Anthropic和解2400億円から考えるAIと著作権|海賊版利用は許されない基本原則

生成AI開発企業Anthropic(アンソロピック)をめぐる著作権訴訟で、約15億ドル(約2,400億円)の和解が米国の連邦地裁で正式に承認されました。

米国の著作権侵害訴訟では、過去最大規模とみられる和解です。

ところで、このニュースを見て、

「昨年もAnthropicの和解について報じられていたのでは?」

と感じた方もいらっしゃるかもしれません。

2025年には、当事者が和解案に合意し、その後、裁判所による予備承認が行われました。そして2026年7月、裁判所が和解を最終承認したことで、正式に成立したという流れです。

※この記事は、2025年に公開した「AI学習と著作権、米国で2200億円和解が示す新たな課題」の続報です。

今回は、2024年の提訴から2026年の和解の最終承認までを時系列で整理し、裁判所が途中段階で示した判断と、今回の和解との関係を分かりやすく解説します。

そして、この事件から見えてくる、AI時代にも変わらない著作権の基本原則について考えます。

Anthropicをめぐる著作権訴訟とは

Anthropicは、生成AI「Claude」を開発する米国のAI企業です。

2024年、複数の作家が、自分たちの著作物が許可なくAIの学習などに利用されたとして、Anthropicを相手取り米国で集団訴訟を提起しました。

この訴訟では、AnthropicがAIの開発に用いるため、書籍をどのように取得し、保存し、利用していたのかが問題となりました。

特に大きな争点となったのが、次の2つです。

  • 正規に購入した書籍をデジタル化して利用したこと
  • 海賊版サイトから大量の書籍データを取得したこと

裁判所は、この2つを同じものとして扱わず、書籍の取得方法や利用目的などを区別して判断しました。

提訴から和解の正式承認までを時系列で整理

今回のニュースを理解するためには、2024年から2026年までの流れを整理することが大切です。

時期主な出来事
2024年作家らが、著作物を許可なくAI学習などに利用されたとしてAnthropicを提訴しました。
2025年6月裁判所が訴訟の途中段階で一部の争点について判断を示しました。AIの学習目的での利用などについては、米国著作権法上の「フェアユース(公正利用)」に当たるとした一方、海賊版サイトから取得し、中央ライブラリーとして保存した書籍については著作権侵害に当たると判断しました。
2025年9月当事者が約15億ドルの和解案に合意し、裁判所が和解案を予備承認しました。
2026年7月裁判所が和解を最終承認し、約15億ドル(約2,400億円)の和解が正式に成立しました。

つまり、2025年の報道は「和解案への合意と予備承認」を伝えるものであり、2026年の報道は「裁判所による最終承認」を伝えるものです。

昨年と今回のニュースは、別々の和解について報じたものではありません。同じ訴訟における一連の手続きです。

「裁判所の判断」と「和解」はどうつながるのか

この記事では、「裁判所の判断」と「和解」という言葉が登場します。

この2つは、同じ意味ではありません。

裁判所は2025年6月、訴訟の途中段階で、一部の争点について判断を示しました。

その後、裁判所が最終的な判決によって支払額を決めたのではなく、裁判所の途中段階の判断を踏まえて、当事者間で和解案がまとめられました。

今回の流れ

裁判所が途中段階で判断を示す

当事者が和解案に合意する

裁判所が和解案を予備承認する

対象者への通知や異議申立てなどの手続きを行う

裁判所が最終承認し、和解が正式に成立する

集団訴訟では、当事者が和解案に合意しただけで直ちに手続きが終了するわけではありません。

和解によって多数の対象者の権利に影響が及ぶため、裁判所が内容を審査し、最終的に承認する手続きが必要です。

今回の約2,400億円という金額は、裁判所が損害賠償額として命じた「判決額」ではなく、当事者が合意し、裁判所が最終承認した「和解額」です。

裁判所は何を適法・違法と判断したのか

2025年6月、裁判所は一部の争点について、正規に取得した書籍と海賊版サイトから取得した書籍を区別して判断しました。

正規に購入した書籍の利用

Anthropicは、正規に購入した紙の書籍をデジタル化し、AIの学習などに利用していました。

裁判所は、本件の事実関係の下では、AIの学習目的で書籍を利用した行為などについて、米国著作権法上の「フェアユース(公正利用)」に当たるとの判断を示しました。

ただし、これは「正規購入した著作物であれば、どのようなAI学習への利用も常に適法になる」という意味ではありません。

フェアユースに当たるかどうかは、利用の目的や性質、利用された著作物の性質、利用された量、市場への影響などを踏まえて、個別に判断されます。

海賊版サイトから取得した約700万冊

一方、Anthropicは、海賊版サイトから約700万冊の書籍を無料で取得し、中央ライブラリーとして保存していました。

裁判所は、この海賊版書籍の取得・保存について、フェアユースではなく、著作権侵害に当たると判断しました。

対象となった行為裁判所の判断
正規購入した書籍をデジタル化し、AI学習などに利用本件ではフェアユースに当たると判断
海賊版サイトから書籍を取得し、中央ライブラリーとして保存著作権侵害に当たると判断

このように裁判所は、単に「AIに利用したかどうか」だけで結論を出したのではなく、著作物をどのように取得し、何のために複製・保存したのかを分けて判断しています。

この事件で重要なポイント

今回のニュースは、見出しだけを見ると、

「AI学習は合法と認められた」

あるいは、

「AIによる著作物の利用が違法とされた」

と受け取られる可能性があります。

しかし、この事件をそのように単純化することはできません。

裁判所が問題としたのは、AIという技術そのものではなく、著作物の取得方法や利用のされ方です。

AIだから特別なのではなく、海賊版を利用してはいけないという著作権の基本原則は変わりません。

今回問題となったのは、AIを開発したこと自体ではありません。

海賊版サイトから、著作権者の許可なく大量の書籍を取得し、保存したことです。

新しい技術が登場したからといって、他人の著作物を尊重し、適法な方法で利用するという基本的な考え方まで変わるわけではありません。

AIによって著作権侵害が大規模化する可能性

著作権の基本原則は変わりませんが、AIがもたらす新たな課題についても考える必要があります。

今回、海賊版サイトから取得された書籍は約700万冊とされています。

一人の利用者が数冊の海賊版を入手する場合と、企業がAI開発などのために数百万冊を一括して取得する場合とでは、その規模や影響は大きく異なります。

AIは、膨大な量の情報を短時間で収集・処理できる技術です。

適切に活用すれば、社会や産業に大きな利益をもたらす可能性があります。

一方で、不適切な方法で著作物が収集・利用されれば、侵害される著作物の数や権利者の範囲も、これまでとは比較にならないほど大きくなる可能性があります。

問題は「AIだから特別に違法である」ということではありません。

しかし、AIを利用することによって、従来から存在する著作権侵害が、極めて大規模に行われるおそれがあることは、憂慮すべき点です。

技術の規模が大きくなるほど、開発・利用する側には、データの入手経路や権利関係を適切に確認する姿勢が求められます。

日本の著作権法とは分けて考える必要がある

今回の裁判は、米国著作権法に基づくものです。

米国には「フェアユース」という制度があり、一定の利用について、複数の要素を総合的に考慮して著作権侵害に当たるかどうかを判断します。

一方、日本では、著作権法第30条の4に、情報解析などを目的とする著作物の利用についての規定があります。

ただし、米国のフェアユースと日本の著作権法第30条の4は、制度の仕組みや判断方法が同じではありません。

そのため、今回の米国の判断を、そのまま日本に当てはめて「日本でもAI学習はすべて適法」「海賊版でなければ問題ない」と考えることはできません。

また、日本でも、著作物の利用方法だけでなく、元となるデータをどのように入手したのかという点は重要です。

海外の裁判例を参考にする場合には、どの国の法律に基づく判断なのかを確認し、日本法上の問題とは分けて理解する必要があります。

まとめ

Anthropicをめぐる著作権訴訟では、2025年に当事者が約15億ドルの和解案に合意し、2026年7月に裁判所が最終承認したことで、和解が正式に成立しました。

裁判所は訴訟の途中段階で、AIの学習目的での利用などについては、本件ではフェアユースに当たると判断しました。

その一方で、海賊版サイトから取得した約700万冊の書籍を中央ライブラリーとして保存したことについては、著作権侵害に当たると判断しています。

今回の事件で問われたのは、「AIだから」ということではありません。

海賊版を利用してはいけないという著作権の基本原則は、AI時代になっても変わりません。

ただし、AIは膨大な量の情報を収集・処理できるため、不適切な利用が行われた場合には、著作権侵害の規模や社会への影響も非常に大きくなる可能性があります。

新しい技術を活用する時代だからこそ、著作物を適法に取得し、権利者を尊重するという基本に立ち返ることが、これまで以上に重要になるのではないでしょうか。

2025年の記事

AI学習と著作権、米国で2200億円和解が示す新たな課題

2025年の和解案合意時点で、AI学習とフェアユース、海賊版利用の問題について解説した記事です。

参考にした報道・資料

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