有線放送事業者の複製権・送信可能化権とは?録画とネット配信をやさしく解説
前回は、ケーブルテレビなどの「有線放送事業者」に認められている著作隣接権について、放送事業者との違いを中心に解説しました。
有線放送事業者には、複製権、放送権・再有線放送権、送信可能化権、有線テレビジョン放送の伝達権が認められています。
今回は、このうち「複製権」と「送信可能化権」を取り上げます。
例えば、ケーブルテレビで流れている番組を録画したり、その映像をインターネット上に公開したりする場合、どのような権利が関係するのでしょうか。
身近な例を使いながら、著作権法の条文も確認していきましょう。
📖目次
1.はじめに
前回の記事では、有線放送事業者の著作隣接権について、全体像を紹介しました。
今回取り上げる「複製権」と「送信可能化権」は、どちらも有線放送を利用する際に関係する権利ですが、対象となる行為は異なります。
まずは、それぞれの権利がどのような行為を保護しているのかを確認しましょう。
2.有線放送事業者の「複製権」とは?
著作権法第100条の2では、有線放送事業者に複製権が認められています。
(複製権)
第100条の2 有線放送事業者は、その有線放送を受信して、その有線放送に係る音又は影像を録音し、録画し、又は写真その他これに類似する方法により複製する権利を専有する。
この条文で注目したいのは、「その有線放送を受信して」という部分です。
例えば、ケーブルテレビで流れている番組を受信し、その映像を録画して保存する行為が考えられます。
また、条文には「写真その他これに類似する方法」とも書かれています。録音や録画だけでなく、有線放送の映像を写真に撮る行為なども対象になり得るのです。
ここで注意したいのは、有線放送事業者が保護されるのは、必ずしも番組の内容を創作したからではないということです。
有線放送事業者には、自らが行った有線放送について、著作隣接権が認められています。
ただし、複製に当たるからといって、すべての録画が禁止されているわけではありません。
家庭内なら、どこまで録画してもよいの?
ここで、疑問に思う方もいるかもしれません。
「テレビ番組を自宅で録画することも、複製に当たるのでは?」
そのとおりです。家庭で番組を録画することも、法律上は複製に当たります。
ただし、著作権法では、一定の条件のもとで、私的使用のための複製が認められています。
著作権法第30条第1項では、次のように定められています。
(私的使用のための複製)
第30条第1項(冒頭部分) 著作権の目的となつている著作物(以下この款において単に「著作物」という。)は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる。
※第1項各号は省略しています。
この私的使用に関する規定は、有線放送事業者の著作隣接権にも適用されます。
例えば、自分で後から見るために番組を録画することや、同居する家族と楽しむために録画することは、通常、この範囲に含まれると考えられます。
では、離れて暮らす家族や親しい友人のために録画する場合はどうでしょうか。
実は、「家庭内その他これに準ずる限られた範囲」が具体的にどこまでを指すのか、法律には明確な人数の基準がありません。
家族や友人との関係、利用目的などによって判断が異なるため、「何人までなら大丈夫」と一律にはいえないのです。
また、家庭内で一緒に録画番組を見ることと、録画したデータを別の人に渡すことでは、問題となる行為が異なります。後者では、誰のために、どのような目的で複製したのかなども確認する必要があります。
なお、私的使用を目的とする場合でも、コピーガードを一定の方法で回避して複製する場合など、認められないケースがあります。
💡ポイント
「家庭内だから何をしてもよい」というわけではありません。私的使用の範囲や複製の方法によって、認められるかどうかが変わります。
3.有線放送事業者の「送信可能化権」とは?
次に、著作権法第100条の4に定められている「送信可能化権」を見てみましょう。
(送信可能化権)
第100条の4 有線放送事業者は、その有線放送を受信してこれを送信可能化する権利を専有する。
「送信可能化」という言葉は、少し難しく感じるかもしれません。
簡単にいえば、インターネットなどを通じて、公衆からの求めに応じて自動的に送信できる状態にすることです。
例えば、動画共有サイトで見たい動画をクリックすると、映像が再生されますよね。
これは、利用者からの求めに応じて、映像が自動的に送信される仕組みです。
このように、利用者がクリックするなどの操作をすれば、映像が自動的に送られてくる状態を作ることが、送信可能化を理解するための身近なイメージです。
例えば、ケーブルテレビで流れた番組を録画し、その映像を動画共有サイトにアップロードして、ほかの人が好きなときに視聴できるようにする場合、有線放送事業者の送信可能化権が関係することがあります。
ここで重要なのは、実際に誰かが動画を再生する前でも、送信可能化に当たる場合があるという点です。
つまり、「まだ誰も見ていないから問題ない」とは限らないのです。
インターネット上に保存するだけでも送信可能化になる?
ここで、オンラインストレージと動画共有サイトを比べてみましょう。
オンラインストレージとは、写真や動画、文書などのデータをインターネット上の保存場所に保管できるサービスです。GoogleドライブやOneDriveなどが身近な例です。
例えば、録画した番組を自分だけが利用できるオンラインストレージに保存する場合と、動画共有サイトで誰でも視聴できるようにする場合では、状況が異なります。
自分だけが利用する保存先であれば、通常、公衆に向けて自動的に送信する状態にはなりません。
一方、動画共有サイトに公開し、利用者がアクセスすれば自動的に再生できる状態にすると、送信可能化に当たる場合があります。
つまり、単にインターネット上に保存したかどうかではなく、公衆からの求めに応じて自動的に送信できる状態にしたかどうかが重要なのです。
ただし、オンラインストレージへの保存にも複製の問題が生じる場合があります。また、共有設定や送信の仕組みによって判断が変わることにも注意が必要です。
録画しなくても送信可能化になる?
実は、番組を録画せずにインターネットで配信する方法もあります。
例えば、ケーブルテレビの番組を受信し、その映像を配信機器に取り込んで、インターネットを通じて視聴できるようにする方法です。
配信機器は、受信した映像をインターネットで送るための形式に変換します。録画ファイルを保存しなくても、映像をほぼリアルタイムで届けることができます。
スポーツ中継やイベントのライブ配信を思い浮かべると、仕組みをイメージしやすいかもしれません。ただし、こうしたライブ配信がすべて有線放送の送信可能化に当たるわけではありません。
図① 録画せずにライブ配信する仕組み
有線放送を受信する
▼
映像をインターネット配信用に変換する
▼
視聴者がアクセスして映像を見る
※録画ファイルを作らずに映像を配信する仕組みのイメージです。実際の権利関係は配信方式などによって異なります。
このように、録画ファイルを作成しなくても、有線放送を受信して公衆からの求めに応じて自動的に送信できる状態にする場合には、有線放送事業者の送信可能化権が関係することがあります。
ただし、技術的に配信できることと、法律上、許可なく配信してよいことは別です。
4.録画してインターネットに公開すると、どの権利が関係する?
ここまで説明した「複製権」と「送信可能化権」を、一つの例で確認してみましょう。
例えば、ケーブルテレビで流れている番組を録画し、その映像を動画共有サイトにアップロードしたとします。
まず、番組を録画して保存する行為には「複製権」が関係します。
次に、録画した映像を動画共有サイトにアップロードし、ほかの人がアクセスすれば視聴できる状態にする行為には「送信可能化権」が関係します。
図② 録画してインターネットに公開する場合
有線放送を受信
▼ 番組を録画する
複製権(第100条の2)が関係
▼ 動画共有サイトにアップロードする
送信可能化権(第100条の4)が関係
※理解のための模式図です。アップロード時の複製や、ほかの権利者の権利が問題になる場合もあります。
では、自分で見るために録画した番組を、後から動画共有サイトに公開する場合はどうでしょうか。
自分で見るための録画は、私的使用のための複製として認められる場合があります。
しかし、その録画データを誰でも視聴できる状態にすると、私的使用の範囲を超えることになります。
また、動画共有サイトへのアップロードに伴って新たな複製が行われる場合には、その複製についても権利が問題になります。
💡ポイント
自分で見るために適法に録画できたとしても、その映像をインターネット上で公開することまで認められているわけではありません。
5.放送事業者の権利とは何が違う?
これまでのシリーズでは、テレビ局などの放送事業者にも「複製権」と「送信可能化権」が認められていることを解説しました。
有線放送事業者にも同じ名前の権利がありますが、条文と保護される対象には違いがあります。
| 比較項目 | 放送事業者 | 有線放送事業者 |
|---|---|---|
| 複製権 | 第98条 | 第100条の2 |
| 送信可能化権 | 第99条の2 | 第100条の4 |
| 基本的な保護対象 | 放送 | 有線放送 |
| 身近な例 | テレビ局 | ケーブルテレビ事業者 |
※放送事業者の複製権・送信可能化権は、一定の場合、放送を受信して行われる有線放送にも及びます。
例えば、テレビ局が放送した番組を、ケーブルテレビ事業者が受信して各家庭に有線放送する場面を考えてみましょう。
テレビ局には、自ら行った放送について著作隣接権があります。一方、ケーブルテレビ事業者にも、自ら行った有線放送について著作隣接権があります。
そのため、ケーブルテレビで流れている番組を録画したり、インターネット上で視聴できる状態にしたりすると、利用方法によっては、両方の事業者の権利が関係する場合があります。
ケーブルテレビで受信した番組だから、ケーブルテレビ事業者の許諾だけで利用できるとは限らないということです。
6.番組の著作権と有線放送事業者の権利は別のもの
ここでもう一つ、押さえておきたいことがあります。
それは、番組に含まれる著作物の著作権と、有線放送事業者の著作隣接権は、それぞれ異なる立場の人や事業者に認められる権利だということです。
例えば、ケーブルテレビで音楽番組が流れていたとします。
番組で使用されている楽曲には、作詞家や作曲家などの著作権が関係します。また、出演する歌手や演奏家には、実演家としての著作隣接権が認められる場合があります。
そして、テレビ局やケーブルテレビ事業者にも、それぞれが行った放送・有線放送についての著作隣接権があります。
これを図で表すと、次のようになります。
図③ 一つの音楽番組に関係するさまざまな権利
作詞家・作曲家など
著作隣接権
歌手・演奏家など
音楽番組
さまざまな権利が関係
著作隣接権
テレビ局など
著作隣接権
ケーブルテレビ事業者など
※矢印は、それぞれの権利が音楽番組に関係することを表しています。権利の移転や許諾の流れを示すものではありません。番組によっては、映像の著作権やレコード製作者の権利なども関係します。
このように、一つの音楽番組にも、さまざまな人や事業者の権利が関係しています。
例えば、その番組を録画してインターネット上に公開しようとする場合、ケーブルテレビ事業者から許諾を得ただけでは、必要な権利処理がすべて完了するとは限りません。
番組に含まれる音楽や映像などの著作権、出演者の著作隣接権、放送事業者の著作隣接権なども関係する場合があるためです。
したがって、番組を利用するときには、誰がどのような権利を持っているのか、そして、録画や公開といった利用方法に応じて、どの権利について許諾が必要になるのかを確認することが大切です。
なお、実際の権利処理では、権利者本人ではなく、管理団体や契約上の窓口などを通じて許諾を得る場合もあります。
7.まとめ
今回は、有線放送事業者に認められている「複製権」と「送信可能化権」について解説しました。
複製権は、有線放送を受信し、その音や映像を録音・録画などによって複製することに関する権利です。
一方、送信可能化権は、有線放送を受信して、インターネットなどを通じて公衆からの求めに応じて自動的に送信できる状態にすることに関する権利です。
送信可能化は、録画した番組をアップロードする場合だけでなく、録画せずに受信した番組を配信できる状態にする場合にも関係することがあります。
また、家庭での録画については、私的使用のための複製が認められる場合がありますが、その範囲は無制限ではありません。
自分で見るために録画することが認められていても、その映像をインターネット上で公開することまで認められるわけではないのです。
さらに、番組を利用する際には、有線放送事業者だけでなく、放送事業者や番組に含まれる著作物の著作権者など、複数の権利者が関係する場合があります。
今回紹介した具体例を通じて、どのような行為にどの権利が関係するのか、少しでもイメージしていただければと思います。
次回は、有線放送事業者の「放送権」と「再有線放送権」について、具体例を交えながら見ていきましょう。
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🔗参考記事
- e-Gov法令検索「著作権法」(第30条、第98条、第99条の2、第100条の2、第100条の4、第102条)
- 文化庁「令和8年度版 著作権テキスト」(著作隣接権の解説)
- 文化庁「著作権法第30条に係る論点の整理」(私的使用の範囲に関する当時の議論)
- 公益社団法人著作権情報センター(CRIC)「著作隣接権とは?」(制度の解説)
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