第6回:共同親権と養育費の関係はどう変わる?― 分担の考え方と合意の作り方 ―
共同親権が導入されることで、「養育費はどう変わるのか」と疑問に感じる方も多いのではないでしょうか。
これまでの記事では、日常の決定や親子交流など、離婚後の関わり方について見てきました。そうした流れの中で、次に気になるのが養育費の問題です。
結論から言うと、養育費の義務そのものは変わりません。ただし、その考え方は少し整理して理解する必要があります。
養育費は、子どもの日々の生活を支えるためのものです。
目次
1.養育費は「親の責務」として位置づけられる
今回の改正では、親の責務が明確にされています。
父母は、親権や婚姻関係の有無にかかわらず、子どもを養育し、扶養する責務を負います。その内容は単なる生活費の負担にとどまらず、子どもが親と同程度の生活水準を維持できるようにすることとされています。
また、父母は子どもの利益のために互いに協力しなければならず、養育費の問題も対立ではなく、子どもの生活をどのように支えるかという視点で考えることが求められます。
2.共同親権でも養育費はなくならない
共同親権になると、「お互いに関わるのであれば養育費は不要ではないか」と考える方もいます。
しかし、養育費はあくまで子どものための費用であり、親権の形とは別の問題です。そのため、共同親権だから支払わなくてよい、あるいは親子交流があるから不要になるといった単純な関係にはなりません。
3.養育費は「分担」とされている
法律上、養育費は父母が分担するものとされています。民法では、子の監護に要する費用は父母が分担するという考え方が示されています。
もっとも、この分担は必ずしも均等に負担することを意味するものではありません。実際には、それぞれの収入や生活状況に応じて負担の程度が決まることになります。
4.分担を考える際のポイント
以下は、法律の規定や家庭裁判所の実務を踏まえて整理したものです。
分担のあり方を考える際には、子どもの生活状況、父母それぞれの収入、親子交流の実態といった事情が重要になります。特に、どちらとどの程度暮らしているか、宿泊を伴う交流がどの程度あるかといった点は、現実の負担に直接影響します。
このように、親子交流の内容は単なる面会の問題にとどまらず、養育費の分担にも関係してくる点が、共同親権の特徴といえます。
5.合意内容の作り方
共同親権では、父母の協議がこれまで以上に重要になります。そのため、養育費についても、できるだけ具体的に取り決めておくことが望ましいといえます。
毎月の養育費の金額に加え、教育費や医療費といった特別な費用の扱い、面会交流時の費用負担、支払方法や期限、将来の見直しの条件などについても整理しておくことが考えられます。
これらを曖昧にしたままにしておくと、後になって認識の違いから争いが生じる可能性があります。その結果として子どもの生活に影響が出ることもあり得るため、あらかじめ丁寧に合意しておくことが重要です。
6.合意がなくても発生する養育費(いわゆる法定養育費)
今回の改正で特に重要なのが、養育費を取り決めていなくても請求できる仕組みが設けられた点です。
この仕組みは一般に「法定養育費」と呼ばれることもありますが、法律上は暫定的な養育費と位置づけられています。
子どもを主に養育している親は、もう一方に対して一定の養育費を請求することができます。これは単に請求できるというだけでなく、父母の協議が整うのを待たずに、まず最低限の養育費について法的に確保できるようになった点に大きな意味があります。
※出典:法務省「父母の離婚後の子の養育に関するルール改正」資料をもとに作成
この養育費は離婚の日から発生し、父母の合意や裁判によって具体的な金額が決まるまで、または子どもが成人するまでの間、支払が求められます。
さらに、この暫定的な養育費については、一律に支払いが求められるわけではありません。支払を求められた側において、支払能力を欠くことや、その支払によって生活が著しく困難になることを証明した場合には、その全部または一部の支払を拒むことができるとされています。
また、子どもと離れて暮らす親の収入が乏しい場合には、父母の協議により、暫定的な養育費の目安よりも低い金額で取り決めることも可能です。
なお、暫定的な養育費の目安となる額は、子ども一人あたり月額2万円とされています。
このように、養育費は決めていないから支払わないというものではなく、一定の範囲で当然に発生するものとして位置づけられています。
なお、この制度は改正法施行後の離婚に限って適用されます。2026年4月1日以降に離婚した場合に限って利用でき、それ以前に離婚している場合には、この仕組みを利用することはできません。その場合には、従来どおり父母の協議や家庭裁判所の手続によって養育費を定めることになります。
7.養育費を確実に受け取るための仕組み
今回の改正では、養育費について決めることだけでなく、実際に受け取れるようにするための仕組みも強化されています。
この点について、改正前後の違いを見てみます。
※法務省「父母の離婚後の子の養育に関するルール改正」資料をもとに作成
※法務省「父母の離婚後の子の養育に関するルール改正」資料をもとに作成
従来は、支払がなかった場合に差押えを行うためには、公正証書や調停調書などが必要となる場面が多くありました。しかし改正後は、父母間で作成した文書に基づいて差押えを申し立てることができる仕組みが整えられています。
また、養育費には一定の範囲で優先的に回収できる仕組みが設けられており、回収の実効性が高まる方向で見直されています。この優先的に回収できる仕組みについては、子ども一人あたり月額8万円を上限として認められています。
これにより、裁判手続を経ていない場合であっても、一定の要件のもとで差押えに進むことが可能となり、養育費の支払を確保しやすくなっています。
なお、この仕組みは養育費の取決めに基づく債権に付与されるものです。そのため、取決めがない場合にはこの制度を直接利用することはできませんが、その場合には前述のとおり、暫定的な養育費の制度によって最低限の支払を確保することができます。
さらに、施行前に養育費の取決めがされている場合には、2026年4月1日以降に発生する養育費に限って適用される点にも注意が必要です。
加えて、収入情報の開示や財産の把握に関する手続も整備され、実務上の利便性が高まっています。
8.実務上の考え方
制度としては大きな見直しが行われていますが、実務は段階的に変化していくと考えられます。
当面は、従来どおり養育費算定表を基準としつつ、収入や親子交流の状況などの個別事情を踏まえて調整していく運用が中心になるでしょう。
9.まとめ
共同親権の導入により、養育費は一方が負担するものというよりも、それぞれの状況に応じて負担していくものとして整理されていきます。
また今回の改正では、合意がなくても一定の養育費が発生する仕組みや、回収をしやすくする制度が整えられました。
養育費は親同士の問題ではなく、子どもの生活を支えるためのものです。その視点を踏まえたうえで、無理のない形で合意を整えていくことが重要になります。
なお、共同親権を選択した場合であっても、児童手当などの行政サービスについては、実際に子どもを養育している状況に基づいて判断されます。そのため、共同親権であることのみを理由に直ちに支給が受けられなくなるわけではありません。
次回予告
次回は、財産分与に関するルールの見直しについて解説します。
📚過去記事
- 2026年4月スタート「共同親権」とは?― 離婚後の子の養育ルールをやさしく解説 ―
- 第2回:共同親権はどう決まる?合意と家庭裁判所の判断基準を解説
- 2026年スタート「共同親権」とは?生活と制度のポイントをやさしく解説【第3回】
- 第4回:共同親権で「日常の決定」はどうする?― 単独判断と合意の境界を実務で解説 ―
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