新規就農にはどんなお金が必要?資金調達と支援制度を解説

「農業を始めてみたい」と思ったとき、避けて通れないのが「お金」の問題です。

農地を確保すれば、すぐに農業を始められるわけではありません。

農業機械や施設、種苗や肥料などの資材をそろえるためのお金が必要です。また、作物を育てて収穫し、販売して収入を得るまでには時間がかかります。

そのため、新規就農を考えるときには、「農業を始めるためにいくら必要なのか」だけでなく、「経営が軌道に乗るまでのお金をどう確保するのか」まで考えておくことが大切です。

新規就農者を支援するため、国などには融資や資金交付などの制度も用意されています。

今回は、新規就農にはどのようなお金が必要なのかを整理しながら、代表的な資金調達や支援制度について分かりやすくご紹介します。

1.農業を始めるには、何にお金がかかる?

農業を始めるために必要なお金は、どのような農業を行うのかによって大きく異なります。

たとえば、農業機械を購入するのか、借りるのか。ハウスなどの施設が必要なのか。どのような作物を、どのくらいの規模で生産するのかによっても必要な資金は変わります。

主なものとしては、農業機械や施設の導入費、種苗・肥料・農薬などの資材費、燃料費や水道光熱費、販売や運搬に必要な費用などが考えられます。

さらに忘れてはいけないのが、農業収入が安定するまでの期間です。

農業は、作物を植えればすぐに売上が入ってくる仕事ではありません。作物によっては収穫まで長い期間を要しますし、収穫できても、最初から安定した収入が得られるとは限りません。

そのため、農業を始めるための初期費用だけを見るのではなく、経営が軌道に乗るまでの運転資金や生活費についても考えておく必要があります。

2.新規就農の資金はどうやって準備する?

新規就農に必要な資金をすべて自己資金だけで準備できるとは限りません。

そこで、資金を準備する方法として、大きく次の3つが考えられます。

  • 自己資金
  • 融資
  • 国や自治体などによる支援

大切なのは、「利用できる補助金はいくらあるのか」から考えるのではなく、まず自分が目指す農業には何が必要で、どのくらいのお金がかかるのかを整理することです。

そのうえで、自己資金でどこまで準備できるのか、融資を利用する必要があるのか、利用できる支援制度があるのかを考えていきます。

農業も一つの事業です。

資金調達についても、「お金を集める」というだけではなく、その後の経営まで見据えて計画することが重要です。

3.新規就農者向けの代表的な融資「青年等就農資金」

前回までの記事で「認定新規就農者」についてご紹介しました。

この認定は、資金調達とも関係しています。

認定新規就農者が利用できる代表的な制度の一つが、日本政策金融公庫の「青年等就農資金」です。

青年等就農資金は、新たに農業経営を始めるために必要となる施設・機械の取得や家畜の購入、果樹や茶などの新植・改植、経営開始に伴って必要となる資材費など、幅広い用途に利用できる無利子の融資制度です。

融資限度額は3,700万円で、一定の要件を満たす場合には特認として1億円までとなっています。

返済期間は17年以内で、そのうち据置期間は5年以内です。

ここで注意したいのが、「無利子=返済しなくてもよい」ということではない点です。

利息はかかりませんが、融資ですから借りたお金は返済する必要があります。

また、認定新規就農者であれば必ず希望どおりに借りられるわけではなく、審査があります。

「いくら借りられるのか」だけではなく、将来どのように収益を上げ、どのように返済していくのかまで考える必要があります。

4.就農前の研修を支える「就農準備資金」

農業を始めるには、栽培技術や経営に関する知識を身につけるための準備期間が必要になることがあります。

その研修期間を資金面から支える制度が「就農準備資金」です。

一定の要件を満たす研修生を対象として、就農に必要な技術などを習得するための研修期間中の資金が交付されます。

令和8年度は、交付額が月13万7,500円、年間165万円となり、最長2年間の支援が行われます。

ただし、「農業の研修を受ければ誰でも受け取れる」という制度ではありません。

就農予定時の年齢や研修先、所得など一定の要件がありますので、利用を考える場合には事前に最新の要件を確認する必要があります。

農業を始める前の段階にも生活があります。

技術を学びながら就農に向けた準備を進める人を支える制度と考えると、分かりやすいでしょう。

5.就農直後を支える「経営開始資金」

就農準備資金が「農業を始める前」を支える制度だとすれば、「経営開始資金」は、農業経営を始めた後を支える制度です。

独立・自営就農する認定新規就農者など、一定の要件を満たす人を対象として、経営が安定するまでの資金が交付されます。

令和8年度の交付額は、就農準備資金と同じく月13万7,500円、年間165万円で、最長3年間です。

新しく農業を始めても、すぐに十分な収入が得られるとは限りません。

その不安定になりやすい時期を支え、農業経営の確立につなげていくための制度です。

こちらも、認定新規就農者であることをはじめ、年齢、所得、就農形態などの要件があります。

制度を利用したい場合には、「自分は対象になるのか」を就農前から確認しておくことが大切です。

6.「融資」と「給付・補助」は同じではありません

新規就農者向けの支援制度を調べていると、さまざまな「資金」が出てきます。

しかし、同じ「資金」という名前が付いていても、その仕組みは同じではありません。

融資給付・補助など
お金の性質借りるお金一定の要件を満たした場合に交付されるお金
返済原則として必要原則として返済を前提としない
主な例青年等就農資金就農準備資金・経営開始資金など
注意点返済を見据えた資金計画が必要要件を満たさない場合などには、交付停止や返還となることがある

たとえば、青年等就農資金は「融資」です。

無利子ではありますが、借りたお金ですので返済が必要です。

一方、就農準備資金や経営開始資金は、一定の要件を満たす人に交付されるもので、融資のように返済することを前提としたものではありません。

また、農業機械や施設などの導入を支援する「経営発展支援事業」などもあります。

「返済しなくてよいお金だから得」と単純に考えるのではなく、それぞれの制度の目的や対象者、要件を理解して利用することが大切です。

7.支援制度だけでなく「資金計画」を考えよう

ここまで、新規就農者を支える制度をご紹介してきました。

こうした制度は、これから農業を始める人にとって大きな支えになります。

しかし、制度があることと、農業経営が成り立つことは別の問題です。

大切なのは、「いくら必要なのか」「いつ、そのお金が必要なのか」「いつから収入が入ってくるのか」「毎月どのくらいの支出があるのか」「借入れをした場合、無理なく返済できるのか」ということを考えることです。

さらに農業には、天候や自然災害、病害虫、農産物の価格変動など、自分だけではコントロールすることが難しいリスクもあります。

予定していた収穫量に届かなかったり、想定していた価格で販売できなかったりすることもあるでしょう。

だからこそ、ぎりぎりの資金計画ではなく、ある程度の余裕を持った計画を立てることが重要です。

以前の記事でもお伝えしたように、農業を「仕事」として始めるのであれば、農業も一つの事業として考える必要があります。

8.支援制度は早めに確認しよう

新規就農者向けの支援制度には、それぞれ利用するための要件があります。

年齢や所得、認定新規就農者であること、研修先、就農形態などによって、利用できる制度は異なります。

また、国の制度だけでなく、都道府県や市町村が独自に新規就農者向けの支援を行っている場合もあります。

そのため、農業機械や設備を購入してから「何か使える制度はないだろうか」と探すのではなく、就農計画を立てる段階から、自治体や農業経営・就農支援センター、日本政策金融公庫などの関係機関へ相談しておくことをおすすめします。

制度は年度によって内容が変更されることもあります。

インターネットで見つけた過去の情報だけで判断せず、実際に利用するときには必ず最新の情報を確認しましょう。

ワンポイント|支援制度を利用する前に

新規就農に向けた資金計画では、必要となる資金を整理し、将来の収支も見据えながら事業計画を考えていくことが大切です。

また、利用する制度によっては、計画の作成や認定、申請などの手続きが必要になります。

「どの制度を利用できるのか分からない」「事業計画や手続きをどのように進めればよいのか不安」という場合には、まず自治体や関係機関に相談し、必要に応じて行政書士などの専門家に相談することも選択肢の一つです。

制度を利用すること自体を目的にするのではなく、その先にある「農業を事業として続けていくこと」を見据えて準備していきましょう。

まとめ|「もらえるお金」ではなく「必要なお金」から考える

新しく農業を始める人を支えるために、融資や資金交付などさまざまな制度が用意されています。

こうした制度を知っておくことは、新規就農を考えるうえでとても大切です。

しかし、「この支援が受けられるから農業を始めよう」と考えるのではなく、まずは自分がどのような農業をしたいのか、そのためにはどのくらいのお金が必要なのかを考えることが出発点です。

そして、自己資金、融資、利用できる支援制度などを組み合わせながら、無理のない資金計画を立てていきます。

支援制度は、農業経営を支える大切な土台の一つです。

その支援が終わった後も、事業として農業を続けていけるか。

そこまで見据えて資金計画を考えることが、長く農業を続けていくための大切な準備ではないでしょうか。

次回は、「個人で始める?法人で始める?」をテーマに、農業経営の形と農地所有適格法人についてご紹介します。

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