🍱食の安心×知財シリーズ第7回:HACCP・GAP・IPMの関係と知財活用

――農場から食卓までをつなぐ安全の全体像

目次

1. はじめに

こんにちは!

これまでのシリーズで、HACCP(加工・製造の衛生管理)、GAP(農産物の生産基準)、IPM(病害虫・雑草の総合的管理)をそれぞれ解説してきました。
今回は、この3つがどう結びつき、食の安全を守る「三位一体の仕組み」として機能するのかを全体像として整理します。さらに、現場で生まれるマニュアルやノウハウを知財・知的資産として活かす視点にも触れます。

2. 3つの仕組みの基本的な役割

  • HACCP:食品製造・加工段階での危害要因分析と衛生管理
  • GAP:農産物の生産段階での安全・環境・労働安全のルール
  • IPM:病害虫・雑草を多角的に管理する実践手法

この3つが連動することで、農場から食卓までのフードチェーン全体で、重層的に食の安全を守ることができます。

3. HACCPとGAPのつながり

HACCPには「原材料の安全を確認する」という規定があります。
そのため、食品事業者は可能な限りGAP認証を取得している農産物を調達することが望ましいとされます。
欧州では既に常識であり、日本でもHACCPの普及とともに調達条件として求められるケースが増えつつあります。

4. GAPとIPMの関係

GAPの中には「農薬使用・環境保全」に関する基準があり、ここで実践されるのがまさにIPMです。天敵昆虫の利用、防虫ネットや予察・トラップ等の物理的手法、必要最小限の農薬使用といった多角的な対策は、GAPの評価項目に直結しています。
つまり、IPMはGAP実践を支える柱です。

5. HACCPとIPMの関係

HACCPの危害要因分析には「残留農薬のリスク」も含まれます。
IPMを導入して農薬使用を最小限に抑えることは、HACCP側のリスク管理を強化することにつながります。
農場の管理(GAP・IPM)と製造の管理(HACCP)が噛み合うことで、二重の安全ネットが機能します。

6. 導入事例(地域・中小企業・輸出)

📌事例1:地域JAの挑戦(新潟県)

新潟県のあるJAでは、地域全体で「安全なコシヒカリブランド」を確立するために、三位一体の仕組みを導入しました。
農家個別ではなく団体としてJGAP認証を取得し、農薬散布のタイミングや栽培方法を地域単位で共有することでIPMを実践。さらに精米工場ではHACCPを取り入れ、精米・包装・出荷の各工程でリスクを管理しました。
この取り組みにより「安全で信頼できるコシヒカリ」として首都圏スーパーとの安定的な取引を実現しました。

📌事例2:中小加工業者の工夫

地方の冷凍食品会社は、販路拡大を目指して仕入れ体制を刷新しました。
契約農家を限定し、GAP認証済みの野菜だけを仕入れ、農家とは共同でIPMマニュアルを整備。トマト栽培では天敵昆虫を活用し、必要時のみ農薬を使用する方式を確立しました。
自社工場ではHACCPを導入し、原料受け入れから冷凍加工・出荷までトレーサビリティを担保。結果、首都圏の大手量販店との契約を獲得し、価格競争に巻き込まれず「安心・安全」を武器に成長できました。

📝 補足:トレーサビリティとは?
「農場から食卓までの“足跡”を確認できる仕組み」のことです。
どの農場で育てられ、どんな肥料や農薬が使われ、どこの工場で加工され、どの流通ルートを経て店頭に並んだのか――。
こうした履歴を記録しておくことで、問題発生時に原因を迅速に追跡でき、消費者への安心にもつながります。

📌事例3:輸出を見据えた果樹園の挑戦

ある果樹園ではアジア市場への輸出を目指し、GLOBALG.A.P.を取得しました。病害虫対策として発生予察システムを活用し、天敵昆虫を導入するなどIPMを徹底。輸出用のパッキング施設にはHACCPを導入し、異物混入防止や温度管理を強化しました。
こうして農場から輸出工程まで三位一体で安全管理を整えたことで、海外の商社から高い評価を得て、輸出ブランドとしての信頼を確立しました。

7. 知財・知的資産としての活用

HACCP・GAP・IPMを導入すると、マニュアル・教育資料・記録シートなど多くの成果物が生まれます。これらは単なる紙資料ではなく、知的財産(著作物)やノウハウ=知的資産です。

  • マニュアルや研修資料説明の仕方に工夫があり、独自の言葉や図解、事例の盛り込み方に個性が表れている場合には、著作権で保護される可能性があります。
  • IPM技術や品種改良:特許や育成者権の対象となる場合も
  • 契約面での保護:秘密保持契約(NDA)や共同研究契約が重要
  • 企業価値担保権(2026年施行予定):無形資産も金融的な価値を持つ

📝 補足

マニュアルや研修資料は、説明の仕方に工夫があり、独自の言葉や図解、事例の盛り込み方に個性が表れている場合には、著作権で保護される可能性があります。逆に「温度75℃で加熱する」「手洗いを行う」といった単なる事実や作業手順そのものは、著作権の対象にはなりません。
そのため、著作権とあわせて秘密保持契約や情報管理ルールで守ることが実務的に重要です。

8. おわりに

HACCP・GAP・IPMは別々の仕組みではなく、「食の安全を守るトライアングル」です。
農業者にとっては信頼の獲得、加工業者にとっては取引条件の強化、消費者にとっては安心。三者にメリットのある取り組みとして、段階的に導入していきましょう。

\三位一体で守る食の安全。知財で支える経営。お気軽にご相談ください!/

📚過去記事はこちら

▶第1回:O-157がきっかけだった ― HACCPとの出会い!

▶第2回:味だけじゃない“見えない価値”も守る― 小さなお店が知っておきたい知的財産リスクとは?

▶第3回:見た目で選ばれる時代― パッケージ・店舗デザインの“知財リスク”と守り方

▶第4回:HACCPって何?飲食店・製造・卸まで―安心をつくる“衛生管理”の基本

▶第5回:GAPってどういう仕組み?―信頼される農産物づくりとは

🔗参考リンク

厚生労働省:HACCP(ハサップ)

農林水産省:TRY-GAP!!

東京都産業労働局:IPM(総合的病害虫・雑草管理)の進め方

福岡県:IPM(総合的病害虫・雑草管理)の実践指標を策定しました

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