実演家の財産権(許諾権)とは?録音権・録画権・送信可能化権を解説
前回の記事では、実演家人格権である「氏名表示権」と「同一性保持権」についてご紹介しました。
今回は、実演家が持つもう一つの重要な権利である「財産権のうち、実演の利用を許可するかどうかを決められる権利」について解説します。
「アーティストのライブを勝手にネット配信してはいけないのはなぜ?」
「コンサートの様子を録音してCDとして販売するには、誰の許可が必要?」
こうした疑問の答えになるのが、今回ご紹介する権利です。
この記事では、実演家が持つ代表的な許諾権である「録音権・録画権」「放送権・有線放送権」「送信可能化権」について、具体例を交えながら分かりやすくご紹介します。
実演家の財産権(許諾権)とは?
実演家の財産権とは、自分の実演が利用されることによって生じる経済的な利益を守るための権利です。
実演家の財産権には、実演の利用を許可するかどうかを決められる「許諾権」と、一定の利用が行われた場合に報酬を受け取ることができる「報酬請求権」などがあります。
今回は、そのうち実演家が利用を認めるかどうかを決められる許諾権について解説します。
前回ご紹介した実演家人格権が、実演家の人格や名誉を守る権利であるのに対し、財産権は、実演の利用によって生じる経済的な利益を守る権利と考えると分かりやすいでしょう。
また、実演家人格権は他人に譲渡できませんが、財産権は、契約によって他人に譲渡したり、実演の利用を許諾したりすることができます。
実演家人格権との違い
| 実演家人格権 | 実演家の財産権 |
|---|---|
| 人格や名誉を守る権利 | 実演の利用による経済的利益を守る権利 |
| 譲渡できない | 譲渡や利用の許諾ができる |
| 氏名表示権・同一性保持権 | 録音権・録画権・送信可能化権など |
録音権・録画権とは?(著作権法第91条)
録音権・録画権とは、実演家が、自分の実演を録音または録画することを許可するかどうかを決められる権利です。
「録音」は、歌や演奏などの音をCDやデータなどに記録すること、「録画」は、演技や演奏などの映像をDVDや動画データなどに記録することをいいます。
例えば、次のような場合には、原則として実演家の許諾が必要になります。
- コンサートの歌唱や演奏を録音する
- 録音した実演をCDとして制作する
- ライブの様子をDVDやBlu-rayにする
- 演劇やダンスの公演を映像として記録する
身近な例
ライブ会場でアーティストの歌唱や演奏を無断で録音・録画した場合には、実演家の録音権・録画権との関係が問題となる可能性があります。
さらに、その録音や映像を販売したり、インターネット上で公開したりすれば、録音権・録画権以外の権利も関係してきます。
なお、著作権法には、実演家の許諾を得て映画に録音・録画された実演などについて、録音権・録画権が及ばない場合も定められています。実際に利用する際には、収録された経緯や契約内容なども確認する必要があります。
放送権・有線放送権とは?(著作権法第92条)
放送権・有線放送権とは、実演家が、自分の実演をテレビやラジオなどで放送または有線放送することを許可するかどうかを決められる権利です。
例えば、次のような場合が考えられます。
- コンサートの様子をテレビで生中継する
- 舞台公演をテレビ番組として放送する
- 演奏会の音声をラジオで放送する
- ライブ映像をケーブルテレビで有線放送する
このような利用を行う場合には、原則として実演家の許諾が必要になります。
ただし、すでに実演家の許諾を得て録音・録画された実演の放送など、放送権・有線放送権が及ばない場合もあります。
送信可能化権とは?(著作権法第92条の2)
インターネットが普及した現在、特に身近になっているのが送信可能化権です。
送信可能化権とは、実演家が、自分の実演をインターネット上で利用者からのアクセスに応じて送信できる状態にすることを許可する権利です。
「送信可能化」とは?
例えば、次のような行為が送信可能化に当たる可能性があります。
- YouTubeなどの動画投稿サイトへ動画をアップロードする
- 動画配信サービスにライブ映像を登録する
- 音楽配信サービスに歌唱や演奏の音源を登録する
- サーバーに動画を保存し、利用者がアクセスできる状態にする
実際に誰かが視聴したかどうかではなく、サーバーにアップロードして「利用者がいつでも視聴できる状態にした時点」で、送信可能化に当たる可能性があることがポイントです。
身近な例
ライブ会場で撮影した動画を自分のスマートフォンに保存しているだけの場合と、その動画をYouTubeやSNSへアップロードする場合とでは、関係する権利が異なります。
インターネット上へアップロードして利用者が視聴できる状態にすると、実演家の送信可能化権との関係が問題になる可能性があります。
また、コンサートや舞台では、主催者が録音・録画自体を禁止していることもあります。著作権法上の権利だけでなく、チケットの購入条件や会場のルールも確認することが大切です。
実演家の許可だけあれば利用できる?
実演を利用する場合、実演家の許可だけで足りるとは限りません。
例えば、歌を収録したライブ映像をインターネットで配信する場合には、次のように複数の権利が関係することがあります。
- 作詞者・作曲者などの著作者
楽曲そのものについての著作権 - 実演家(歌手・演奏家など)
実演についての著作隣接権(録音権・録画権・送信可能化権など) - レコード製作者
CD音源や配信用音源など、制作した音源についての著作隣接権 - 放送事業者
テレビ番組など、放送された番組をそのまま利用する場合に関係する著作隣接権
例えば、アーティストが歌っている動画には、歌手の実演に関する権利だけでなく、歌詞や楽曲を作った人の著作権も関係します。
市販のCD音源を動画のBGMとして使用する場合には、作詞者・作曲者の著作権に加え、歌手や演奏家、レコード製作者の著作隣接権も関係する可能性があります。
一つの音楽や映像の中に、著作権と複数の著作隣接権が重なっていることがあるため、「実演家の許可を得れば自由に利用できる」とは限りません。
どの権利者の許諾が必要になるかは、利用する素材や利用方法、契約内容などによって異なります。
まとめ
実演家の財産権は、実演の利用によって生じる経済的な利益を守るための権利です。
今回ご紹介した許諾権には、主に次のようなものがあります。
- 録音権・録画権:実演を録音・録画することを許可する権利
- 放送権・有線放送権:実演をテレビやラジオなどで放送することを許可する権利
- 送信可能化権:実演をインターネット上で利用者がアクセスできる状態にすることを許可する権利
特にインターネットが身近になった現在では、動画投稿サイトやSNSへ簡単に動画をアップロードできるようになり、送信可能化権が関係する場面も増えています。
また、音楽や映像を利用する場合には、実演家だけでなく、作詞者・作曲者、レコード製作者、放送事業者など、複数の権利者が関係することもあります。
誰のどのような権利が関係するのかを確認することが、音楽や映像を適切に利用するための第一歩です。
次回は、実演家の財産権のうち、一定の利用が行われた場合に報酬を受け取ることができる「報酬請求権」について、許諾権との違いを交えながらご紹介します。
📚過去記事
- 第1回:著作権にはどんな権利があるの?
- 第2回:複製権ってなに?
- 第3回:上演権・演奏権
- 第4回:家でDVDを見るのはOK?上映会は?
- 第5回:公衆送信権ってなに?
- 第6回:公の伝達権ってなに?
- 第7回:口述権ってなに?──朗読・読み聞かせと著作権の考え方
- 第8回:展示権ってなに?|美術作品を「展示する権利」
- 第9回:譲渡権ってなに?―中古販売・消尽・フリマとの関係―
- 第10回:貸与権ってなに?
- 第11回:「頒布権」ってなに?
- 第12回:翻訳権・翻案権ってなに?
- 第13回:著作物とは?―著作権法上の意味を具体例でやさしく解説―
- 第14回:著作者とは誰?著作権者との違い・委託制作・所有権との関係をやさしく解説
- 第15回:法人著作とは?会社に著作権が帰属する条件と注意点を解説
- 第16回:映画の著作権は誰のもの?監督・制作会社・原作者の権利関係をわかりやすく解説
- 第17回:子ども椅子に著作権はある?最高裁ストッケ判決と意匠権との違いを解説
- 第18回:著作者人格権とは?公表権と未公表作品の扱いをわかりやすく解説
- 第19回:レコード演奏・伝達権とは?店舗BGMと著作隣接権をわかりやすく解説
- 第20回:氏名表示権とは?実名・匿名・ペンネームを決める権利をわかりやすく解説
- 第21回:同一性保持権とは?翻案権との違いと天上の花事件を解説
- 第22回:出版権とは?利用許諾との違い・登録・消滅請求・電子出版まで解説
- 第23回:著作隣接権とは?実演家の権利を初心者向けに分かりやすく解説
- 第24回:実演家人格権とは?氏名表示権・同一性保持権を分かりやすく解説
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🔗参考記事
※本記事は、著作権制度について一般的な情報を分かりやすくご紹介するものです。個別の利用について必要となる許諾や権利関係は、素材、利用方法、契約内容などによって異なります。
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