実演家人格権とは?氏名表示権・同一性保持権を分かりやすく解説

前回は、「実演家の権利とは?」をテーマに、著作隣接権の概要や、実演家とはどのような人を指すのかについて解説しました。

実演家には、歌手や俳優だけでなく、演奏家、舞踊家、指揮者、演出家なども含まれます。また、その権利は大きく「人格権」と「財産権」に分けられます。

今回は、そのうち実演家人格権について解説します。

実演家人格権は、実演家の経済的利益ではなく、実演家としての人格や名誉を守るための権利です。

実演家人格権とは?

実演家人格権とは、実演家が自ら行った実演について、その人格的利益を保護するための権利です。

著作物を創作した人には「著作者人格権」が認められていますが、実演を行った人にも、人格的利益を守るための権利が認められています。

実演家人格権には、次の2つがあります。

  • 氏名表示権
  • 同一性保持権

なお、著作者人格権には「公表権」もありますが、実演家人格権には公表権はありません。

これは、著作物は作者が「いつ公表するか」を自ら決めることができますが、実演は一般に舞台やコンサート、収録など、公衆に向けて行われることを前提としているためです。そのため、実演家には著作者のような公表権は認められていません。

つまり、著作者人格権は「作品を創作した人」を守る権利、実演家人格権は「実演を行った人」を守る権利であり、それぞれ保護の目的に違いがあります。

氏名表示権とは?(著作権法第90条の2)

氏名表示権とは、自分の実演について、実演家名をどのように表示するかを決めることができる権利です。

例えば、次のような選択ができます。

  • 本名を表示する
  • 芸名を表示する
  • 氏名を表示しない

CDジャケットやライブ映像、映画のエンドロールなどで、「本名を表示したい」「芸名だけを表示したい」「名前は表示したくない」といったことを決める権利と考えると分かりやすいと思います。

氏名表示が省略されることもある

もっとも、実演家の氏名は、いつでも必ず表示しなければならないわけではありません。

著作権法では、公正な慣行に反しない場合には、氏名表示を省略できるとされています。

例えば、大人数のバックミュージシャンが演奏しているCDでは、デザイン上の制約や業界の慣行などを理由として、伴奏者全員の氏名が記載されないことがあります。

文化庁のQ&Aでも、伴奏者の氏名がCDジャケットに表示されていなかった事例が紹介されており、公正な慣行に照らして省略が認められる場合があると説明されています。

同一性保持権とは?(著作権法第90条の3)

同一性保持権とは、自分の実演を、実演家の意に反して改変されない権利です。

例えば、次のような場合に問題となることがあります。

  • 演技を大幅に編集される
  • 歌唱の一部だけを切り取って印象を変えられる
  • 演奏内容が勝手に改変される

このような改変によって、実演家の意図や評価が損なわれるような場合には、同一性保持権との関係が問題となります。

もっとも、すべての編集や加工が同一性保持権の侵害となるわけではありません。

著作権法では、実演の性質や利用の目的・形態に照らして、やむを得ないと認められる改変は、同一性保持権の侵害にならないとされています。

例えば、番組編集などで目的や利用形態から見て必要と認められる範囲の編集であれば、権利侵害にはならない場合があります。一方で、実演家の名誉や声望を害するような改変については、同一性保持権が問題となることがあります。

著作者人格権との違い

実演家人格権は、著作者人格権とよく似ています。

ただし、保護する対象や権利の内容には違いがあります。

項目著作者人格権実演家人格権
保護対象著作物を創作した人実演を行った人
主な内容公表権・氏名表示権・同一性保持権氏名表示権・同一性保持権
譲渡不可不可

どちらも人格的利益を守るための権利ですが、実演家人格権には公表権がない点が大きな違いです。

実演家人格権は譲渡できる?

実演家人格権は、実演家本人に認められる人格権であり、他人へ譲渡することはできません。

一方、録音権や送信可能化権などの財産権については、契約によって譲渡することができます。

実務では、芸能プロダクションや制作会社との契約において、実演家人格権そのものを譲渡することはできないものの、一定の場合には人格権を行使しない旨、いわゆる「不行使特約」を定めるケースも見られます。

文化庁のQ&Aでも、芸能プロダクションとの契約により、実演家人格権の行使をプロダクションに委ねるケースがあることが紹介されています。

このように、人格権は譲渡できない権利ですが、契約実務の中では、その行使について取り決めが行われることがあります。

実演家人格権が問題となる場面

実演家人格権は、日常生活ではあまり意識されないかもしれません。

しかし、音楽や映像、舞台などの制作現場では、次のような場面で問題となることがあります。

  • CDジャケットや配信サイトで名前が表示されない
  • 映画や舞台のエンドロールから名前が削除される
  • 実演内容が無断で改変される
  • 編集によって実演の印象が大きく変わる

このような場合には、実演家人格権との関係を検討することになります。

特に、実演は人の声、表情、動き、演奏、演技など、その人自身の表現と深く結びついています。そのため、氏名の表示や実演内容の改変は、単なる形式的な問題ではなく、実演家の人格や名誉にも関わる問題といえます。

まとめ

実演家の権利というと、「歌手や俳優など一部の人に関係するもの」と思われるかもしれません。

しかし、実演家人格権を知ることで、実演そのものだけでなく、その人の名前や名誉、表現への思いも法律によって守られていることが分かります。

著作権は「作品」を守る法律というイメージがありますが、著作隣接権では、その作品を人々へ届ける実演家にも大切な権利が認められています。

実演家人格権を理解することは、著作隣接権全体を理解する第一歩にもつながります。

次回は、実演家が持つ財産的な権利について、録音権や録画権、送信可能化権などを中心に分かりやすく解説します。

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