著作者人格権とは?公表権と未公表作品の扱いをわかりやすく解説

「著作権」と聞くと、多くの方は、勝手にコピーされない権利、無断利用を防ぐ権利、お金に関する権利というイメージを持たれるかもしれません。

もちろん、それも著作権の大切な役割です。

しかし、著作権法が守ろうとしているのは、“財産的利益”だけではありません。

例えば、まだ完成していない作品を勝手に公開された、自分のタイミングで発表したかった、名前を出したくなかった、勝手に内容を書き換えられた――こうした「著作者の気持ち」や「意思」を守る権利も、著作権法には存在します。

それが、「著作者人格権」です。

今回は、その中でも「著作物をいつ・どのように公表するか」を決める“公表権”について、分かりやすく整理していきます。

著作者人格権のうち「公表権」と未公表作品の扱いについて解説する著作権の基礎シリーズの図解画像。無断公開、SNS拡散、推定規定、人格権侵害時の回復措置などをイラスト付きで整理したバナー。

1.著作者人格権とは?

著作権法では、「著作権」という言葉が広い意味で使われることがあります。

しかし、実際には大きく分けると、財産的利益を守る「著作権(財産権)」と、著作者の人格や意思を守る「著作者人格権」という2つの側面があります。

例えば、著作物をコピーしたり販売したりすることで利益を得る権利は、財産権としての著作権です。

一方で、名前を表示するか、どのように公表するか、勝手に改変されたくないといった、著作者自身の人格や意思に関わる部分を守るのが、著作者人格権です。

著作者人格権には、主に次の3つがあります。

権利内容
公表権公開するかどうかを決める権利
氏名表示権名前を表示するか決める権利
同一性保持権勝手に改変されない権利

今回取り上げる「公表権」は、この中でも“最初の入口”となる重要な権利です。

2.公表権とは?

公表権は、著作権法18条で定められている権利です。

簡単に言えば、「まだ公表していない著作物を、いつ・どのように公表するかを著作者自身が決められる権利」です。

つまり、著作者には、今はまだ公開したくない、完成してから発表したい、特定の場所だけで公開したい、そもそも公開しないという選択をする自由があります。

ここで大切なのは、“公開しない自由”も含まれているという点です。

例えば、小説を書いている途中の原稿や、制作途中のイラスト、未公開動画などは、作者にとって非常に大切な「未公表作品」です。

それを第三者が勝手にSNSへ投稿したり、共有サイトへアップロードした場合、公表権の侵害になる可能性があります。

現在では、スマートフォン一つで簡単に情報共有ができる時代になりました。

しかし、「見られる状態になっている」ことと、「公表してよい」という意味は、必ずしも同じではありません。

3.勝手に公開されたらどうなる?

文化庁の著作権Q&Aでは、次のような例が紹介されています。

「まだ未完成の小説だから出版しないで欲しいと頼んでいたのに、無断で出版されてしまった。」

このケースについて文化庁は、「少なくとも著作者人格権(公表権)の侵害になると考えられる」と説明しています。

つまり、公表権は、「作品そのものを守る権利」というだけではなく、「いつ世の中へ出すかを決める権利」でもあるということです。

著作者にとって、作品を公表するタイミングは非常に重要です。

  • 完成度
  • 発表時期
  • 公開方法
  • 社会的反応
  • 読者や視聴者への伝わり方

など、様々なことを考えながら公開を決める場合も少なくありません。

だからこそ、著作者本人の意思を無視した公開は、大きな問題になり得るのです。

4.SNS時代の公表権

現在では、公表権の問題は出版業界だけの話ではありません。

むしろ、SNSやクラウド共有の普及によって、私たちの日常にも非常に近い問題になっています。

例えば、次のようなケースも、公表権との関係が問題になる可能性があります。

  • 制作途中イラストの無断投稿
  • 限定公開動画の拡散
  • グループチャット内の創作物の転載
  • 未公開写真のSNS投稿
  • 社内資料の無断アップロード

SNSでは、「ちょっと紹介しただけ」「悪気はなかった」「拡散しただけ」という感覚で投稿されるケースも少なくありません。

しかし、著作者側から見ると、「まだ公開したくなかった」「正式公開前だった」「意図しない形で広まった」ということもあります。

著作権を考えるときは、“利用許可”だけでなく、“著作者の意思”にも目を向けることが大切です。

5.著作者人格権は譲渡できる?

著作者人格権には、大きな特徴があります。

それは、「一身専属権」であるという点です。

一身専属権とは、簡単に言えば、“著作者本人だけに属する権利”という意味です。

そのため、著作者人格権は譲渡することができません。

例えば、著作権(財産権)は契約によって他人へ譲渡されることがあります。

しかし、著作者人格権は、著作者自身の人格や意思と深く結びついているため、売買や譲渡の対象にはなりません。

つまり、著作権譲渡契約を結んだとしても、著作者人格権そのものまで相手へ移るわけではないのです。

言い換えれば、「作品を利用する権利を渡した」としても、「著作者としての人格的な権利」までは失われない、ということになります。

文化庁Q&Aでも、「著作者人格権は著作者の一身に専属し、譲渡できない」と説明されています。

なお、著作者が亡くなると著作者人格権そのものは消滅します。

ただし、著作者の死後であっても、著作者人格権を侵害するような行為は禁止されており、一定の保護は続きます。

6.未公表作品を譲渡した場合はどうなる?

ここまで見ると、「著作者人格権は譲渡できないなら、未公表作品を他人へ譲渡しても勝手に公開できないのでは?」と思われるかもしれません。

確かに、公表権は著作者人格権の一つであり、本来は著作者自身が「いつ・どのように公表するか」を決める権利です。

しかし、実務上は、未公表作品の著作権や原作品そのものが譲渡される場面もあります。

例えば、未公表小説の著作権を出版社へ譲渡した、未公開イラストの原画を販売した、未発表写真の原作品を譲渡したといったケースです。

このような場合について、著作権法18条2項では、「一定の場合には、公表について同意したものと推定する」という規定が置かれています。

公表権には「同意したと推定される場合」がある

著作権法18条2項では、一定の場合について、「公表について同意したものと推定する」という規定が置かれています。

例えば、次のようなケースです。

場面内容
著作権の譲渡著作権利用に伴う公表に同意したと推定
未公表の美術・写真原作品の譲渡展示による公表に同意したと推定
映画の著作物著作権活用に伴う公表への強い推定

例えば、未公表の絵画を購入した場合、通常は展示されることも予定されます。

そのため法律上は、原作品の展示による公表について同意したものと推定される場合があります。

また、映画著作物については、多くの関係者や配給・上映との関係上、「公開されること」が前提となるため、著作権法18条3項で特別な規定が置かれています。

もっとも、ここで注意したいのは、これは「推定」であるという点です。

つまり、契約や当事者間の約束によって、公開時期を制限する、完成後まで公開しない、一定条件まで利用しないなどの合意がある場合には、その内容が重要になります。

著作者人格権は非常に強い権利ですが、実際の契約や取引との関係では、個別事情も大切になるのです。

7.人格権が侵害された場合はどうなる?

著作者人格権が侵害された場合には、差止請求や損害賠償だけでなく、「名誉や声望を回復するための措置」を求められる場合があります。

文化庁Q&Aでも、訂正文の掲載、謝罪広告、ホームページ上での告知などが例として紹介されています。

著作者人格権は、単なる財産的利益ではなく、「著作者の人格」そのものを守る権利です。

そのため、金銭的補償だけではなく、著作者の名誉や信用を回復する措置が問題になることもあるのです。

まとめ

著作者人格権は、単なる「お金の権利」ではありません。

著作者が、どう公表したいか、どんな形で伝えたいか、どのように扱ってほしいかという、“作品に込めた意思”を守るための権利です。

その中でも公表権は、「作品を世の中へ出すかどうか」を著作者自身が決められる、大切な権利です。

SNS時代では、情報共有が簡単になった一方で、“軽い気持ちの公開”が、人格権侵害につながる場面も増えています。

また、実際の契約や取引では、未公表作品の譲渡と公表権との関係が問題になることもあります。

著作権を考えるときは、利用許可だけでなく、「著作者がどう考えていたか」という“意思そのもの”にも目を向けることが大切なのかもしれません。

次回は、「名前を表示するかどうか」を決める“氏名表示権”について、分かりやすく整理していきます。

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