Xのアイコン画像でも著作権侵害?認容額6万5,000円でも注目したい東京地裁判決

SNSのアイコンには、自分の好きな写真やイラストを設定している方も多いのではないでしょうか。

令和8年4月24日に東京地方裁判所で言い渡された判決では、X(旧Twitter)のアイコン画像として使用された商品写真について、著作権侵害が認められました。

この事件では、原告が約88万円の損害賠償を請求しましたが、裁判所が認めた金額は6万5,000円でした。

この数字だけを見ると、「思ったより少ない」「それほど大きな問題ではないのでは」と感じる方もいるかもしれません。

しかし、この判決で本当に注目したいのは、認められた金額の大きさではありません。

重要なのは、裁判所が「SNSのアイコン画像として商品写真を使用した行為について、著作権侵害が成立する」と判断した点です。

今回は、この判決の内容と、認容額が低く見える場合でも著作権侵害が認められることの意味について、分かりやすく解説します。

どのような事件だったのか

この事件では、化粧品等を販売する会社の商品写真が問題となりました。

被告は、その商品写真をトリミングしたうえで、自身のX(旧Twitter)アカウントのアイコン画像として使用していました。

写真は、令和4年7月13日から令和7年10月9日まで、約3年3か月にわたってアイコン画像として利用されていました。

これに対し、写真の著作権を有すると主張する会社が、被告に対して損害賠償を請求しました。

被告側は、「商品を正面から撮影しただけの写真であり、著作物とはいえない」といった主張をしましたが、裁判所は最終的に著作権侵害を認めています。

まずは、事件の概要を整理してみましょう。

項目内容
問題となった画像商品写真
使用方法X(旧Twitter)のアイコン画像
加工の有無トリミングあり
使用期間約3年3か月
請求額約88万円
認容額6万5,000円

この判決で注目したいポイント

この判決を見たとき、まず「認められた金額が少ない」と感じる方もいるかもしれません。

私自身も、最初は請求額と認容額の差が大きいと感じました。

しかし、判決を読んでいくと、この事件の本質は金額の多い少ないだけではないことが分かります。

裁判所は、原告の請求額をそのまま認めたわけではありません。

一方で、著作権侵害そのものについては、原告の主張を認めています。

つまり、この判決は「6万5,000円しか認められなかった判決」というよりも、「SNSのアイコン画像として使われた商品写真について、著作権侵害が認められた判決」と見る方が、本質に近いと思います。

著作権侵害が成立するかどうかと、損害賠償としていくら認められるかは、分けて考える必要があります。

この裁判では、まず商品写真に著作物性があるかが問題となりました。

被告側は、問題となった写真について、白い背景で商品を正面から撮影しただけであり、創作性はないと主張しました。

しかし裁判所は、商品写真について、商品の配置や陰影などを調整して撮影されたものであり、撮影者の個性が現れているとして、著作物性を認めました。

商品写真というと、芸術写真や風景写真と比べて創作性が低いように感じる方もいるかもしれません。

しかし、商品をどのように配置するか、どの角度から撮るか、光や影をどのように調整するかによって、写真の印象は大きく変わります。

そのため、商品写真であっても、撮影者の工夫や個性が表れていれば、著作物として保護される場合があります。

また、被告が使用していた画像は、元の写真をそのまま使用したものではなく、トリミングされたものでした。

しかし裁判所は、トリミング後の画像からも元の写真の本質的特徴を直接感じ取ることができるとして、複製権および公衆送信権の侵害を認めています。

ここも重要な点です。

画像を少し加工したり、一部を切り取ったりしたとしても、それだけで著作権侵害を避けられるわけではありません。

なぜ88万円の請求が6万5,000円になったのか

では、なぜ原告の請求額約88万円に対し、裁判所が認めた金額は6万5,000円だったのでしょうか。

ここで大切なのは、裁判所が原告の主張をすべて否定したわけではないという点です。

原告の請求額には、純粋な使用料相当額だけでなく、被告を特定するための発信者情報開示請求等の費用や、弁護士費用も含まれていました。

裁判所は、それぞれの項目について、次のように判断しています。

項目原告の主張裁判所の判断
使用料相当額55万円5万円
特定費用25万6,068円1万円
弁護士費用8万606円5,000円
合計約88万円6万5,000円

使用料相当額について、裁判所は写真家団体の使用料規程などを参考にしながら、写真の内容や利用態様を踏まえて5万円と判断しました。

また、発信者情報開示請求等の費用についても、まったく認めなかったわけではありません。

ただし、発信者情報開示請求の対象には被告以外のアカウントも含まれていたことなどを考慮し、この事件との関係で相当といえる範囲を1万円と判断しました。

弁護士費用についても、著作権侵害と相当因果関係のある範囲として5,000円が認められています。

つまり、裁判所は「著作権侵害はあった」と認めたうえで、「ただし、損害額は請求額どおりではなく、事案に応じて算定する」と判断したといえます。

この点は、著作権侵害を考えるうえでとても大切です。

侵害が認められることと、高額な損害賠償が認められることは、必ずしも同じではありません。

SNSのアイコンだから大丈夫とはいえない

SNSのアイコン画像は、気軽に設定できるものです。

そのため、「ネットで見つけた画像を少し使うくらいなら問題ないだろう」と考えてしまう方もいるかもしれません。

しかし、今回の判決は、SNSのアイコン画像としての利用であっても、著作権侵害が成立し得ることを示しています。

特に次のような画像を利用する場合は注意が必要です。

  • 他人が撮影した写真
    撮影した人に著作権が認められる場合があります。インターネット上で公開されている写真であっても、自由に使ってよいとは限りません。
  • 企業や店舗の商品写真
    公式サイトやECサイトに掲載されている商品写真にも著作権が認められることがあります。今回の判決でも商品写真の著作物性が争点となりました。
  • イラストやキャラクター画像
    著作権だけでなく、商標権や利用規約の問題が生じる場合があります。ファンアートや配布画像であっても、利用条件の確認が大切です。
  • フリー素材
    「無料」であっても利用条件が設定されていることがあります。商用利用の可否やクレジット表記の有無など、利用規約の確認が必要です。

もちろん、すべての無断使用が直ちに裁判になるわけではありません。

しかし、「アイコンだから」「小さな画像だから」「少し加工したから」という理由だけで、著作権の問題がなくなるわけではありません。

今回の判決は、SNS上の利用であっても著作権侵害が認められる場合があることを示した事例です。

画像を利用する際は、誰が権利を持っているのか、利用が許諾されているのかを確認することが大切です。

まとめ

今回の判決で認められた損害額は6万5,000円でした。

そのため、金額だけを見ると「思ったより少ない」と感じる方もいるかもしれません。

しかし、この判決の重要なポイントは、認容額の大きさではありません。

裁判所が、商品写真をトリミングしてX(旧Twitter)のアイコン画像として使用した行為について、著作権侵害を認めた点にあります。

著作権侵害が成立するかどうかと、いくらの損害賠償が認められるかは、分けて考える必要があります。

今回の判決は、SNSのアイコン画像であっても、他人の写真を無断で使うことには法的リスクがあることを改めて示した事例といえるでしょう。

画像は気軽に使える時代ですが、気軽に使えることと、自由に使ってよいことは同じではありません。

日常的にSNSを利用する方にとっても、著作権を身近な問題として考えるきっかけになる判決だと思います。

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