共同親権と家族信託・財産管理 ― “もしも”に備える視点

2026年4月から始まった共同親権制度。

これまでのシリーズでは、共同親権の基本的な仕組み、親子交流、DV・虐待との関係、養育費、相続・終活などについて整理してきました。

前回は、「もしもの時」に子どもの生活をどう守るかという視点から、未成年後見や遺言について考えました。

今回はさらに一歩進めて、“生前の財産管理”という視点から、共同親権を考えてみたいと思います。

共同親権というと、「親権を共同で持つ」という制度面に注目が集まりがちです。

しかし実際には、預金口座、教育資金、保険、相続財産、不動産など、「お金」と関わる場面も少なくありません。

そして、そこには法律だけでは解決しにくい、“現実の難しさ”も存在します。

今回は、共同親権時代における家族信託や任意後見など、「契約による備え」の視点から整理してみます。

共同親権と「財産管理」の難しさ

共同親権では、父母双方が親権者となるため、子どもの財産管理についても、原則として共同で判断していくことが前提になります。

法務省の資料でも、親権について「子どもの面倒をみたり、子どもの財産を管理したりすること」と説明されています。

また、財産管理は、日々の生活の中で生じる「監護及び教育に関する日常の行為」とは異なり、父母が共同の意思で行うべき事項となる場面があります。

もっとも、現実には、教育方針の違い、お金の使い方の違い、離婚後の関係性、再婚や生活環境の変化などによって、意見が対立するケースも考えられます。

例えば、子どもの教育資金をどう使うのか、相続で取得した財産をどう管理するのか、保険金や学資金を誰が管理するのかなどは、実務上も大きな問題になり得ます。

共同親権制度のもとでは、すべてのことを父母双方で決めなければならないわけではありません。

日常的な行為については、父母の一方が単独で行うことができる場面もあります。

一方で、財産管理のように、子どもの将来に大きく影響する事項については、慎重な判断が必要になります。

ここで、最高裁判所が公表している図が分かりやすいと思います。

共同親権で子が一方の親と同居する場合の子との関わりのイメージ

【図】共同親権における親権行使のイメージ(最高裁判所資料より引用)

2026年4月から共同親権制度が始まり、金融機関側でも親権確認や表明事項の見直しなど、実務上の対応が行われています。

一方で、具体的な取扱いについては、金融機関ごとに異なる部分もあり、実際には個別確認が必要となる場面も考えられます。

特に、未成年口座や教育資金、将来のこどもNISAなど、子ども名義の金融資産が増えていくと、誰がどのように管理するのかという問題は、より身近なものになっていくかもしれません。

共同親権制度は、「父母が協力して子どもを支える」ことを前提としています。

一方で、現実には、感情面や経済面を含め、完全に協力関係を維持することが難しいケースもあります。

だからこそ、“事前にルールを整理しておく”という視点が、これまで以上に重要になるのではないでしょうか。

認知症や障害への備えはどう考える?

「認知症」というと、高齢者の問題というイメージを持つ方も多いかもしれません。

しかし近年は、高齢出産や晩婚化によって、子どもが未成年のうちに親が高齢化するケースも増えています。

また、若年性認知症や病気、事故などによって、比較的若い世代でも判断能力の低下が問題になることがあります。

共同親権の議論では、「離婚時」に注目が集まりがちです。

しかし実際には、その後何十年も親としての関係が続いていくことになります。

その中で考えなければならないのが、認知症、高齢化、障害、病気による判断能力の低下などの問題です。

例えば、親権者の一方が認知症になった場合、「子どもの財産管理をどうするのか」「契約や手続を誰が行うのか」という問題が生じる可能性があります。

今回の改正では、一定の場合に、「特定の事項について、父母の一方のみが親権を行使できる」という制度も整備されています。

例えば、父母間で協議がまとまらない場合や、一方が適切に親権を行使できない事情がある場合には、家庭裁判所が特定事項について単独行使を認める可能性があります。

もっとも、裁判所の手続には一定の時間がかかる場合もあります。

そのため、家族信託、任意後見契約、財産管理契約などを活用し、“生前のうちに管理方法を設計しておく”という視点も重要になります。

例えば、教育資金だけは一定のルールで管理する、特定の財産については信頼できる第三者を関与させる、判断能力が低下した際の財産管理方法を事前に決めておくなど、法律だけでは対応しきれない部分を、契約で補完していく考え方です。

家族信託は「子どもの財産を守る仕組み」にもなり得る

最近では、「家族信託」という言葉を耳にする機会も増えてきました。

家族信託とは、簡単に言えば、「特定の目的のために、財産管理を託す仕組み」です。

例えば、子どもの教育資金、障害のある子の生活費、相続財産の管理、再婚家庭での財産承継など、様々な場面で活用されています。

共同親権時代においては、「誰が子どもの財産を管理するのか」という問題が、これまで以上に重要になる可能性があります。

そのような中で、「子どものための財産を、あらかじめ一定のルールで管理する」という家族信託の考え方は、一つの有効な選択肢になるかもしれません。

法律は、「誰が親権者になるのか」「誰が決めるのか」というルールを定めています。

一方で、家族信託や契約は、「どうやって子どもの財産を守るのか」を柔軟に設計することができます。

共同親権という新しい制度の中で、子どもの財産や生活を停滞させないためには、この「設計」の視点も重要になっていくのかもしれません。

もちろん、家族信託は万能ではありません。

税務、不動産、金融機関対応など、専門的な論点も多くあります。

しかし、“子どものための財産を、親の感情や生活状況から一定程度切り離して管理する”という視点は、これからますます重要になっていくようにも感じます。

再婚家庭(ステップファミリー)と親権・財産管理

共同親権と再婚家庭の問題も、今後ますます重要になるテーマだと思います。

以前の記事でも整理しましたが、再婚相手と養子縁組をした場合、原則として、「養親と実親(配偶者)」が共同親権者となり、もう一人の実親は親権を失うことになります。

もっとも、親権を失ったとしても、「親として子どもの将来を支えたい」という気持ちまで消えるわけではありません。

また、親権を失った後も、「子どもと同程度の生活を維持させる義務(生活保持義務)」という考え方が、直ちになくなるわけでもありません。

例えば、実親として財産を残したい、教育資金を確保したい、特定の財産だけは子どものために守りたいというケースもあるでしょう。

その際、遺言、生命保険、家族信託などを活用することで、“法律上の親権”とは別に、“子どもの将来を支える仕組み”を作ることができる場合もあります。

ステップファミリーでは、実親、再婚相手、祖父母、きょうだいなど、様々な立場の人が関わります。

だからこそ、「誰が悪いか」ではなく、“どうすれば子どもの利益を守れるのか”という視点で考えることが大切なのかもしれません。

FP+法務の視点で考える「攻めの財産管理」

共同親権制度の議論では、親権をどう決めるか、父母がどう協力するかに注目が集まりがちです。

しかし実際には、「子どもの生活や将来をどう守るか」という視点も、とても重要です。

法律は、“最低限守るべきルール”を定めることはできます。

一方で、教育資金をどう残すか、判断能力の低下にどう備えるか、再婚後の財産承継をどうするか、子どもの生活をどう安定させるかまで、全てを解決してくれるわけではありません。

だからこそ、遺言、任意後見、家族信託、生命保険、財産管理契約などを組み合わせながら、“子どものための財産をどう守るか”を考えていく必要があります。

それは、単なる「節税」や「資産運用」ではなく、“子どもの生活を守るための備え”とも言えるのかもしれません。

まとめ

共同親権制度は、単に「親権を共同で持つ」という制度ではありません。

その背景には、離婚後も続く親としての責任、子どもの利益を守るという考え方、父母が協力して養育するという理念があります。

もっとも、現実には、判断能力の低下、再婚、財産管理、相続、生活環境の変化など、法律だけでは解決できない問題も多く存在します。

だからこそ、共同親権時代には、“制度”だけではなく、“契約による備え”という視点も、これまで以上に重要になっていくのではないでしょうか。

今回で、共同親権シリーズはいったん一区切りとなります。

制度改正の背景には、様々な意見や課題があります。

その中でも、このシリーズを通して一貫して考えてきたのは、「子どもの利益をどう守るか」という視点でした。

共同親権という制度が、単なる“権利”の議論ではなく、子どもの生活や将来を支える仕組みとして、より良い形で運用されていくことを願っています。

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