液化水素はなぜマイナス253℃なのか?川崎重工の試験設備から考える水素社会

2026年6月23日、川崎重工業株式会社は、兵庫県加古郡播磨町にある播磨工場において、液化水素関連機器の開発・実証を加速する国内最大級の試験設備を整備すると発表しました。

水素は、脱炭素社会の実現に向けた次世代エネルギーとして期待されています。

もっとも、水素を社会で広く利用するためには、水素を「つくる」だけでは足りません。安全に「はこぶ」「ためる」「つかう」ための技術や設備も必要になります。

今回は、川崎重工の発表をきっかけに、液化水素の特徴や、なぜ新たな試験設備が必要とされているのかについて、一般の方にも分かりやすく解説します。

液化水素とは

水素は常温では気体です。

気体のままでは体積が大きいため、大量に運んだり、長期間貯蔵したりするには課題があります。

そこで、水素を極低温まで冷却し、液体にしたものが「液化水素」です。

水素を液体にすると、体積は気体の状態と比べて約800分の1になります。

体積が大幅に小さくなることで、海外で製造した水素を日本へ運ぶ場合や、大量の水素を効率的に貯蔵する場合に有利になります。

水素社会の実現には、発電や燃料電池などの「使う技術」だけでなく、水素を大量に輸送・貯蔵するための技術が欠かせないのです。

なぜマイナス253℃まで冷やすのか

液化水素の大きな特徴は、その極低温にあります。

水は0℃で凍ります。液化天然ガス、いわゆるLNGは約マイナス162℃で液体になります。

一方、水素を液体にするためには、約マイナス253℃まで冷却する必要があります。

物質液体になる温度の目安
0℃で凍る
LNG(液化天然ガス)約マイナス162℃
液化水素約マイナス253℃

マイナス253℃という温度は、日常生活ではほとんど想像できない極低温です。

この温度を安全に維持しながら、水素を輸送し、貯蔵し、必要な場所で利用するためには、通常の設備とは異なる高度な技術が求められます。

液化水素の活用は、単に水素を冷やすだけの話ではありません。極低温の環境でも安全に機能する材料、配管、タンク、ポンプ、バルブなど、さまざまな機器の技術によって支えられています。

神戸で進む液化水素の実証プロジェクト

川崎重工による液化水素の取組みは、今回の播磨工場の試験設備から始まったものではありません。

同社は2020年12月、兵庫県神戸市の神戸空港島に、世界初の液化水素荷役実証ターミナル「Hy touch 神戸」を建設・納入しました。

この施設には、日本最大規模を誇る容積2,500㎥の液化水素貯蔵タンクや、水素運搬船から液化水素を受け入れるためのローディングアームシステムなどが整備されています。

液化水素はマイナス253℃という極低温を保ったまま取り扱う必要があります。そのため、船から陸上タンクへ安全に移送するための荷役技術は、水素サプライチェーンを構築するうえで非常に重要です。

このような実証施設での取組みを通じて、液化水素の輸送や貯蔵に関する技術開発が進められています。

川崎重工が整備した液化水素荷役実証ターミナル「Hy touch 神戸」の液化水素貯蔵設備

※神戸空港島に整備された世界初の液化水素荷役実証ターミナル「Hy touch 神戸」
出典:川崎重工業株式会社「Kawasaki Hydrogen Road」

神戸空港島に整備された「Hy touch 神戸」では、液化水素の受入れや貯蔵を実証するための施設です。大型の球形タンクには液化水素が貯蔵され、実際の運用を想定した各種試験が行われています。

なぜ新たな試験設備が必要なのか

神戸で液化水素の荷役実証が進められている一方で、水素社会の実現には、さらに高性能で信頼性の高い関連機器の開発が必要です。

液化水素はマイナス253℃という極低温で扱われるため、通常の環境では発生しにくい課題が生じます。

例えば、金属材料は低温によって性質が変化することがあります。配管の接続部やシール材にも、高い信頼性が求められます。

また、液化水素を移送するポンプやバルブなどの機器は、厳しい環境の中で長期間安定して稼働しなければなりません。

こうした機器の性能や耐久性を確認するためには、実際の液化水素を用いた試験・検証が重要になります。

今回、川崎重工は播磨工場の水素技術開発拠点内に、国内最大級の液化水素関連機器試験設備を整備し、2027年度中の運用開始を目指しています。

この設備では、実用規模の容量で液化水素を利用しながら、機器、装置、部品、材料レベルでの試験・評価が行われる予定です。

また、大学・研究機関やパートナー企業にも提供される予定とされており、液化水素分野の技術開発を広げる共創の場としても期待されています。

水素社会実現への課題

水素が注目される理由の一つは、利用時に二酸化炭素を排出しないことです。

しかし、水素社会を実現するためには、水素を製造するだけでは不十分です。

製造した水素を液化し、安全に輸送し、貯蔵し、必要な場所で利用するまでの一連の仕組みが必要になります。

この流れは「水素サプライチェーン」と呼ばれています。

段階主な内容
つくる再生可能エネルギーなどを活用した水素製造
はこぶ液化水素運搬船などによる大量輸送
ためる液化水素タンクなどによる安全な貯蔵
つかう発電、燃料電池、産業用エネルギーなどでの利用

どれほど優れた水素製造技術があっても、輸送や貯蔵が安定して行えなければ、社会実装は進みません。

その意味で、今回の播磨工場の試験設備は、水素サプライチェーンを支える機器開発の基盤となるものです。

目立つ施設ではないかもしれませんが、水素を安全に運び、貯蔵し、利用するためには、このような基盤技術の積み重ねが欠かせません。

まとめ

川崎重工は、神戸空港島での液化水素荷役実証から、播磨工場での液化水素関連機器の試験設備整備へと、段階的に技術開発を進めています。

今回発表された国内最大級の試験設備は、水素社会を支える機器や材料の性能を確認し、技術開発を加速するための重要な基盤といえます。

水素は、次世代エネルギーとして期待されています。

もっとも、その実現には「水素を作る技術」だけでなく、「安全に運び、貯蔵し、利用する技術」が必要です。

液化水素はマイナス253℃という極低温で扱われるため、設備や機器には高い安全性と信頼性が求められます。

今回のニュースは、一見すると専門的な設備整備の話に見えるかもしれません。しかし、水素社会の実現に向けた土台づくりとして、とても重要な動きだと感じます。

今後、水素関連技術がどのように社会実装されていくのか、引き続き注目していきたいと思います。

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