漁業・養殖業に必要なお金とは?資金調達と支援制度を解説

漁業や養殖業を始めるには、どのくらいのお金が必要なのでしょうか。

漁業では漁船や漁具、養殖業ではいけすや水槽などの設備が必要になります。しかし、事業を始めるための設備を整えれば、それで終わりというわけではありません。

漁船を動かすための燃料代、養殖魚を育てるための餌代、設備の維持管理費や人件費など、経営を続けるためにはさまざまな費用がかかります。

さらに近年は、海水温の上昇による魚の分布の変化や不漁、燃油・餌料価格の高騰など、水産業を取り巻く経営環境も変化しています。

こうした状況のなかで、事業を始めるための資金を確保することはもちろん、安定した経営を続けるための備えも重要です。

今回は、漁業・養殖業に必要なお金の種類から、融資や補助金、収入減少に備える制度まで、基本的な仕組みを分かりやすくご紹介します。

1.漁業・養殖業にはどのようなお金が必要?

漁業や養殖業に必要なお金は、大きく「設備資金」と「運転資金」に分けられます。

設備資金とは、事業を始めたり、設備を新しくしたりするために必要なお金です。

漁業であれば漁船や漁具、魚群探知機などの購入費用、養殖業であればいけすや水槽、給餌設備、水質管理設備などが該当します。

一方、運転資金とは、日々の事業活動を続けるために必要なお金です。

漁業では燃料費や漁具の修繕費、人件費など、養殖業では種苗(稚魚など)の購入費用、餌代、電気代、人件費などが必要になります。

特に養殖業では、魚を育て始めてから出荷するまでに一定の期間が必要です。その間、売上げがなくても餌代や設備の維持費などの支払いは続きます。

前回までにご紹介した陸上養殖でも、水を循環させる装置や水温を管理する設備などへの投資に加え、電気代などの維持費が経営に大きく関わってきます。

💡ポイント

漁業や養殖業では、事業を始めるための「設備資金」と、事業を続けるための「運転資金」の両方を考えておく必要があります。

2.経営を続けるために大切な「資金繰り」

事業を続けるうえで、もう一つ大切なのが「資金繰り」です。

資金繰りとは、入ってくるお金と出ていくお金の時期や金額を把握し、必要な支払いができるように管理することです。

例えば、養殖業では、稚魚を購入してから出荷できる大きさに育つまで、餌代や電気代などの支払いが続きます。

また、漁業では、天候によって出漁できない日が続いたり、漁獲量が少なかったりすると、予定していた収入が得られないこともあります。

さらに、魚を販売しても、その代金がすぐに入金されるとは限りません。

帳簿上は利益が出ていても、売上代金が入金される前に燃料代や人件費などの支払期限が来れば、手元のお金が不足する場合があります。

💡ポイント

売上げや利益だけでなく、「いつ、いくらのお金が入り、いつ、いくらの支払いが必要になるのか」を把握しておくことが重要です。

設備投資や借入れを検討する際にも、将来の収支だけでなく、日々の資金繰りを見通した計画が必要になります。

3.必要な資金はどのように調達する?

漁業や養殖業の資金調達には、いくつかの方法があります。

まず基本となるのが、自己資金です。

自己資金は返済の必要がないため、借入れによる返済負担を抑えることができます。ただし、手元の資金をすべて設備投資に使ってしまうと、その後の運転資金が不足するおそれがあります。

次に、金融機関からの借入れがあります。

漁業や養殖業では、設備投資にまとまった資金が必要になることも多く、公的な融資制度を含め、借入れが重要な資金調達手段となります。

借入れには返済義務がありますので、売上げの見込みや資金繰りを踏まえ、無理のない返済計画を立てることが大切です。

さらに、国や自治体などが実施する補助金・助成金も、資金調達の選択肢になります。

ただし、補助金は一定の目的や条件に沿った取組を支援するもので、申請すれば必ず受け取れるわけではありません。

また、多くの補助金は、事業者が先に経費を支払い、実績報告などを経て補助金が交付される仕組みです。

⚠️注意点

補助金の交付を予定していても、支払いの時点で必要なお金を準備できるとは限りません。補助金が入金されるまでの資金繰りも考えておく必要があります。

4.漁業・養殖業で利用を検討できる公的融資制度

漁業や養殖業では、漁船や養殖施設などの購入にまとまった資金が必要になることがあります。

こうした資金を準備する方法として、国や自治体が関係する公的な融資制度があります。

代表的な制度を3つご紹介します。

日本政策金融公庫の農林水産事業

日本政策金融公庫では、農業・林業・水産業を営む方などを対象に、事業に必要な資金の融資を行っています。

水産業では、漁船や養殖施設などの設備投資、経営改善など、目的に応じた融資制度が設けられています。

例えば、漁業経営改善支援資金は、認定された漁業経営改善計画に従って経営改善に取り組む漁業者などを対象とする制度です。

利用できる資金の種類や融資条件は、事業内容や経営状況などによって異なります。

漁業近代化資金

漁業近代化資金は、漁業者などが設備を整え、経営の近代化を進めるための長期・低利の融資制度です。

漁船の建造や取得、漁具、養殖施設、水産物の加工・保蔵施設などが主な対象となります。

漁業協同組合系統の金融機関などによる融資に対して、国や都道府県が利子補給を行う仕組みです。

養殖業では、一定の種苗や餌料の購入資金も対象となっています。

沿岸漁業改善資金

沿岸漁業改善資金は、沿岸漁業者などの経営や生活の改善、青年漁業者等の育成を支援するための無利子貸付制度です。

省力化機器や省エネルギー設備の導入、経営技術の習得など、目的に応じた資金が設けられています。

ただし、無利子であっても借入金であることに変わりはなく、返済が必要です。

また、貸付対象や条件、申請窓口などについては、都道府県の最新の案内を確認する必要があります。

💡ポイント

公的融資制度も資金調達の選択肢になりますが、いずれも一定の要件や審査があります。融資条件だけでなく、返済計画も含めて検討することが大切です。

5.省力化・設備投資を支える補助金や支援制度

漁業や養殖業では、人手不足や高齢化、燃油・餌料価格の高騰など、さまざまな経営課題があります。

こうした課題に対応するため、国や自治体では、省力化や生産性向上、設備投資などを支援する事業が実施されています。

水産庁による支援制度

水産庁では、漁業や養殖業の経営改善、生産性向上、スマート水産業の普及などを目的とした支援事業が実施されています。

例えば、養殖業での自動給餌システムや水質監視装置、漁業での操業情報のデータ活用などは、省力化や効率的な経営につながる技術です。

ただし、こうした機器がすべて補助対象となるわけではありません。

また、水産関係の支援事業には、漁業者が直接申請するものだけでなく、漁業協同組合や地域の団体などを通じて実施するものもあります。

そのため、事業の内容に加え、誰が申請できるのか、どのような取組が対象となるのかを確認する必要があります。

中小企業・小規模事業者向けの補助金

水産業に関連する事業でも、水産物の加工・販売、新商品の開発、販路開拓などに取り組む場合には、中小企業向けの補助金が検討候補となることがあります。

例えば、次のような制度があります。

  • 新事業進出・ものづくり商業サービス補助金
  • 小規模事業者持続化補助金
  • 中小企業省力化投資補助金
  • デジタル化・AI導入補助金

新事業進出・ものづくり商業サービス補助金は、革新的な新製品・新サービスの開発や新たな市場への進出などを支援する制度です。小規模事業者持続化補助金は、販路開拓などの取組を支援します。

⚠️注意点

漁業や養殖業を営んでいれば、これらの補助金を必ず利用できるというわけではありません。

一次産業としての漁業・養殖業と、水産加工業や販売業では、補助対象となる事業の取扱いが異なる場合があります。事業者の規模や事業内容、補助対象経費なども含め、各制度の最新の公募要領で確認する必要があります。

中小企業基盤整備機構では、主な中小企業向け補助金の公募スケジュールを公開しています。

制度の概要や募集状況を確認したい方は、参考にされてはいかがでしょうか。

参考:中小企業基盤整備機構|中小企業向け補助金スケジュール

自治体による支援制度

国の制度だけでなく、都道府県や市町村が独自に実施する支援制度もあります。

例えば、省エネルギー設備の導入や漁業用機器の更新、経営改善などを支援する事業です。

ただし、制度の内容や対象者、募集期間は地域によって異なります。

事業を行う地域の自治体や漁業協同組合などに確認することも、支援制度を探す方法の一つです。

補助金を利用する際の注意点

補助金は、原則として返済の必要がない資金ですが、採択・交付を受けた後にも注意が必要です。

制度によっては、賃金の引上げや事業計画の達成、一定期間の報告などが求められます。

また、定められた要件を満たさなかった場合や、補助金の使途・手続に問題があった場合には、補助金の一部または全部の返還が必要になることもあります。

さらに、補助金の採択と交付決定は異なります。交付決定前に発注・契約した経費が補助対象外となる制度もあります。

⚠️補助金申請で確認したいこと

申請時には補助対象経費や補助率だけでなく、交付決定前の発注・契約の取扱い、補助金の入金時期、交付後の報告義務、返還条件についても確認することが大切です。

6.不漁や自然災害、収入減少に備える仕組み

漁業や養殖業は、自然環境の影響を受けやすい産業です。

近年は海水温の上昇などによって魚の分布が変化し、これまで獲れていた魚が獲れにくくなる地域もあります。

また、台風などの自然災害や魚病による被害、燃油・餌料価格の高騰なども、経営に大きな影響を与えます。

燃油価格が高くなれば、漁に出ても採算が合わず、操業を控えざるを得ない場合もあるでしょう。

こうしたリスクに備えるため、漁業・養殖業には経営の安定を支える仕組みが設けられています。

漁業共済

漁業共済は、不漁や養殖生産物の被害などによる損失に備える制度です。

漁獲共済、養殖共済など、事業の種類に応じた仕組みがあり、一定の条件に該当する損失が生じた場合に共済金が支払われます。

ただし、加入できる共済の種類や補償内容は、漁業・養殖業の形態などによって異なります。

積立ぷらす

積立ぷらすは、一定の要件を満たす漁業者や養殖業者が、収入の減少に備えるための仕組みです。

漁業共済と組み合わせ、資源管理や漁場改善などに計画的に取り組む漁業者の経営安定を支援します。

漁獲量や販売価格の変動などによって収入が一定水準を下回った場合に、所定の条件に従って補塡を受けられます。

漁業経営セーフティーネット構築事業

不漁などによる収入減少とは別に、燃油や養殖用配合飼料の価格高騰に備える仕組みもあります。

それが「漁業経営セーフティーネット構築事業」です。

漁業者・養殖業者と国が資金を積み立て、燃油や養殖用配合飼料の価格が一定の基準を超えて上昇した場合に、補塡金を交付する仕組みです。

💡ポイント

漁業共済や積立ぷらすは、主に漁獲変動などに伴う損失・収入減少に備える仕組みです。

一方、漁業経営セーフティーネット構築事業は、燃油や養殖用配合飼料の価格高騰に備える仕組みです。収入の減少と経費の増加では、備える制度の目的が異なります。

いずれの制度も、すべての損失や価格上昇が補償・補塡されるわけではありません。

加入要件や対象となるリスク、補償・補塡の範囲などを確認し、自分の経営に合った備えを考えることが大切です。

7.資金調達の前に考えておきたいこと

ここまで、漁業や養殖業に必要な資金と、さまざまな支援制度についてご紹介してきました。

しかし、融資や補助金などの制度があるからといって、必ずしも設備投資を進めることがよいとは限りません。

例えば、新しい設備を導入すれば作業時間を短縮できるかもしれません。一方で、設備の購入費用だけでなく、維持管理費や修繕費なども必要になります。

また、借入れによって設備を導入する場合には、その後の返済も考えなければなりません。

大切なのは、設備を導入すること自体を目的にするのではなく、その設備が経営にどのような効果をもたらすのかを考えることです。

売上げの見込み、必要な経費、借入金の返済、将来の設備更新などを含め、無理のない事業計画を立てることが重要になります。

さらに、漁業や養殖業では、事業内容に応じて漁業権や漁業許可、届出などの行政手続が関係する場合があります。

資金調達だけを先に進めるのではなく、必要な許認可や事業を開始できる時期なども含めて準備することが大切です。

行政書士は、こうした許認可手続や事業計画の整理などを通じて、事業者を支援できる立場にあります。

制度を利用することが目的ではなく、事業を安定して続けるために、どのような方法が適しているのか。

その視点を持って考えていきたいものです。

8.まとめ|水産業を長く続けるために

漁業や養殖業を営むには、漁船や養殖施設などの設備資金だけでなく、日々の経営を支える運転資金が必要です。

また、天候や海水温の変化、不漁、燃油・餌料価格の高騰など、自分たちの努力だけでは対応が難しい課題もあります。

こうしたなかで、融資や補助金、漁業共済などの制度は、経営を支える選択肢の一つになります。

ただし、制度にはそれぞれ目的や利用条件があり、申請すれば必ず利用できるものではありません。

まずは自分の事業に必要な資金を把握し、将来の収支や経営上のリスクを見通したうえで、適切な支援制度を検討することが大切です。

そして、経営を続けるためには、資金面の備えだけでなく、事業環境の変化に対応していくことも欠かせません。

これまで水産業の基礎として、漁業権や漁業許可、養殖業の仕組み、流通・販売などについてご紹介してきました。

今回の資金調達と経営支援をもって、フェーズ2「水産業の基礎・経営編」は全8回で一区切りとなります。

水産業には、私たちが普段目にする魚や水産物の向こう側に、さまざまな制度や多くの方々の取組があることを、少しでも感じていただけたなら嬉しく思います。

📢 次回予告・今後のシリーズについて

次回からは少し趣向を変え、農業・水産業の現場での取組や課題を紹介するコラムを2回お届けする予定です。

まずは、河川や湖沼などで行われる「内水面漁業・養殖と地域ブランド」。続いて、北海道・網走で確認されたジャガイモシロシストセンチュウと、農業を守るための取組を取り上げます。

その後は、フェーズ3「経営強化・拡大編」として、6次産業化、人材確保、知的財産、スマート農業・スマート水産業など、農業・水産業をさらに発展させるための制度や仕組みをご紹介していきます。

📚過去記事

農業分野・シリーズの入口(第1~9回)|クリックで開く
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🔗参考資料

※融資制度や補助金、漁業共済などの利用条件は、制度改正や募集時期、地域、事業内容によって異なります。実際の申請・利用にあたっては、各制度の最新の公募要領や実施機関の案内をご確認ください。

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