営業秘密の持ち出しで書類送検|企業が取るべき情報管理対策とは?

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当事務所では、個人事業主や小規模事業者の皆さまの知財(知的財産)に関するお悩みをサポートしています。

私自身も学びを続けながら、「ちょっと難しいけれど、全然できなくもない!」を合言葉に、皆さんと一緒に学んでいけるブログを目指しています。

現在、「知財シリーズ」「食の安心 × 知財シリーズ」のブログを書いていますが、
情報セキュリティと知財についても、分かりやすく解説できたらと考え、「情報セキュリティと知財管理シリーズ」を始めることにしました。

第1回は、営業秘密の持ち出し事件から、企業が取るべき対策についてお届けします。

2025年8月、次世代のプラスチック技術で注目を集めていた新素材ベンチャー企業「TBM」の元幹部が、自社の営業秘密を不正に持ち出し、自らの新会社での活用を企てていたとして書類送検されました。

情報漏えいや営業秘密の持ち出しは、決して他人事ではありません。

特に中小企業や個人事業でも、知らぬ間にトラブルに巻き込まれる可能性があるのです。

今回はこの事件を通して、営業秘密の定義や、実際に起きた過去の事例、そして企業がとるべき情報管理の対策について、わかりやすく解説します。

TBM事件の概要

2025年8月、カーボンリサイクル技術を有する企業「TBM」の元室長が、社内の分析データ約80ファイルを外部サーバーにアップロードしたとして、不正競争防止法違反(営業秘密の領得)の疑いで書類送検されました。

データは、同氏が設立予定だった新会社で活用する意図があったとされ、もう一人の元社員も関与していたと報じられています。

営業秘密とは?

不正競争防止法では、以下の3つの要件をすべて満たす情報が「営業秘密」として保護されます。

  1. 秘密として管理されていること
  2. 有用な情報であること
  3. 公然と知られていないこと(非公知性)

「自社の技術」や「顧客リスト」「設計図」「開発中の試作品情報」なども、条件を満たせば営業秘密に該当します。

過去の技術持ち出し事例

1. ポリカーボネート樹脂製造技術の不正取得事件(PCプラント事件)

  • 企業の従業員を通じて、ポリカーボネート樹脂製造装置に関する設計図面や技術情報を不正に取得し、中国企業に開示したとして、不正競争防止法違反が認められた事例です。被害賠償請求額では約3億円中、1100万円の損害が認定されました
  • 「樹脂」「プラスチック」製造装置の中核技術であるため、「次世代プラスチック技術」に該当する可能性もあります。

2. ガラス瓶製造技術の持ち出し事件(日本山村硝子)

  • 「超軽量ガラス瓶」の成形技術プログラムを元社員が中国企業へ送信し、対価として総額1.9億円相当の振込があったとされています
  • ガラス技術ですが、「素材製造技術」として応用可能な範疇にある点で参考になります。

3. 電子部品メーカーから車載電装技術の流出(アルプスアルパイン事件)

  • 2023年12月5日、電子部品大手・アルプスアルパインの元社員が、自動車向け制御システム設計データを不正にコピー・持ち出し、転職先(某大手自動車メーカー)での利用を企図していた疑いで逮捕された事件
  • プラスチック会社とは別領域ですが、技術流出という視点で参考になるケースです。

4. 最新事例:半導体関連での営業秘密漏洩

2025年7月に、半導体部品メーカー「クリエイティブテクノロジー」の元副社長が、静電チャック販売価格や顧客情報を部下と共謀して持ち出したとして逮捕されました

◆ 4つの事例の共通点は?

これらの事件には、いくつかの共通点があります。

特に多いのが、「転職」や「起業」と絡むケースです。

長年関わってきた技術や顧客情報について、「自分が作ったもの」「自分が関わってきた成果だから使ってもよい」と考えてしまうケースも少なくありません。

しかし、会社で管理されていた技術情報や顧客データは、一定の条件を満たせば「営業秘密」として法的に保護されます。

また、クラウド共有やUSB利用など、データ管理が十分でなかったことで、情報の持ち出しが容易になっていたケースも多く見られます。

情報管理に潜むリスク

◆ 形式だけの管理で営業秘密にならないケースも

営業秘密として保護されるためには、「秘密として管理されていること」が重要です。

たとえば、「機密」と書かれていても、誰でも閲覧できる状態になっていたり、アクセス制限が行われていなかったりすると、営業秘密として認められない可能性があります。

紙の資料だけでなく、クラウド上のデータや共有フォルダ、メール添付ファイルなども含め、実態に合った管理が求められます。

「一応ルールはある」だけでは不十分で、実際に管理されているかどうかが重要になるのです。

◆ 無意識な持ち出しが起きやすい

退職時に「自分の資料」と思って保存してしまう例も。
クラウド同期やUSBなどで、自動的に情報が移動してしまうこともあります。

無意識な持ち出しを起こさせいための体制づくり、及び研修等による意識付けが必要です。

また、退職などで離職する際のチェックリストや誓約書を作成しておくことも、有効な対策となります。

◆ 外部サービスやスマホ利用の落とし穴

◆ 外部サービスやスマホ利用の落とし穴

無料のファイル共有アプリや個人スマホ、LINE・Chatアプリなど、便利なサービスは日常業務でも広く利用されています。

しかし、社内ルールが曖昧なまま利用してしまうと、知らないうちに情報漏えいにつながるケースもあります。

特に、個人端末へのデータ保存や、私用クラウドとの同期、チャットアプリでのファイル送信などは注意が必要です。

「便利だから使う」だけでなく、「どこまで利用を認めるのか」を事前に整理しておくことが重要になります。

◆ 中小企業こそ要注意

「うちには大した技術はないから関係ない」
そう考えてしまう中小企業や個人事業者の方も少なくありません。

しかし実際には、顧客リスト、見積書、業務マニュアル、取引先情報、営業ノウハウなども、重要な情報資産になり得ます。

特に中小企業では、少人数で業務を回していることも多く、情報管理ルールが後回しになりがちです。

だからこそ、アクセス権限の整理や、退職時のデータ確認、秘密保持契約(NDA)の整備など、できるところから少しずつ対策を進めることが大切です。

◆ 守るべきは「技術」だけじゃない

営業秘密というと、「特許技術」や「開発データ」のような高度な技術情報をイメージされる方も多いかもしれません。

しかし実際には、営業マニュアル、トークスクリプト、人材育成資料、業務メール、見積書、顧客対応のノウハウなども、企業にとって重要な情報資産です。

特に中小企業や個人事業では、「人が辞めることでノウハウも一緒に失われる」というケースも少なくありません。

日々の業務の中で積み重ねられた情報そのものが、企業の強みになっていることも多いのです。

営業秘密の管理と実務対策

情報漏えいを防ぐために、企業が取り組みたい基本的な対策を3つに整理しました。

「うちは大丈夫かな?」と確認しながら、セルフチェック感覚で読んでいただければと思います。

◆ 1. 秘密情報の明示と管理ルールの整備

  • 「機密」マークの徹底
  • 社内でのアクセス制限
  • サーバーの管理体制見直し

◆ 2. 社員教育と退職時面談の徹底

  • NDA(秘密保持契約)の締結
  • 退職時の持ち出しチェックリスト
  • 意識づけが最大の防止策

◆ 3. ITツールを活用したログ管理・監視

  • ファイル操作ログの取得
  • USB使用制限やメール監視
  • 社外クラウド連携の制限

中小企業と情報管理

◆ 顧客情報やノウハウの扱いにも注意

業務委託や共同開発、外部専門家との連携などでは、顧客情報やノウハウを共有する場面も少なくありません。

しかし、秘密保持契約(NDA)を結ばないまま情報共有をしてしまい、後から「どこまで開示してよかったのか」でトラブルになるケースもあります。

また、メール添付やクラウド共有など、日常的なやり取りの中で情報が拡散してしまうリスクもあります。

「誰に」「どこまで」「どの方法で」共有するのかを整理しておくことが重要です。

◆ 契約書でトラブルを未然に防ぐ

情報漏えいは、起きてからでは取り返しがつかないケースも少なくありません。

だからこそ、契約書の段階で「どこまでが秘密情報なのか」「第三者への開示をどう制限するのか」を整理しておくことが重要です。

契約書にも秘密保持条項を入れることで、
情報漏えいや営業秘密の持ち出しに備えることができます。

まとめ

営業秘密の持ち出しは、故意・過失を問わず発生しうるリスクです。しかも一度漏れた情報は、取り戻すことができません。

「情報を守る」ことは、「知財を活かす」ことの第一歩です。

社内でのルール整備、意識づけ、そしてツールの導入など、できるところから少しずつ対策を始めていきましょう。

知財をもっと身近に。もっと味方に。

これからも、実務に役立つ知財情報をわかりやすく発信していきます。

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