サーモンとマグロの養殖はどう違う?育て方と完全養殖を解説

お寿司や刺身でおなじみのサーモンとマグロ。スーパーなどで「養殖」と表示されているのを見かけることがあります。

けれども、同じ養殖だからといって、同じ場所で、同じように育てられているわけではありません。魚の種類によって、稚魚の確保や育てる環境、必要な管理は異なります。

前回は、漁業許可と船舶登録について取り上げました。今回は「魚を育てる仕事」に目を向け、サーモンと、マグロの中でも主に国内で養殖されるクロマグロを例に、養殖の仕組みを見ていきます。

1.養殖とは?魚だけでなく、貝や海藻も育てられている

養殖とは、人が管理しながら水産物を育て、収穫する営みです。対象となるのは魚だけではありません。カキやホタテなどの貝類、ノリやワカメなどの海藻も、養殖によって生産されています。

育て方にも違いがあります。魚類では一般に餌を与えますが、貝類や海藻には、海の中にある餌や栄養分を利用して育てる養殖があります。今回は、その中でも魚類の養殖を取り上げます。

魚類の養殖では、まず、養殖の出発点となる稚魚などを用意します。これを「種苗(しゅびょう)」といいます。種苗を育てる過程では、餌を与えるだけでなく、水温や水質、魚の健康状態などを管理し、出荷できる大きさまで育てます。

ここで知っておきたいのは、養殖だからといって、必ず卵から育てているわけではないことです。天然の幼魚などを捕獲し、そこから育てる方法もあります。

2.サーモンの養殖―海でも、陸上でも育てられる

「サーモン」は、すべて同じ魚ではない

売り場や飲食店で見かける「サーモン」には、複数の魚種が含まれます。例えば、アトランティックサーモンや、ニジマスを海水で養殖したトラウトサーモンなどです。

「サーモン」という呼び名だけでは、魚種や育て方を一つに決めることはできません。どの魚を、どのような方法で育てているのかを見ることが大切です。

淡水で育てた稚魚を、海の生け簀へ

サーモンの海面養殖には、淡水で育てた稚魚を海水に慣らし、海の生け簀へ移して育てる方法があります。生け簀とは、魚を飼育するために、水中を網などで囲った設備です。

淡水から海水へ移す際には、魚が環境の変化に対応できるようにする必要があります。この海水に慣らす過程を「海水馴致(かいすいじゅんち)」といいます。単に稚魚を海へ運べばよいわけではなく、移す前の準備も重要な仕事です。

青森でも行われているサーモンの海面養殖

国内でも、サーモンの海面養殖の取組が広がっています。青森県では、今別町や外ヶ浜町で2019年度から本格的な海面養殖が始まったことが紹介されています。深浦町の北金ヶ沢漁港での取組も、水産庁が海面養殖の事例として取り上げています。

青森県の2024年度の政策資料では、新規参入や効率的な養殖手法の普及によって、海面養殖サーモンの生産量が増加しているとされています。サーモンは輸入品だけでなく、国内の海でも育てられているのです。

陸上の水槽で育てる方法もある

一方で、サーモンを陸上の水槽で育てる取組も進んでいます。陸上養殖にも、水を取り入れて排水する方法、水の一部を浄化して再利用する方法、浄化した水を繰り返し使う方法などがあります。

「陸上養殖」といっても、すべて同じ仕組みではありません。育て方は、海か陸上かという違いに加え、魚種や育成段階によっても異なります。

3.クロマグロの養殖―天然種苗と完全養殖の違い

天然の幼魚などを育てる方法もある

クロマグロの養殖には、天然の幼魚などを捕獲し、海の生け簀で育てる方法があります。このように天然から得た魚を養殖の出発点として使う場合、「天然種苗」と呼びます。

一方、受精卵をふ化させ、養殖用に育てた稚魚などは「人工種苗」です。クロマグロでは、天然種苗と人工種苗の両方が利用されています。つまり、「養殖マグロ」という表示だけで、完全養殖の魚とは限らないのです。

完全養殖は「次の世代につなぐ」仕組み

完全養殖とは、人工ふ化した魚を親魚まで育て、その親が産んだ卵をふ化させ、次の世代を育てる仕組みです。

卵から稚魚、親魚へと育て、さらに次の世代の卵につなぐ。この繁殖のサイクルをつなぐことが、完全養殖の特徴です。

完全養殖の代表例「近大マグロ」

この完全養殖の代表的な例が、「近大マグロ」です。近畿大学は、32年間の研究を経て、2002年に世界で初めてクロマグロの完全養殖に成功しました。

人工ふ化した魚を親魚まで育て、その親が産んだ卵から次の世代を育てることで、天然の幼魚を捕獲することに頼らない生産につなげています。

💡完全養殖と陸上養殖は、別の観点の言葉です

完全養殖は、世代をつなぐ繁殖の仕組みに関する言葉です。陸上施設で種苗を生産し、その後は海の生け簀で育てることもあります。「完全養殖=陸上で育てること」ではありません。

4.サーモンとクロマグロを比べてみよう

ここまでの違いを整理すると、次のようになります。

比較する点サーモンクロマグロ
魚の種類複数のサケ・マス類を含む今回はクロマグロを対象とする
養殖の出発点人工種苗の利用が中心天然種苗と人工種苗を利用
育てる場所魚種や方式により、淡水・海の生け簀・陸上水槽など種苗生産には陸上施設を使い、出荷までの育成は主に海の生け簀
押さえたい特徴育成段階によって場所が変わる方法もある養殖と完全養殖は同じ意味ではない

同じ養殖でも、魚の種類や生産方法によって、出荷までの過程は異なります。必要な期間や適した水温なども変わるため、単純にどちらが育てやすいと決めることはできません。

5.養殖を支える技術と、地域のつながり

魚を育てるためには、安定して種苗を確保し、魚に合った餌や飼育方法を用意する必要があります。サーモンでは、養殖に適した成長のよい系統を選んで育てる研究なども進められています。「育種(いくしゅ)」と呼ばれる、魚の性質を世代を通じて改良していく取組です。

養殖は、目の前の魚を育てる技術だけでなく、次の生産を支える種苗や飼料の研究にも支えられています。こうした技術やノウハウも、事業者の大切な財産になります。

また、養殖は一つの場所、一つの事業者だけで完結するとは限りません。兵庫県の「淡路島サクラマス」では、内陸の神河町にある長谷漁協が海面養殖用の稚魚生産に取り組み、南あわじ市の福良地域での養殖につなげています。

淡水での稚魚育成と、海での育成が、地域を越えて結び付いている例です。飲食店や宿泊施設が参加するグルメフェアも行われており、養殖した魚を地域の魅力として届ける取組へと広がっています。

6.安定供給への期待と、続けていくための課題

養殖の強みの一つは、計画的に魚を育て、品質や出荷量、出荷時期を管理しやすいことです。必要な時期に、一定の品質と量の魚を届けやすいことは、販売店や飲食店にとっても扱いやすさにつながります。

ただし、養殖であれば価格が変わらない、いつでも予定どおりに出荷できる、という意味ではありません。魚類養殖では餌代などの負担が大きく、経営を続けるためには、収入の確保やコストの管理も重要になります。

天然種苗を使う養殖では、育て始める魚の確保と資源管理の両立も必要です。人工種苗の利用を進める場合にも、種苗を安定して生産する技術が求められます。

完全養殖によって天然の幼魚への依存を減らせても、飼料の原料や環境への負荷などは、別に考える必要があります。種苗と餌の両面から、天然資源への負担を減らす取組が進められています。

陸上養殖も、海洋環境の変化の影響を受けにくい方法として期待される一方、設備への初期投資や電力使用量が大きく、コスト削減が課題です。

どの方法にも強みと課題があります。魚の性質や地域の環境、事業の条件に合った方法を選び、継続できる生産体制を整えることが大切です。

7.まとめ―魚に合った育て方が、食卓を支えている

サーモンとクロマグロは、どちらも食卓で親しまれている魚ですが、種苗の確保や育てる場所、出荷までの過程には違いがあります。

そして、「海面養殖・陸上養殖」は育てる場所に関する言葉であり、「完全養殖」は世代をつなぐ繁殖の仕組みに関する言葉です。この違いを知ると、養殖のニュースや商品の説明も理解しやすくなります。

売り場に並ぶ一尾の魚の背景には、種苗を生産する人、日々魚を育てる人、技術を研究する人、加工や販売を担う人など、さまざまな仕事があります。

養殖を知ることは、魚の育て方だけでなく、私たちの食卓を支える水産業の姿を知ることにもつながります。

□ 次回予告

次回は、陸上の水槽で水産物を育てる「陸上養殖」を取り上げます。水を管理する仕組みや特徴とともに、事業を始める際に確認したい届出などの行政手続を見ていきます。

📚過去記事

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🔗参考記事

※本記事は2026年10月7日時点で確認できた公表資料をもとに作成しています。過去の資料を参照した内容は、その資料時点の情報です。養殖方法は魚種や生産者、施設などによって異なります。

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