知財のグレーゾーンシリーズ第10回:【応用編 】スタートアップと知財
― 投資家はここを見る!― スタートアップにこそ「知財戦略」が必要な理由
こんにちは!
今回のテーマは、いよいよ“外部視点”からの知財活用。スタートアップにおいて「知財」は、単なる法務の話ではありません。事業計画、資金調達、そして企業価値をどう見せるか――投資家が見ているのは、まさにこの視点です。
特にスタートアップは、スピードと柔軟性が武器である一方、契約や権利関係でのミスも起きやすいフェーズ。そこで今回は、
- 投資家が注目する“知財と事業計画の連動性”
- 使えるベンチャー支援制度とその活用ポイント
- スタートアップだからこそ知っておきたい契約トラブルと予防策
- 無形資産を活かす「企業価値担保権」という選択肢
こうした実践的な内容を、やさしく解説していきます。
1. 投資家が見るのは「知財」より「知財の使い方」
投資家は、単に「特許を持っているか」ではなく、
「その知財がどう活かされるか」を見ています。
たとえば、
- 製品・サービスが他社とどう違うか(差別化)
- それを知財でどう守っているか
- スケール(成長)したときの収益構造にどう影響するか
こうした観点で、事業計画書と知財戦略がちゃんと“つながって”いるかが重要になります。
✅ ポイント
- 特許や商標の「件数」ではなく「筋の良さ」
- 事業のキモが知財で守られているか、が評価される
- 出願予定や権利取得済みの情報は、投資家へのアピールに
2. ベンチャー支援制度との“知財の整合性”も重要に
今、スタートアップ向けの支援制度には、「知財との連動」を重視するものが増えています。
活用したい代表的な制度:
- IPAS(知財アクセラレーションプログラム)
知財戦略を“事業戦略とセット”でブラッシュアップ - J-Startup/NEDO/JSTなどの国の支援事業
応募書類に「知財活用」「競合優位性」の説明が必須に
これらの制度では、「知財をどう活かすか」が評価ポイントになります。知財と経営の接点を意識しているスタートアップこそ、選ばれやすいのです。
3. スタートアップだからこそ起きやすい「契約の落とし穴」
起業初期では、資金も人脈も限られがち。その中で、
- 「よく分からないままライセンス契約を結んでしまった」
- 「委託したデザインの権利が、実は社外にあった」
- 「資金と引き換えに、将来の知財使用を制限された」
など、知財に関する“後戻りできない契約”を交わしてしまうケースも少なくありません。
特に注意したいポイント
- 共同開発契約の“成果物の権利帰属”
- 従業員や外注先との“著作権や商標の譲渡契約”
- 資本提供と引き換えに、知財が流出する契約
早い段階で専門家にチェックを依頼することが、後々の大きな損失防止につながります。
中小企業庁の「知財総合支援窓口」など、公的な無料相談もぜひ活用してください。
4. 無形資産も担保になる ― 企業価値担保権という新しい選択肢
スタートアップは、設備も資産も少ない代わりに、
「アイデア・技術・ブランド」といった無形資産が会社の“価値”そのものです。
そんな中で注目されているのが、「企業価値担保権」。
これは、事業全体を対象とする担保制度ができる制度で、令和6年6月に成立しました(令和8年5月25日施行)
どう活かせる?
資産が少ない段階でも、ノウハウ・顧客基盤など無形資産も評価され事業全体を資産評価の材料として使えるため、スタートアップ企業でも融資を受けやすくなります。
融資を受けた資金で、設備投資、研究費などの先行投資ができ、成長戦略が成功すれば企業の価値の上昇が期待できるでしょう。
まとめ ― スタートアップにおける「知財=信頼の武器」
- 投資家は「何を持っているか」より、「どう活かせるか」を重視
- 契約・制度・金融の場面でも、知財の視点が“選ばれる会社”をつくる
- スタートアップこそ、知財を“使える資産”として考えるべき時代へ
おわりに
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
スタートアップにとって知財やノウハウやブランドといった無形資産は、企業価値を高め、投資家との信頼を築く重要な武器です。
本記事が、皆さまの知財戦略のヒントとなり、成長の一助となれば幸いです。
次回は、急速に進化するAI時代における著作権と知財の新たな課題について深掘りします。
ぜひご期待ください。
これからも、知財の視点を活かした経営を共に学んでいきましょう。
知財をもっと身近に。もっと味方に。
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次回予告:
AIと知財 ― 時代とともに変わる「創作」の意味
進化するAIと著作権の関係、データの扱い、法改正の流れなど、少し未来の話を深掘りしていきます!
📚これまでの記事はこちら
・第1回 :営業秘密が漏れる典型パターンと防止策を解説!
・コラム①:営業秘密と契約の穴〜守ったつもりが、守れてなかった〜
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・コラム③:デジタル社会の影 ― SNS時代に潜む詐欺と誤解
・第3回 :知財と契約書 ― NDA・ライセンス・共同開発の基礎
・コラム④:AIが生む著作権トラブル― 創作は誰のもの?
・第4回 :海外展開と知財リスク―日本の常識が通じない
・第5回 :アイデア段階から始める知財対策
・第6回 :【応用編】知的資産経営報告書とは?
・第7回 :【応用編】知財の見える化に!―経営デザインシート
・第8回 :ローカルベンチマークってなに?―経営デザインシートとの上手な使い分け
・第9回 :知財リスクとイノベーション― 経営ツールを活かして“気づく”戦略へ
🔗関連リンク
・特許庁:IPAS
・J-Startup
・NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)
・JST(国立研究開発法人科学技術振興機構)
投稿者プロフィール

- 皆様のお役に立てる情報をお届けしたいと思っております。
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