レコード演奏・伝達権とは?店舗BGMと著作隣接権をわかりやすく解説

2026年5月、政府は「レコード演奏・伝達権」を創設する著作権法改正案を閣議決定しました。

ニュースでは、「店舗BGMの使用料が変わる」「歌手や演奏家にも使用料が分配される」といった形で報じられています。

しかし今回の改正は、単なる“BGM料金”の話だけではありません。実演家の権利保護、著作隣接権、国際的な制度整合、そして日本音楽の海外展開にも関わる重要な制度改正です。

今回は、「レコード演奏・伝達権」とは何か、なぜ今制度が変わろうとしているのかについて、できるだけ分かりやすく整理してみます。

そもそも「著作権」と「著作隣接権」は違う

音楽には、複数の権利が存在しています。

例えば、作詞家や作曲家には「著作権」があります。一方で、歌手、演奏家、レコード会社などには、「著作隣接権」という別の権利があります。

簡単に言えば、曲を“創る人”の権利が著作権、曲を“伝える人”の権利が著作隣接権です。

著作権と著作隣接権の違いを、作詞家・作曲家と歌手・演奏家・レコード会社の役割から整理した図
著作権と著作隣接権の違い。音楽には、楽曲を「創る人」と、楽曲を「伝える人」の権利があります。

音楽は、作詞・作曲だけでは社会に広がりません。実際に歌い、演奏し、録音し、多くの人へ届ける人たちがいて、初めて「音楽」として成立します。

そのため著作権法では、実演家やレコード製作者についても、一定の保護が行われています。

現在の日本ではどうなっている?

現在、日本では、飲食店や店舗などでBGMを流す場合、主にJASRACなどを通じて、作詞家・作曲家へ使用料が分配されています。

しかし、歌手や演奏家などの「実演家」に対しては、店舗BGMなどに関する十分な権利が認められていませんでした。

そのため、「実際に歌い、演奏している人にも、きちんと対価が届くべきではないか」という議論が長年続いてきました。

「レコード演奏・伝達権」とは?

今回創設される「レコード演奏・伝達権」は、録音された音源が店舗などで利用された際、実演家やレコード製作者にも一定の対価を分配できるようにする制度です。

なお、著作権法では、CDやデジタル音源なども含め、録音された音源を広く「レコード」と呼ぶことがあります。そのため、「レコード演奏・伝達権」という名称ですが、昔のレコード盤だけを対象にした制度ではありません。

例えば、飲食店、商業施設、小売店などで流れるBGMについて、歌手、演奏家、レコード会社などにも一定の権利が認められる方向で制度整備が進められています。

なぜ日本では長年導入されなかったのか

実は、この制度は海外では既に広く導入されています。文化庁資料などによれば、142カ国以上で導入されているとされています。

では、なぜ日本では長年導入されなかったのでしょうか。

背景には、いくつかの事情があります。

まず、日本では飲食店や店舗などで広くBGM文化が浸透しており、「新たな権利を増やすことで、店舗側の負担が重くなるのではないか」という懸念がありました。

また、日本では既に作詞家・作曲家への使用料制度が整備されていたため、「さらに実演家側にも権利を認めるべきか」について、長年慎重な議論が続いてきました。

さらに、放送業界、レコード業界、飲食・小売業界など、多くの関係者との調整も必要でした。

つまり、「導入できなかった」というより、「制度設計と関係者調整に長い時間がかかった」という側面も大きいように感じます。

なぜ今、制度が変わろうとしているのか

今回、私が特に興味深いと感じたのは、「なぜ今なのか」という点です。

近年、音楽業界は大きく変化しています。サブスクリプション配信、YouTube、SNS、グローバル配信などにより、日本の音楽も世界中で聴かれる時代になりました。

その中で問題となっていたのが、「国際的な制度差」です。

海外では、実演家に対する権利が広く認められている国が多く存在しています。一方、日本には同様の制度がなかったため、「海外で日本の楽曲が利用されても、日本の実演家へ十分な分配が行われにくい」という問題が指摘されていました。

著作隣接権の世界では、「相互主義」という考え方が取られることがあります。

つまり、「自国で相手国の権利を十分に保護していない場合、相手国でも十分な保護を受けにくくなる」という考え方です。

もう少し具体的に言えば、日本が海外のアーティストに対して適切に使用料を支払う仕組みを整えれば、海外でも日本のアーティストに対して使用料が分配されやすくなる、という関係です。

今回の制度改正は、単なる国内制度の変更ではなく、日本のアーティストが海外でも適切な権利保護を受けるため、という側面も大きいように感じました。

著作権法の一部を改正する法律案の概要。レコード演奏・伝達権の創設と相互主義による海外からの分配の仕組みを示した図
出典:文化庁「著作権法の一部を改正する法律案の概要」より。レコード演奏・伝達権の創設により、国内外での対価還元の仕組みが整えられようとしています。

店舗への影響はどうなる?

今回のニュースを見て、「店舗側の負担が大きくなるのでは?」と感じた方もいるかもしれません。

もっとも、文化庁資料を見る限りでは、利用者側への配慮、円滑な制度運用、管理団体による一元的な徴収なども検討されており、今後の具体的な制度設計が重要になりそうです。

現時点では、「明日から全ての店舗へ大きな影響が出る」という段階ではありません。

今後の制度設計や運用ルールについても、引き続き注目していく必要がありそうです。

「創る人」だけでなく、「演じる人」の権利へ

著作権というと、「作詞家」「作曲家」をイメージする方が多いかもしれません。

しかし、音楽や映像などのコンテンツは、実際に演じる人、録音する人、制作する人など、多くの人の力によって成り立っています。

今回の「レコード演奏・伝達権」は、創作した人だけでなく、実演した人の権利も重視していく流れの一つとも言えそうです。

また、著作権法は単なる“取り締まり”の法律ではなく、文化や産業の変化に合わせて、創作や実演を支える仕組みとして変化し続けています。

今回の改正も、日本のコンテンツ産業や音楽文化の変化を感じさせる、大きな転換点なのかもしれません。

まとめ

今回の「レコード演奏・伝達権」は、単なるBGM使用料の話ではなく、実演家保護、著作隣接権、国際的制度整合、日本コンテンツの海外展開など、さまざまな要素が関係する制度改正です。

特に、「なぜ今なのか」「なぜ日本では長年導入されなかったのか」という視点から見ると、日本の著作権制度や音楽産業の変化も見えてきます。

今後、具体的な制度設計や運用ルールがどのようになっていくのか、引き続き注目していきたいと思います。

📚 過去記事

著作権の基礎シリーズでは、著作物、著作者、著作者人格権、著作権の各権利などについて、順番に整理しています。

🔗参考記事

投稿者プロフィール

aya-office
aya-office
  皆様のお役に立てる情報をお届けしたいと思っております。