知財のグレーゾーンシリーズコラム④(第3.5回):AIが生む著作権トラブル

― 創作は誰のもの?

こんにちは!

当事務所では、個人事業主や小規模事業者の皆さまの知財(知的財産)に関するお悩みをサポートしています。
私自身も、日々勉強を続けながら、「ちょっと難しいけれど、全然できなくもない!」を合言葉に、皆さんと一緒に学んでいけるような発信を心がけています。

本日は、「知財のグレーゾーン」シリーズのコラム④。
テーマは、「AIが生む著作権トラブル ― 創作は誰のもの?」です。

生成AIが急速に広まる中、「その作品って、誰のもの?」という疑問を耳にすることが増えました。

例えば、有名作家が「95%AIで執筆した」という書籍を出版したという話や、AIによって作られた画像・音楽に対して著作権が主張される場面も出てきています。

今回は、AIと著作権にまつわるトラブルやリスクを、わかりやすく整理してみます。

🧠 AI生成物と著作権の基本整理

現在の日本の著作権法では、「著作物」として認められるためには「人間による創作性」が必要とされています。

そのため、完全にAIが自動で生成した画像・文章・音楽などは、基本的には著作権が発生しないと考えられています。

ただし、「人がどのプロンプト(指示文)を与えるか」「どのように選び、編集するか」によっては、“人の創作”と評価されるケースもあります。

つまり――

AIが生んだものでも、人の手がどこまで関わっているかがカギなのです。

🏆 「95%AIで作成された本」とは?

記憶に新しい話題として、芥川賞受賞作『東京都同情塔』で注目を集めた作家・九段理江氏が、続く新作『影の雨』を「95%AIで作成した」と話題になりました。

受賞作では「AIは5%程度」活用されていたそうですが、本作では編集部が逆の発想に基づき、「95%を生成AI、残り5%を作家」というルールで執筆を依頼したというものです。AIの関与割合が一気に高まり、出版界でも大きな波紋を呼びました。

この作品は、博報堂が発行する雑誌『広告』418号に掲載された後、Webで全文が公開され、さらに使用されたプロンプト(AIへの指示文)もすべて公開されています。

特に注目を集めたのは、4,000文字の小説に対して、なんと20万字のプロンプトが書かれていたという点です。

この実験的な試みに関して、九段氏は博報堂のWebマガジン『4,000字の小説に20万字のプロンプト。九段理江がAIとの共作で感じた葛藤とは|95%をAIで書いた短編小説「影の雨」の舞台裏』でさまざまな思いを語っています。
筆者の印象としては、氏の発言を要約すると、

「AIの能力を人間のレベルに合わせず、最大限に使ってほしかった。今回に関しては、あまりにも人間に忖度していると感じた」
という趣旨だったように感じられました。

こうしたAIとの共作による作品は、法的には著作権の保護対象外になる可能性があります。しかし「著作権がないから使い放題」というわけではなく、AI作品の取り扱いについては、いまだグレーなまま進行しているのが現状です。


🧾 学習素材と著作権侵害のリスク

AIが学習する際に使用した素材に、著作権のある画像やテキストが含まれている場合、「それを元にした生成物が著作権を侵害している」と指摘されるケースもあります。

AIが生成するものは、過去に学習した膨大なデータを元にしています。
ここで問題になるのが、その**「学習素材」自体の著作権**です。

たとえば、

  • 既存の絵画や写真を無断で学習に使用した
  • 特定の作風やスタイルをトレースする形で生成された
  • 著作物に酷似したものが出力された

このような場合、元の著作物の権利者から「著作権侵害」と主張されるリスクがあります。

実際に、アメリカではディズニーやユニバーサルなどが、無断で自社の映像を学習に利用されたとして、生成AI企業に対して訴訟を起こしています。

このように、生成物そのものではなく、「学習に使われた素材」の正当性が問われる時代になってきているのです。


📌 利用規約とクレジット表示の落とし穴

生成AIサービスの中には、利用規約で

商用利用の可否、著作権の所在、クレジット表示の義務などを細かく定めているものがあります。

📌 事例

  • Adobe FireflyやCanvaなどのツールは「商用利用可」「クレジット表示任意」としている
  • 一部AIは「出力物を自由に使えるが、責任は利用者にある」と規約で明記
  • コンテストや出版物の応募要項で「AI利用の有無」を明記するルールが増加

などです。

たとえば「この画像を使う場合はAI名を明記してください」といったルールに違反すると、意図せず規約違反や著作権トラブルに巻き込まれるリスクも。

また、「このAIで作ったものは著作権放棄(CC0)です」とされていることもありますが、それを勘違いして“自分の作品として登録”してしまうようなトラブルも起きています。


🌍 AIが広げる創作の可能性と責任

AIは創作のツールとして、可能性を大きく広げてくれます。
一方で、それをどう扱うか、どこまでが人の創作かという境界線を意識せずに使うと、意図せず権利侵害やトラブルの原因になることも。

  • AIが生成したものは、誰のものか?
  • 元データや利用条件は確認したか?
  • 商用利用してよいのか?

こうした視点を持っておくことが、自分自身を守ることにつながります。
また、「AIを使った=著作権がない」「AIだから何をしても大丈夫」ではない、ということを、私たち一人ひとりが意識していく必要があります。


おわりに

私もまだまだ勉強中ではありますが、「知らなかった」で困る方を少しでも減らせるよう、
これからも知財のことを、できるだけわかりやすく発信していきます。
また気が向いたときに、のぞいていただけたら嬉しいです。

知財をもっと身近に。もっと味方に。

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・コラム①:営業秘密と契約の穴〜守ったつもりが、守れてなかった〜
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🔗外部リンク

👉文化庁:AIと著作権について

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