【著作権の基礎シリーズ:第9回】譲渡権ってなに?―中古販売・消尽・フリマとの関係―
著作権の「譲渡」と言っても、ピンとこないという方も多いのではないでしょうか。
しかし、書籍やCD、DVDなどを販売するときには「譲渡権」という権利が関係しています。
さらに著作権法では、
- 映画の著作物とそれ以外の著作物で扱いが異なる
- 一度正規に販売されると「消尽(しょうじん)」という考え方が働く
といった特徴があります。
フリマアプリや中古販売が身近になった今、実は私たちの生活の中でも関係しているのがこの「譲渡権」です。
今回は、知っておくと少し面白い著作権の「譲渡権」について分かりやすく整理してみます。
譲渡権とは?
譲渡権とは、著作物の複製物を公衆に譲渡することをコントロールする権利のことです。
著作権法では次のように定められています。
(著作権法26条の2)
著作者は、その著作物(映画の著作物を除く。)をその原作品又は複製物の譲渡により公衆に提供する権利を専有する。
簡単に言うと、作品を「販売するかどうか」を決める権利です。
例えば次のようなものが該当します。
- 書籍
- CD
- DVD
- ゲームソフト
- 美術作品の複製物
本やCDを販売するときの権利
例えば出版社が本を販売する場合、
著作者 → 出版社 → 書店 → 消費者
という流れで本が流通します。
このとき、著作権者の許可なく勝手にコピーした本を販売すると、譲渡権の侵害になります。
つまり譲渡権は、作品の正規の流通を守るための権利と言えます。
「消尽」とは?中古販売ができる理由
ここで登場するのが「消尽(しょうじん)」という考え方です。
少し難しい言葉ですが、意味はシンプルです。
一度正規に販売された商品については、その後の転売について譲渡権は働かないという考え方です。
例えば、
- 古本屋
- 中古CDショップ
- フリマアプリ
などで販売できるのは、この仕組みがあるためです。
つまり、書店で購入した本をあとでフリマアプリで売ることは、著作権法上問題ありません。
映画の著作物だけ扱いが違う理由
著作権法では、映画の著作物については通常の著作物に認められている譲渡権とは別に、頒布権(はんぷけん)という権利が認められています。
では、なぜ映画だけ特別な扱いなのでしょうか。
それは、映画特有のビジネスモデルと関係しています。
映画は一般的に、次のように段階的に公開されていきます。
- 映画館で上映
- ブルーレイなどの販売
- レンタル
- 配信
もし書籍などと同じように最初の販売で権利が消尽してしまうと、映画館での上映やレンタルビジネスなど、段階的な公開モデルを維持することが難しくなる可能性があります。
そのため著作権法では、映画については頒布権という形で流通をコントロールする仕組みが設けられています。
補足:中古ゲームソフト事件
家庭用ゲームソフトについては、著作権法上映画の著作物に該当する可能性があると考えられてきました。
しかし最高裁は、一度適法に販売された家庭用ゲームソフトについては、その後の中古販売を認めるという判断を示しました。
(最高裁平成14年4月25日/いわゆる「中古ゲームソフト事件」)
この判例により、私たちは中古ゲームソフトを安心して売買できるようになりました。
フリマアプリや中古販売との関係
近年では、
- メルカリ
- ヤフオク
- リサイクルショップ
などを利用する方も増えています。
こうした中古販売が可能なのは、譲渡権の「消尽」という考え方があるためです。
つまり、正規に販売された商品については、その後の転売について著作権者がコントロールすることはできません。
そのため、読み終わった本をフリマアプリで売る/中古CDショップで販売する、といった行為は著作権法上問題ありません。
注意点:海賊版・コピー品はNG
ただし注意点もあります。
例えば、コピーしたDVDや海賊版商品などを販売すると、著作権侵害になる可能性があります。
あくまで正規に購入した商品を売る場合に限って問題がない、という点には注意が必要です。
【重要】デジタル時代の注意点:ダウンロード版は「譲渡」できない?
最近は電子書籍やゲームのダウンロード版など、デジタルコンテンツを利用する機会が増えています。
しかし、これらは紙の本のように「読み終わったらメルカリで売る」といったことが通常できません。
その理由は、提供のカタチが「モノの譲渡」ではなく「利用する権利(ライセンス)」であることが多いからです。
パッケージ版とダウンロード版の違い
| 比較項目 | パッケージ版(紙の本・CD) | ダウンロード版(電子書籍・配信) |
|---|---|---|
| 実体 | 物理的な複製物がある | データ(デジタル情報)のみ |
| 権利の性質 | 複製物の「譲渡」 | サービスの「利用許諾」 |
| 中古販売 | 可能(譲渡権が消尽するため) | 通常不可(規約で禁止されていることが多い) |
デジタルコンテンツの場合、私たちは「本そのもの」を買っているのではなく、そのコンテンツを利用する権利に対して支払いをしているというイメージです。
そのため、アカウントごと売却することは規約違反となり、著作権の仕組み以前にサービス利用停止などのリスクが生じる可能性もあります。
なぜデジタルコンテンツは中古販売が難しいのか?
もう一つ大きな理由は、デジタルデータの性質にあります。
紙の本やCDの場合、中古販売は「持っている物をそのまま相手に渡す」という行為です。
しかし、デジタルデータを他人に渡す場合、
- データをコピーする
- 相手に送信する
という形になります。
つまり実質的には「複製」や「送信」が伴うため、著作権との関係で問題となります。
日本では、こうしたデジタルコンテンツの再販売(いわゆるデジタル消尽)を認めた明確な判例はなく、一般には再販売は認められないと考えられています。
そのため、電子書籍やダウンロード版ゲームなどは、中古販売という仕組み自体が成立しにくいのです。
海外では議論も続いている
この問題は、日本だけでなく世界でも議論されています。
例えばEUでは、ソフトウェアについて一定条件のもとで再販売を認めた判決(UsedSoft事件)があります。一方で、電子書籍の中古販売については認められないと判断されています(Tom Kabinet事件)。
このように、デジタルコンテンツの扱いについては国や分野によって判断が分かれており、デジタル時代の著作権ルールは現在も議論が続いている分野でもあります。
まとめ
譲渡権とは、作品が世の中に出回る最初の窓口をコントロールする権利です。
- 正規に買えば、中古で売るのは自由(消尽)
- 映画はビジネス上の理由でルールが少し厳しい(頒布権)
- デジタルデータには「譲渡」という概念が当てはまりにくい(利用許諾が中心)
「これって売ってもいいのかな?」と迷ったときは、その作品が「物」として手元にあるのか、それとも「データ」を利用しているだけなのかを考えてみると、著作権の仕組みが見えてきますね。
※EUの判例については、総務省 情報通信政策研究所『情報通信政策研究』第5巻第1号「デジタルコンテンツの流通と消尽原則」などを参照
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案については専門家へご相談ください。
参考リンク
📚過去ブログ(著作権の基礎シリーズ)
- 第1回:著作権にはどんな権利があるの?
- 第2回:複製権ってなに?
- 第3回:上演権・演奏権
- 第4回:家でDVDを見るのはOK?上映会は?
- 第5回:公衆送信権ってなに?
- 第6回:公の伝達権ってなに?
- 第7回:口述権ってなに?
- 第8回:展示権ってなに?
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🔗 外部リンク
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