陸上養殖とは?身近な水産物の育て方と、始める際の届出・手続を解説

「陸上養殖」と聞くと、建物の中に大きな水槽が並び、機械で水温や水質を管理している施設を思い浮かべるかもしれません。

けれども、海沿いで見かけるクルマエビの養殖池や、ウナギを育てる池や水槽も、陸上養殖の一つです。沖縄の食材として親しまれる海ぶどうも、陸上で育てられています。

新しい技術のように感じていたものが、実は身近な食材を以前から支えていた。そのことを知ると、陸上養殖の見え方も少し変わってきます。

前回は、サーモンとクロマグロの養殖を取り上げました。今回は、陸上で水産物を育てる仕事に目を向け、水の使い方や現場の取組、事業を始める際の手続を見ていきます。

1.陸上養殖とは?建物の中だけではない育て方

陸上養殖は、陸上に設けた水槽や池などで、水産物を育てる方法です。屋内の施設もあれば屋外の池もあり、使う水も海水や淡水など、育てるものによって異なります。

日本では、ウナギやマス類、海沿いでのヒラメやクルマエビなど、以前からさまざまな陸上養殖が行われてきました。

その土地で得られる水を使い、育てるものに合った環境を整える。こうした営みに、水を浄化して再利用する設備や、飼育環境をデータで把握する技術が加わっています。

「陸上養殖」という一つの言葉の中に、地域の自然条件を生かした育て方と、新しい技術を取り入れた育て方の両方があるのですね。

なお、前回紹介した「完全養殖」は、卵から育てた魚が親となり、次の世代へ繁殖をつなぐ仕組みを指します。「陸上養殖」は育てる場所に関する言葉なので、意味は異なります。

2.何を育てている?身近な食材から見てみよう

ウナギ―食卓を支えてきた陸上養殖

蒲焼きなどで親しまれているウナギも、陸上の池や水槽で育てられています。

売り場や飲食店で目にする機会はあっても、その育つ場所までは、普段あまり意識しないかもしれません。ウナギを思い浮かべると、陸上養殖が身近な食卓につながっていることを感じられます。

ウナギの養殖には、独自の許可制度があります。必要な手続については、後ほど紹介します。

クルマエビ―海のそばでも、育つ場所は陸上の池

海沿いを走っていると、広い養殖池を見かけることがあります。そこで海水を取り入れ、クルマエビを育てている場合も、陸上養殖に当たります。

海のすぐそばにあり、使う水も海水。それでも、海の生け簀で育てる方法とは異なるのです。

「海に近いかどうか」よりも、「どのような場所で、どのように水を使って育てているか」に目を向けると、違いが分かりやすくなります。

ただし、海の一部を堤防などで囲った施設は、構造や海とのつながり、漁業権などの条件を個別に確認する必要があります。

海ぶどう―あの食感を育てる場所も陸上に

沖縄の食材として知られる海ぶどうも、陸上養殖で生産されています。

水産庁の資料では、2026年1月1日時点の陸上養殖業の届出件数は全国で808件。都道府県別では沖縄県が195件で最多となっています。また、全国の養殖種類別の延べ件数では、海ぶどうが172件で最も多くなっています。

沖縄県の195件は県内の届出数、海ぶどうの172件は全国の届出数です。届出の対象にならない養殖もあるため、この数字は陸上養殖全体の一部を示しています。

海ぶどうのぷちぷちとした食感は知っていても、育てられている場所までは知らなかった、という方もいるのではないでしょうか。陸上養殖の対象は、魚だけではないのですね。

サーモン―海でも陸上でも育てられる

前回取り上げたサーモンにも、海の生け簀で育てる方法と、陸上施設で育てる方法があります。

同じサーモンでも、魚の種類や育成段階、地域の条件によって育て方は変わります。陸上に水槽を置くだけではなく、魚に合った水温や水質を保つことが、日々の仕事になります。

3.水はどう使う?かけ流し式と循環式

陸上で水産物を育てるには、まず水を確保し、その水を育てるものに合った状態に保ちます。

そこで違いが生まれるのが、水の使い方です。代表的な方式を整理すると、次のようになります。

方式水の使い方
かけ流し式海水や地下水などを取り入れ、使用した水を排出する
半閉鎖循環式飼育水の一部を浄化して再利用する
閉鎖循環式ろ過装置などで飼育水を浄化し、繰り返し使う

魚に餌を与えると、食べ残しや排せつ物などが水の中に生じます。そのままにしておけば、飼育環境は変わってしまいます。水を取り替える、汚れを取り除く、水中の酸素を確保する。魚の成長は、こうした管理に支えられています。

閉鎖循環式では、水を浄化して繰り返し使います。ただし、水の補充や交換、排水が一切なくなるという意味ではありません。

💡陸上養殖のすべてが閉鎖循環式ではありません

十分な水を得られるのか、魚に合った水温を保ちやすいのか。設備の特徴だけでなく、その土地の条件も育て方につながっています。

4.環境を管理する技術と、それを支える人の経験

海水温の変化や波浪などの影響を受けにくい陸上養殖には、水産物の安定生産への期待が寄せられています。

水温や水質を調整できれば、魚の成長や出荷の見通しを立てやすくなります。一方で、その環境を保つためには、設備を動かし、日々の変化を見ていく仕事があります。

そこで活用されているのが、センサーや通信技術です。

日本財団の記事で紹介されているNTTアクアは、沖縄の事業者が培ってきた養殖技術をデータ化し、遠隔から技術指導やフォローを行う仕組みづくりに取り組んでいます。

経験のある人が現地に行かなくても、飼育状況を共有できれば、その知識を別の場所へ届けられます。技術を使うことが、人の経験を広げることにもつながるのですね。

それでも、現場では魚の状態に応じた判断や工夫が残ります。データと、日々魚を見ている人の経験。その両方が、陸上養殖を支えています。

補足|管理した環境なら、フグは毒を持たない?

餌や飼育環境の管理に関する例として、トラフグの研究があります。毒を含む生物を取り込まないように育てることで、毒が検出されない個体を生産した研究が報告されています。

これは、陸上で育てれば、どのフグも無毒になるという意味ではありません。また、研究で毒が検出されなかったことと、食品として販売・提供できることは別です。

現在も、フグの肝臓は天然・養殖を問わず販売や提供が禁止されています。養殖でも、食用にできる種類や部位、適切な処理のルールを守ります。

5.個人でも取り組める?現場の挑戦と、続けるための費用

大規模な陸上養殖施設のニュースを見ると、「個人では難しいのでは」と感じることがあります。

水槽や浄化設備を整える費用に加え、水を送るポンプや水温調整などに使う電力もかかります。日本財団の記事でも、設備や運営の費用、魚種の選び方、販路づくりが課題として挙げられています。

一方で、地域の水を生かし、個人が営んできた養殖もあります。栃木県の清滝養鱒場は、マスを育てて地元のホテルや料亭へ供給する事業を、個人事業として築いてきた例です。その仕事は、その後、ホテルを経営する会社へ承継されています。

経験を生かし、小規模な陸上養殖に取り組む人も

熊本県天草市の平山千一さんは、約40年間ブリ養殖に携わってきた経験を生かし、小規模なサーモン陸上養殖に取り組んでいます。

「平山サーモン」のInstagramでは、飼育の様子や餌の工夫を紹介しています。クラウドファンディングも活用し、寄せられた支援を稚魚代や餌代に充てると報告しています。

陸上養殖には、こうして現場の経験を生かしながら、新しい育て方に挑戦する漁業者の姿もあります。

育てた魚を、販売につなげるまで

こうした挑戦を続けていくには、魚を育てる技術に加え、日々の費用をまかない、育てた魚を販売につなげる仕組みも欠かせません。

稚魚を入れてから出荷するまでの間にも、餌代や電気代などの支出は続きます。どこへ、どのくらいの量を、いくらで届けるのか。育て始める前から、販売までの道筋を考えておくことが、資金の見通しにもつながります。

また、毎日の管理を少人数で担うなら、担当者が不在のときや、停電・故障が起きたときの備えも考えておきたいところです。

個人か大企業かだけで、向き不向きが決まるわけではありません。地域の水や気候、これまでの経験、管理できる規模、販売先。それらを組み合わせながら、続けられる形を探していく仕事でもあるのです。

6.始める前に確認したい届出と行政手続

陸上養殖の計画を立てるときは、育て方や設備とともに、必要な手続も確認します。

同じように水槽で育てていても、使う水や育てるものによって、制度上の扱いが変わります。

陸上養殖業の届出―使う水や排水の方法で変わる

2023年4月から、「内水面漁業の振興に関する法律」に基づく陸上養殖業の届出制度が始まりました。

養殖場の所在地や養殖方法を把握し、排水などによる周辺環境への影響も踏まえて、陸上養殖を持続的に発展させていくための制度です。

食用の水産物を育てる陸上養殖のうち、海水や塩分を加えた水などを使うもの、閉鎖循環式のもの、餌や排せつ物などを取り除かずに排水するものなどが対象になります。ウナギは、後述する別の制度で扱われます。

例えば、海水を使って食用のクルマエビを育てる陸上養殖は、排水から餌の残りなどを取り除いていても対象です。

一方、淡水かけ流し式では、川の水などに塩分を加えるといった処理をせず、餌の残りや排せつ物などを取り除いて排水する場合、届出の対象外となります。

ただし、水をきれいにして再利用する場合などは、処理の方法によって扱いが変わります。使う水と排水の方法を、届出窓口へ確認しておくと安心です。

なお、制度名に「内水面」とありますが、淡水の養殖だけを指しているわけではありません。陸上で海水を使う養殖も含まれます。

種苗生産―養殖の出発点を育てる仕事

養殖では、食用の大きさまで育てる人だけでなく、その前の段階を支える人もいます。

養殖の出発点となる稚魚などを「種苗(しゅびょう)」といい、それらを育てて養殖業者へ供給する仕事が「種苗生産」です。この種苗生産は、陸上養殖業の届出制度の対象外となっています。

ただし、種苗生産を行う事業者でも、一部を食用に育てて出荷する場合は、その部分について届出が必要です。

同じ施設で育てていても、何のために生産するのかによって、確認する内容が変わります。

開始前の届出と、毎年度の実績報告

届出対象の事業を新たに始める場合は、開始日の1か月前までに、養殖場の所在地を管轄する都道府県知事へ開始届出書を提出します。

始めた後は、4月1日から翌年3月31日までの実績を、年度終了後の4月30日までに報告します。変更や廃止などに伴う手続もあるため、日々の生産記録を残しておくことが、報告の準備にもつながります。

ウナギには、独自の許可制度がある

ウナギも陸上養殖の一つですが、ここで紹介した届出制度には含まれません。

ウナギ養殖業は、農林水産大臣の許可を受ける別の制度で扱われます。ウナギ資源を持続的に利用するため、養殖池に入れるウナギの量などを管理する仕組みです。

「陸上養殖」という育て方の名称だけでは、必要な手続は決まりません。育てる種類も含めて、自分の計画に合う制度を確認します。

土地を決める前に、水や施設の条件も確認する

使えそうな土地や建物が見つかると、そこで養殖する様子を思い描きたくなります。けれども、施設を設けられるか、水を確保して排水できるかは、先に確認しておきたいところです。

農地であれば、農地転用や農振除外の要否を確認します。建物を設ける場合には、建築や土地利用の規制も関わります。取水や井戸の設置、排水は、水源や排出先、地域の規制によって確認事項が変わります。

加工や販売まで行うなら、その内容に応じた食品衛生関係の手続も考えます。

土地の契約や設備の購入前に、「何を、どの水で、どのように育て、どう販売するのか」を関係窓口へ伝えて相談すると、計画に必要な手続を整理しやすくなります。

補足|同じハウスでも、農作物と水産物で扱いが違う?

農地の底面をコンクリートなどで覆い、ハウス内で水耕栽培などを行う「農作物栽培高度化施設」という制度があります。

一定の基準を満たし、あらかじめ農業委員会へ届け出ることで、施設内での農作物の栽培を耕作とみなし、農地として扱います。この制度では、農地転用許可を受けずに底面を覆うことができます。

ところが、同じようなハウスの中に水槽を置いて、魚やエビ、海ぶどうを育てる陸上養殖には、そのまま使える制度ではありません。

施設の見た目は似ていても、中で何を育てるかによって、農地法上の扱いが変わるのです。

農地を守るという制度の目的がある一方、使われていない土地を地域の生産や仕事につなげる視点もあります。農地の保全と、地域に合った土地活用をどう両立するか。施設の違いを調べていくと、こうした課題にも目が向きます。

7.まとめ―育て方を知ると、食卓の向こうの仕事が見えてくる

ウナギの池や水槽、クルマエビの養殖池、海ぶどうを育てる施設。陸上養殖は、思っていたよりも身近なところで、私たちの食卓を支えています。

その育て方は一つではありません。地域の水を使う方法もあれば、設備で水を浄化して繰り返し使う方法もあります。どの方法にも、育てるものに合った環境を保つための仕事があります。

新しい技術を開発する企業、経験を生かして挑戦する漁業者、種苗を育てる人、販売を担う人。陸上養殖は、さまざまな人の仕事によって成り立っています。

費用や行政手続など、続けていくために考えることも少なくありません。それでも、地域の資源や経験を生かしながら、これからの育て方を探っている人たちがいます。

売り場に並ぶ水産物の向こうに、どのような場所と仕事があるのか。陸上養殖を知ることは、身近な食材を少し違った目で見るきっかけになるのではないでしょうか。

📚過去記事

農業分野・シリーズの入口(第1~9回)|クリックで開く

水産業分野(第10回~)

🔗参考記事

※本記事は2026年10月14日時点で確認できた公表資料をもとに作成しています。統計や研究結果、事例は各資料時点の情報です。必要な手続は、養殖する種類・方法・施設・所在地などによって異なります。

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