となり、漁業権行使規則などに従って操業する形が一般的です。

これに対して、区画漁業権や定置漁業権は、個人や法人が都道府県知事から直接免許を受ける場合もあります。

また、漁協に加入したからといって、その地域で行われているすべての漁業を自由に営めるわけではありません。漁協への加入資格と、漁業権を実際に行使できる条件は分けて確認する必要があります。

地域の実情や漁業の種類によって取扱いが異なるため、漁協と都道府県の水産担当部署の双方へ相談することが大切です。

5.新しく漁業へ参入するには?

新規参入を考えるとき、最初から「漁業権を取得したい」と決めるのは早いかもしれません。漁業を営む仕組みは、漁業権だけではないからです。

漁業の種類によっては、農林水産大臣や都道府県知事の許可を受けて行う許可漁業、届出をして行う漁業などもあります。

まずは、「どこで、何を、どのような方法で採る、または養殖するのか」を具体的にすることが出発点です。例えば、漁船で魚を獲るのか、定置網を設置するのか、のりやかきを養殖するのか、共同漁業権のもとで採貝・採藻を行うのかによって、確認すべき制度は変わります。

参入前に整理したいこと

  • どの地域・水域で行いたいのか
  • 何を採捕し、または養殖したいのか
  • どのような漁具、漁法、漁船を使うのか
  • 個人で行うのか、法人で行うのか
  • 漁協の組合員として行う方法を考えるのか
  • 漁船、設備、技術、資金、販路をどのように確保するのか

これらを整理したうえで、都道府県の水産担当部署、地域の漁協、市町村などへ早い段階で相談します。漁場に空きがあるか、免許や許可を受けられる可能性があるかだけでなく、地域の操業ルールや既存の漁業者との調整についても確認が必要です。

新規参入で大切なこと

制度上参入できる可能性があることと、その地域で実際に漁業を始められることは同じではありません。法令上の手続きに加え、漁場の利用状況、資源管理、技術、設備、販路、地域との関係まで含めて考える必要があります。

6.農地法と漁業権を比べてみよう

農業と漁業は、どちらも自然を相手にする産業ですが、生産の基盤となる場所に対する権利の考え方は異なります。

比較する点農業漁業
利用する場所農地海、湖、河川などの水面
主な制度農地法など漁業法など
権利の考え方所有権や賃借権などに基づき農地を利用一定の水面で特定の漁業を営む権利
主な行政手続き農業委員会の許可、農用地利用集積等促進計画など都道府県知事等による免許・許可など
地域との関係地域計画、農業委員会、農地中間管理機構など漁場計画、海区漁業調整委員会、漁協など
新規参入時の入口利用できる農地を確保できるか希望する水域・漁業に必要な免許や許可等は何か

共通しているのは、農地も漁場も限りある生産基盤であり、場所があるからといって、誰でも自由に事業を始められるわけではないことです。資源の保全や利用の調整、地域の実情を踏まえた制度が設けられています。

一方、大きな違いは、農業では農地について所有権や賃借権などを取得して利用するのに対し、漁業権は水面の所有権を取得するものではないことです。

それでも、一定の水面で特定の漁業を安定して営めるよう、漁業法第77条によって物権とみなされています。

7.漁業権だけでは漁業を始められない

漁業権や漁業許可は重要ですが、それだけで漁業経営が始められるわけではありません。

漁船や漁具、養殖施設、漁業技術、漁港や作業場所、水揚げ後の保管や加工、市場や販売先、資金調達なども必要です。さらに、資源管理や地域ごとの操業ルールにも対応しなければなりません。

農業で農地を確保するだけでは経営が成り立たないのと同じように、漁業でも、漁業権や許可は参入に必要な条件の一つです。制度上の入口と、事業として継続できるかどうかは分けて考える必要があります。

新しく漁業へ参入する場合は、希望する漁業の内容を明確にしたうえで、行政、漁協、地域の漁業者、金融機関や支援機関などと相談しながら、事業全体を組み立てていくことが大切です。

まとめ|漁業への新規参入は、地域と漁業の種類を知るところから

漁業権は、海そのものを所有する権利ではありません。一定の水面で、特定の漁業を一定の期間、排他的に営むための権利です。漁業法上は物権とみなされ、土地に関する規定が準用されるという、強い法的性質を持っています。

漁業権には、共同漁業権、区画漁業権、定置漁業権の3種類があります。しかし、漁業を始めるための仕組みは漁業権だけではなく、漁業の種類によって許可や届出などが必要になる場合もあります。

そのため、新規参入を考える場合は、まず「どこで、何を、どのような方法で行いたいのか」を整理し、都道府県の水産担当部署や地域の漁協などへ相談することが第一歩です。

農業と同じように、漁業も制度だけを知れば始められるものではありません。地域の実情を知り、関係者と調整し、技術や設備、資金、販路まで含めて準備する必要があります。水産業への新規参入は、その地域の海と漁業を知るところから始まります。

次回予告

次回は、漁業権とは別に関係する「漁業許可」や漁船登録など、漁業を始めるために確認したい制度の全体像をご紹介します。

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