個人で始める?法人で始める?農業経営の形と農地所有適格法人

農業を始めようと考えたとき、まず思い浮かぶのは、「何をつくるのか」「どこで農業をするのか」「資金をどう準備するのか」といったことではないでしょうか。

でも、実際に農業を「仕事」として始めるなら、もう一つ考えておきたいことがあります。

それが、どのような形で農業を経営するのかということです。

自分一人で個人として始める方法もあれば、会社などの法人を設立して農業を行う方法もあります。

さらに、農業について調べていると、「農業法人」や「農地所有適格法人」という、少し聞き慣れない言葉も出てきます。

「農業を始めるなら法人にした方がいいの?」
「法人で農業をするなら、農地所有適格法人にならないといけない?」
「そもそも個人でも農地を持てるの?」

今回は、そんな疑問を入り口に、農業経営の形について見ていきましょう。

農業は個人でも法人でも始められる

まず知っておきたいのは、農業を始めるために、必ず法人を設立しなければならないわけではないということです。

個人で農業経営を始めることもできますし、会社などの法人として農業を経営することもできます。

「個人経営=小さな農業」「法人経営=大規模な農業」と考えてしまいそうですが、必ずしもそうとは限りません。

個人で規模の大きな農業を営んでいる方もいれば、少人数の法人もあります。

大切なのは、規模だけで判断するのではなく、

「誰と農業をするのか」
「これからどのくらい事業を広げたいのか」
「従業員を雇う予定はあるのか」
「将来、誰かに経営を引き継ぐことを考えているのか」

など、自分が目指す農業経営の姿に合わせて考えることです。

個人で農業を始める場合

これから農業を始める方にとって、まず考えやすいのが個人での経営です。

個人であれば、法人を設立するための手続きは必要ありません。法人と比べると、経理や税務などの面でも比較的シンプルに始めることができます。

「まずは自分で農業を始めてみたい」
「家族を中心に経営していきたい」

という場合には、個人経営からスタートすることも一つの方法です。

ただし、農業を続けていくうちに、経営規模が大きくなったり、従業員を雇うようになったり、家族以外の人と一緒に経営するようになったりすることもあります。

また、将来、自分以外の誰かに農業経営を引き継いでもらいたいと考えることもあるでしょう。

そのような段階になったときには、法人化を検討することも選択肢の一つになります。

最初から「個人か法人か」をずっと固定して考える必要はありません。まず個人で始め、経営の成長や将来の方向性に合わせて法人化するという方法もあります。

法人で農業を経営するという選択肢

農業は、法人として経営することもできます。

農林水産省では、「農業法人」を、稲作などの土地利用型農業だけでなく、施設園芸や畜産なども含め、農業を営む法人の総称としています。

法人の形としては、株式会社や合同会社などの会社法人のほか、農業特有の法人形態である農事組合法人などがあります。

農事組合法人は、農業生産の協業を図ることを目的とした農業特有の法人で、組合員は原則として農民の方です。農業に関する共同利用施設の設置や農作業の共同化、農業経営などを行うことができます。

法人化することで、組織として人を雇用したり、複数の人で役割を分担したりしやすくなります。

農林水産省でも、農業経営を法人化することによって、人材を確保しやすくなったり、融資を受けやすくなったりするなど、さまざまなメリットがあるとしています。

また、経営者個人とは別に法人そのものが存在するため、将来の事業承継を考えるうえでも選択肢が広がります。

一方で、法人を設立すれば、設立や運営のための手続きが必要になります。会計や税務、社会保険など、個人経営と比べて管理すべきことも増えていきます。

そのため、「法人にした方が何となく良さそう」という理由だけで法人化するのではなく、これからどのような農業経営をしていきたいのかを考えたうえで選ぶことが大切です。

「農業法人」と「農地所有適格法人」は同じ?

ここで、農業ならではの言葉が登場します。

「農地所有適格法人」です。

名前だけを見ると、

「法人で農業をするなら、農地所有適格法人にならなければいけないのかな?」

と思うかもしれません。

しかし、「農業法人」と「農地所有適格法人」は同じ意味ではありません。

「農業法人」は、農業を営む法人を広く表す言葉です。

これに対して「農地所有適格法人」は、農地法で定められた一定の要件を満たし、農地を所有することが認められる法人です。

つまり、農業法人のすべてが、農地所有適格法人というわけではありません。

法人として農業を行うことと、その法人が農地を所有できることは、分けて考える必要があります。

農地所有適格法人とは?

では、どのような法人が「農地所有適格法人」になれるのでしょうか。

農地所有適格法人として農地を所有するためには、農地法上の一定の要件を満たす必要があります。

基本となるのは、次の4つの要件です。

① 法人形態の要件

株式会社であれば公開会社でないもの、農事組合法人、合名会社、合資会社、合同会社など、認められる法人形態が決められています。

② 事業の要件

法人の主たる事業が農業であることが必要です。

ここでいう農業には、農産物をつくることだけでなく、自ら生産した農産物の加工や販売など、農業に関連する事業も含まれます。

原則として、農業とその関連事業による売上高が法人全体の売上高の過半を占めることが求められます。

③ 議決権の要件

法人の意思決定に誰が関わるのかについても要件があります。

原則として、農業に常時従事する人や農地を提供した人などの農業関係者が、総議決権の過半を占める必要があります。

④ 役員の要件

役員についても、実際に農業に関わる人が一定数いることが求められます。

原則として、役員の過半がその法人の農業に常時従事する構成員であり、さらに役員または重要な使用人のうち1人以上が、実際に農作業に従事することなどが要件とされています。

このように、会社を設立して「農業をします」と決めれば、自動的に農地所有適格法人になるわけではありません。

農地を所有する法人だからこそ、農業を主体として経営し、実際に農業に携わる人が法人の経営にも関わる仕組みになっているのです。

※農地所有適格法人の要件には特例が設けられている場合もあります。実際に農地の取得や法人化を検討する場合には、最新の制度や個別の要件を確認することが大切です。

農地を「借りる」場合はどうなる?

ここまで読むと、

「では、農地所有適格法人でなければ、法人として農業はできないの?」

と思うかもしれません。

実は、ここが農地制度の興味深いところです。

農地を「所有する」のか、「借りる」のかによって扱いが異なります。

農地所有適格法人ではない一般法人であっても、一定の要件を満たせば、農地を借りて農業に参入することができます。

たとえば、農地を適正に利用しない場合には貸借を解除する旨の条件が契約に付されていることや、法人の業務執行役員または重要な使用人のうち1人以上が、その法人の行う農業に常時従事することなどが求められます。

つまり、

農地を所有して農業をする法人

農地を借りて農業をする法人

では、求められる要件が違うということです。

「法人で農業をする=必ず農地所有適格法人にならなければならない」というわけではありません。

一般企業が新たに農業へ参入する場合などには、農地を購入するのではなく、借りるという方法で農業を始めることもできます。

ただし、「借りるなら自由に農地を使える」ということではありません。農地の権利を取得するためには農地法などに基づく手続きが必要であり、農地を適正に利用することも求められます。

また、農地所有適格法人や、農地を借りて農業に参入する一定の法人には、農業委員会への事業状況等の報告義務があります。

法人として農業へ参入する場合にも、農地を継続して適正に利用していくことが大切なのです。

農業経営の形と農地利用の違い

ここまでの内容を、農業経営の形と農地の利用という視点から簡単に整理してみましょう。

個人経営農地所有適格法人一般法人(賃借)
農業経営できるできるできる
農地の所有一定の要件・手続きのもと可能一定の要件・手続きのもと可能原則できない
農地の賃借一定の要件・手続きのもと可能一定の要件・手続きのもと可能一定の要件・手続きのもと可能
特徴比較的シンプルに始めやすい農地法上の要件を満たす法人農地を借りて農業に参入できる
考え方の一例まず個人で始めたい場合法人として農地を所有したい場合既存法人などが農業へ参入する場合

※農地の取得や賃借には、農地法などに基づく手続きや要件があります。実際に農地の取得・賃借を検討する場合は、農業委員会などに確認しましょう。

このように、「農業をすること」と「農地を所有すること」は分けて考える必要があります。

特に法人の場合、農地を所有するのか、借りるのかによって必要となる要件が異なります。

個人と法人、どちらを選べばいい?

では、これから農業を始めるなら、個人と法人のどちらがよいのでしょうか。

すべての人に共通する正解があるわけではありません。

まずは自分一人で始めたいのか。

家族と一緒に経営したいのか。

将来は従業員を雇い、経営規模を広げていきたいのか。

複数の人と一緒に経営したいのか。

将来、次の世代へ農業経営を引き継いでいきたいのか。

そして、法人として農地を所有したいのか、それとも借りて経営するのか。

目指す農業の姿によって、適した経営の形も変わってきます。

農林水産省の「農業参入ポータル」でも、農業参入を考える際には、いきなり農地を探したり法人を設立したりするのではなく、まず農業参入の全体像を知り、「なぜ農業に参入するのか」を考えたうえで構想を整理し、行政や地域への相談、事業計画の作成、農地の確保などへ進んでいく流れが示されています。

これは、これから個人で農業を始めようとする場合にも参考になる考え方ではないでしょうか。

法人化するかどうかを決めることが、農業経営のスタートではありません。

まず、

「なぜ農業を始めるのか」
「何をつくりたいのか」
「どこで、誰と、どのように農業を営んでいきたいのか」

を考える。

そして、その農業を5年、10年と続けていくために、どのような経営の形が自分に合っているのかを考えていくことが大切です。

最初は個人で農業を始め、経営の成長に合わせて後から法人化するという方法もあります。

大切なのは、最初から完璧な形を選ぶことではありません。

自分が目指す農業経営に合った形を、その時々で考えていくことではないでしょうか。

まとめ

農業は、個人でも法人でも始めることができます。

そして、法人で農業をするからといって、必ず「農地所有適格法人」にならなければならないわけではありません。

農業を営む法人を広く「農業法人」と呼び、その中で農地法上の一定の要件を満たし、農地を所有することができる法人が「農地所有適格法人」です。

また、農地所有適格法人ではない一般法人でも、一定の要件を満たせば、農地を借りて農業へ参入することができます。

個人で始めるのか、法人として始めるのか。

農地を所有するのか、借りるのか。

どれか一つが必ず正解というわけではありません。

まず考えたいのは、

「自分は、どんな農業をしたいのか」

ということです。

さらに一歩踏み込めば、

「なぜ農業を始めたいのか」

ということも、これからの経営を考えるうえで大切な出発点になります。

農業を事業として長く続けていくためには、農地や資金だけでなく、自分が目指す農業に合った「経営の形」についても考えてみてはいかがでしょうか。

📢次回予告

次回は、今回のフェーズ完結編として、「農産物を『作った後』はどう売る?契約と取引の基本」を取り上げます。

農産物を作るだけでなく、「誰に、どのように売るのか」も農業経営では大切なポイントです。販売方法や取引の形、契約するときに確認しておきたい基本について、初めての方にも分かりやすく見ていきます。

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