ソニーら音楽レーベルとInternet Archiveが和解
――著作権とアーカイブ保存のバランスとは
目次
はじめに
2025年9月、世界中で話題となった著作権訴訟が和解に至りました。原告はソニーやユニバーサルなどの大手レコードレーベル、被告は文化保存を掲げる非営利団体「Internet Archive(IA)」。
争点は、古いレコード音源を無料公開していた「Great 78 Project」にありました。この問題は、単なる著作権侵害の是非にとどまらず、「文化の保存」と「著作権の保護」という二つの価値のバランスが問われる重要なテーマです。
本記事では、訴訟の経緯・和解内容・その意義と影響について、わかりやすく解説します。
Great 78 Projectとは
Internet Archiveが手がけてきた「Great 78 Project」は、1890年代から1950年代にかけて販売されていた「SP盤(78回転レコード)」をデジタル化し、誰でも無料で視聴・ダウンロードできるようにするプロジェクトです。
研究者・教育関係者・文化保存の専門家からは高い評価を得てきましたが、音源の中には現在も著作権保護期間中の作品も多数含まれていたことが、今回の訴訟の発端となりました。
訴訟の概要
レーベル各社は2023年に訴訟を提起。IAのプロジェクトが著作権を侵害していると主張しました。
当初、損害額は約4億ドルとされていましたが、後に対象作品が拡大され、請求額は最終的に約6億2100万ドルにまで増加しました。
一方、IA側は利用数は限定的で損害は軽微であると主張。さらに、非営利目的かつ教育・保存を目的とするため「フェアユース」に該当するという主張も展開しました。
レーベル側の主張
- SP盤音源の多くはすでに自社でデジタル化し、各種配信サービスで提供済み。
- IAによる無料公開で再生数や収益が減少。
- 訴訟中に対象音源を追加し、被害額は約7億ドルと主張したとも報道されています。
このように、レーベル側は商業的損害と著作権の侵害を強く主張しました。
Internet Archive側の主張
- あくまで非営利で、保存・教育・研究目的。
- 「すでに消えかけている音源」を後世に残すための活動。
- 公開音源の再生数は限られており、金銭的被害は過大評価されている。
さらに、IA側はレーベルが訴訟中に対象作品を不明瞭な形で追加していった点にも抗議しています。
和解の内容と不明点
2025年9月、両者は和解に合意し、訴訟は「再訴不可(with prejudice)」で取り下げられる予定です。
ただし、和解条件は非公開。以下の点は未だ明らかにされていません:
- 実際の支払金額
- 対象となる録音の範囲とその取り扱い(削除・制限など)
- 今後の公開方針やライセンス契約の有無
このように、公開情報は限られており、今後の動向を注視する必要があります。
著作権と公共の利益のバランス
この訴訟は、単なる金銭問題ではなく、「文化を未来に残す活動」と「著作権者の正当な利益」の調和を問うものでした。
例えば、日本でも図書館や公的機関が資料保存を行う際には著作権例外が認められています。アメリカでも「フェアユース」や「アーカイブ例外」が存在しますが、その範囲は必ずしも明確ではありません。
今回の和解は、こうした線引きをめぐる実務上の大きな教訓となります。
私たちが気をつけるべきこと
- 古い音源でも「著作権が切れていない」場合がある
- 無料でネットに出ている=自由に使って良い、とは限らない
- 海外の著作権期間と日本国内の保護期間は異なる
中小事業者や個人であっても、使おうとするコンテンツの「出典」「著作権状態」「利用条件」を必ず確認することが大切です。
おわりに
文化の保存と著作権の保護。どちらも大切な価値です。
今回の和解は、未来に向けて「どうバランスを取るか」を考えるきっかけとなりました。
私たち一人ひとりも、日々の活動の中で「正しく使う」「確認する」という意識を持つことが、文化の発展と保護の両立に繋がります。
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