同一性保持権とは?翻案権との違いと天上の花事件を解説

写真の加工、文章の編集、動画の切り抜き、AIによる画像加工など、今は誰でも簡単に作品を変更できる時代になりました。

「少し直しただけ」
「見やすく加工しただけ」
「雰囲気を変えただけ」

変更した側に悪気がなくても、著作者の権利に関係する場合があります。

今回は、著作者人格権のひとつである「同一性保持権」について解説します。

同一性保持権とは?

同一性保持権とは、著作者が、自分の著作物や題号について、自分の意に反して変更・切除などの改変を受けない権利です。

著作権法第20条では、次のように定められています。

(同一性保持権)
第二十条
著作者は、その著作物及びその題号の同一性を保持する権利を有し、その意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けないものとする。

出典:e-Gov法令検索「著作権法」

つまり、同一性保持権は「自分の作品を、自分の意に反して勝手に変えられない権利」です。

著作権というと、「無断コピーを防ぐ権利」というイメージを持つ方も多いかもしれません。

しかし、著作者には財産的な権利だけではなく、作品に込めた思いや表現を守るための「著作者人格権」があります。

  • 公表するかどうかを決める「公表権」
  • 名前を表示するかどうか決める「氏名表示権」
  • 作品を勝手に変えられない「同一性保持権」

これらはいずれも著作者人格権に含まれます。

作品には、著作者の考え方や表現へのこだわりが込められています。

そのため、良かれと思って行った修正でも、著作者の意思に反する変更は問題となることがあります。

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どのような変更が問題になる?

例えば、次のようなケースが考えられます。

  • 文章の一部を削除して、元とは違う印象になる
  • 写真を加工して、作者が意図した雰囲気が変わる
  • 動画を切り抜いて、別の意味に受け取られる形になる
  • デザインの色や構成を変更する

変更した側は「少し整えただけ」と思っていても、著作者から見ると、大切な表現が変えられている場合があります。

ただし、すべての変更が同一性保持権侵害になるわけではありません。

著作権法第20条第2項では、一定の場合には例外も定められています。

そのため、実際には「どのような作品か」「どのような目的で変更したのか」「著作者との間でどのようなやり取りがあったのか」など、具体的な事情を踏まえて考える必要があります。

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同一性保持権と翻案権の違い

ここで混同されやすいものに「翻案権」があります。

どちらも「元の作品を変更する」という場面で関係するため、似ているように感じるかもしれません。

しかし、守っているものが違います。

翻案権は、著作権(財産権)のひとつです。

例えば、小説を映画化する、漫画をアニメ化する、外国語に翻訳するなど、元の作品をもとに新しい作品(二次的著作物)を作ることについて許可する権利です。

一方、同一性保持権は著作者人格権です。

翻案権は「作品を作り変えて利用してよいか」、同一性保持権は「著作者の意思に反する変更になっていないか」という違いがあります。

そのため、翻案する許可を得ていたとしても、「どのような内容に変更してよいか」は別の問題になります。

著作権(財産権)と著作者人格権は、それぞれ別の視点から確認する必要があります。

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著作権を譲渡しても著作者人格権は残る

著作権(財産権)は譲渡することができます。

しかし、著作者人格権は著作者本人だけが持つ権利であり、譲渡することはできません。

例えば、会社が外部のデザイナーにホームページ用イラストを依頼し、著作権を譲り受けた場合を考えます。

「著作権を買い取ったから、自由に変更できる」と思ってしまうかもしれません。

しかし、著作者人格権は作者本人に残ります。

そのため、制作を依頼するときには、修正できる範囲、加工や二次利用の可否、著作者人格権への対応などを契約時に確認しておくことが重要です。

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裁判例から見る同一性保持権

映画「天上の花」脚本改変事件

同一性保持権は、実際の制作現場でも問題になることがあります。

映画「天上の花」の脚本をめぐる裁判では、脚本家が、自分が作成した脚本(準備稿)について、了承していない改変が行われたとして、同一性保持権の侵害などを主張しました。

一審では同一性保持権の侵害が認められました。

しかし、控訴審である大阪高等裁判所第8民事部(令和7年2月27日判決)では判断が変更され、最終的には同一性保持権侵害は認められませんでした。

ポイントとなったのは、制作過程でどのようなやり取りがあったのか、修正や加筆についてどの範囲まで委ねていたと考えられるのか、映画制作という共同作業の中でどのような経緯で変更が行われたのか、といった具体的な事情です。

つまり、作品に変更が加えられたからといって、必ず同一性保持権侵害になるわけではありません。

一方で、「制作を依頼した」「データを受け取った」というだけで、自由に変更できるわけでもありません。

創作の現場では、後になって「そのような変更は認めていなかった」「そこまで自由に使えるとは思っていなかった」という認識の違いがトラブルにつながることがあります。

だからこそ、制作を依頼する側・制作する側の双方が、最初にルールを確認しておくことが大切です。

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契約や記録が双方を守る

トラブルになった場合、「事前にどのような合意があったのか」が重要になります。

口頭だけでは、後から認識の違いが生じることもあります。

そのため、契約書、発注書、メールやチャットの履歴などで、「どの範囲まで修正や加工を認めるのか」を確認できる形で残しておくことが大切です。

これは発注する側だけではなく、制作する側を守ることにもつながります。

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AI・SNS時代だからこそ注意したいこと

現在は、AIを使った画像加工や文章修正なども簡単にできるようになりました。

またSNSでは、画像加工や動画の切り抜きも日常的に行われています。

しかし、「技術的にできること」と「法律上問題なくできること」は同じではありません。

元の作品を作った人がいる、という視点を持つことが大切です。

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まとめ

同一性保持権は、著作者の作品に込めた思いや表現を守るための権利です。

著作権は「利用を管理する権利」だけではありません。

作品を作った人の人格的な利益も守っています。

一方で、ビジネスの現場では、作品を修正したり加工したりする必要がある場面もあります。

だからこそ、「誰が権利を持っているのか」「どこまで変更してよいのか」を事前に確認しておくことが、トラブル防止につながります。

作品を作る人、利用する人。

双方が安心して創作活動を進められる環境づくりが大切です。

📚過去記事

著作権の基礎シリーズでは、著作物、著作者、著作者人格権、著作権の各権利などについて、順番に整理しています。

 

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