レコード演奏・伝達権とは?店舗BGMと著作隣接権をわかりやすく解説

2026年6月17日、「レコード演奏・伝達権」を創設する改正著作権法が成立し、同月24日に公布されました。

「店舗でBGMを流すと使用料が変わるの?」
「歌手や演奏家にも使用料が分配されるようになるの?」

このように気になった方もいらっしゃるのではないでしょうか。

今回の改正は、単なる「BGM料金」の話ではありません。

実演家やレコード製作者の権利保護、著作隣接権、国際的な制度との調和、そして日本の音楽の海外展開にも関わる重要な法改正です。

ただし、改正法はすでに成立・公布されているものの、2026年8月現在、まだ施行されていません。

今回は、「レコード演奏・伝達権」とは何か、なぜこの権利が創設されたのか、店舗などにはどのような影響が考えられるのかについて、分かりやすく整理します。

音楽には、複数の権利が関係しています。

たとえば、作詞家や作曲家には、歌詞や楽曲を創作した人として「著作権」が認められます。

一方、歌手や演奏家などの実演家、音源を制作したレコード製作者などには、「著作隣接権」という別の権利が認められています。

簡単にいえば、曲を「創る人」の権利が著作権、曲を歌い、演奏し、録音して多くの人へ「伝える人」の権利が著作隣接権です。

著作権と著作隣接権の違いを、作詞家・作曲家と歌手・演奏家・レコード会社の役割から整理した図
著作権と著作隣接権の違い。音楽には、楽曲を「創る人」と、楽曲を「伝える人」の権利があります。

音楽は、作詞・作曲だけで社会へ広がるものではありません。

実際に歌い、演奏する人、その音を録音し、音源として制作する人たちがいて、初めて多くの人へ届けられます。

そのため著作権法では、著作者だけでなく、実演家やレコード製作者についても、それぞれの役割に応じた権利を認めています。

ポイント
作詞家・作曲家には「著作権」、歌手・演奏家やレコード製作者には「著作隣接権」が認められています。

現在の日本ではどうなっている?

飲食店や小売店、商業施設などで市販のCDや配信音源をBGMとして流す場合、そこでは作詞家・作曲家が持つ「演奏権」が関係します。

そのため、楽曲がJASRACなどの著作権管理団体によって管理されている場合には、店舗などから支払われた使用料が、作詞家や作曲家などへ分配される仕組みがあります。

一方、改正法が施行される前の現在の制度では、市販のCDや配信音源が店舗などでBGMとして再生されても、その音源に関わった実演家やレコード製作者には、原則として、その再生について対価を請求する権利が認められていません。

実演家やレコード製作者には、商業用レコードがテレビ・ラジオの放送や有線放送などで使用された場合に、二次使用料を受ける権利があります。

しかし、店舗などでCDや配信音源を再生して公衆に聞かせる場合までは、その対象になっていなかったのです。

そのため、「実際に歌い、演奏した人や、音源を制作した人にも、その音源が店舗などで利用された対価が還元されるべきではないか」という議論が続けられてきました。

「レコード演奏・伝達権」とは?

今回の法改正によって創設された「レコード演奏・伝達権」は、市販のCDや配信音源などが店舗などで公に利用された場合に、実演家やレコード製作者が二次使用料を受け取ることができる権利です。

具体的には、大きく二つの利用が想定されています。

一つは、市販のCDや配信音源などの商業用レコードを、店舗などで再生して公衆に聞かせる利用です。

もう一つは、インターネット配信などによって公衆送信されている音源を、受信装置を使って店舗などで公に伝達する利用です。

たとえば、飲食店、小売店、商業施設などで、市販のCDや配信音源をBGMとして利用する場面が考えられます。

なお、著作権法でいう「レコード」は、昔のアナログレコード盤だけを意味するものではありません。

音を物に固定したものをいい、CDやデジタル音源なども含まれます。

また、「レコード演奏・伝達権」は一般的な呼び方であり、改正法では、実演家とレコード製作者のそれぞれについて、商業用レコードの公の再生や、公衆送信される音の公の伝達に対する二次使用料請求権が定められています。

ポイント
「レコード」という名称ですが、昔のアナログレコード盤だけを対象にした制度ではありません。市販のCDや配信音源なども関係します。

利用を禁止する権利ではない

レコード演奏・伝達権は、実演家やレコード製作者が音源の利用を禁止できる「許諾権」ではありません。

商業用レコードを店舗などで公に再生・伝達した場合に、その利用の対価として二次使用料を受け取る「報酬請求権」です。

そのため、実演家やレコード製作者が、「この店舗では音源を流してはいけない」と差し止めるための権利ではありません。

ポイント
音源を「使わせないための権利」ではなく、音源が公に利用されたときに「対価を受け取るための権利」です。

音楽を円滑に利用できる環境を保ちながら、その利用によって生じる利益を、歌手・演奏家やレコード製作者にも還元する仕組みといえます。

なぜ日本では長年導入されなかったのか

レコード演奏・伝達権に相当する制度は、海外の多くの国や地域ですでに導入されています。

それでは、なぜ日本では長年導入されなかったのでしょうか。

背景には、いくつかの事情があります。

現行の著作権法が制定された当時は、店舗などにおける商業用レコードの利用が現在ほど広がっておらず、新たな権利を設けた場合の社会的な影響も大きいと考えられていました。

そのため日本では、当分の間、商業用レコードが広く利用される放送・有線放送に限って、実演家やレコード製作者が二次使用料を受ける権利を認めることとされました。

その後、店舗や飲食店、宿泊施設などで音楽を利用する機会は大きく増えました。

CDだけでなく、配信音源や業務用BGMサービスなど、店舗で利用される音源の形も多様化しています。

一方、新たな権利を設ければ、店舗やBGMサービス事業者など、音源を利用する側に新たな負担が生じます。

音楽利用を萎縮させないようにしながら、実演家やレコード製作者にも適切に対価を還元する必要があるため、制度設計や関係者間の調整には長い時間が必要だったのです。

なぜ今、制度が変わったのか

近年、音楽業界を取り巻く環境は大きく変化しています。

サブスクリプション配信、YouTube、SNS、グローバル配信などにより、日本の音楽も世界中で聴かれる時代になりました。

その中で問題となっていたのが、国による権利保護の違いです。

海外では、店舗などにおける商業用レコードの再生・伝達について、実演家やレコード製作者が対価を受け取れる国が多くあります。

一方、日本には同様の権利がなかったため、相互主義によって、海外で日本の音源が利用されても、日本の実演家やレコード製作者が十分な対価を受け取れない場合があることが指摘されていました。

相互主義とは、相手国が日本の権利者をどこまで保護するかについて、日本が相手国の権利者へ与えている保護の範囲に応じて判断する考え方です。

日本が海外の実演家やレコード製作者に対して適切な対価を還元する制度を整えることで、海外でも日本の実演家やレコード製作者が対価を受け取りやすくなることが期待されます。

レコード演奏・伝達権の創設と相互主義による国内外の対価還元の仕組みを示した図
出典:文化庁「著作権法の一部を改正する法律案の概要」より。レコード演奏・伝達権の創設により、国内外での対価還元の仕組みが整えられようとしています。

今回の法改正は、国内における店舗BGMの問題だけでなく、日本の音楽を海外へ展開し、その利用による利益を日本のアーティストや音楽業界へ還元するための制度整備という側面も持っています。

店舗への影響はどうなる?

今回の改正を知って、「店舗でBGMを流すと、すぐに新たな使用料がかかるの?」と不安に感じた方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、改正法が成立・公布されたからといって、すぐにすべての店舗へ新たな支払いが発生するわけではありません。

改正法の施行日は、公布の日である2026年6月24日から3年を超えない範囲内で、政令によって定められます。

注意点
2026年8月現在、改正法はまだ施行されていません。成立・公布されたことと、実際に制度の運用が始まることは別です。

また、改正法では、営利を目的とせず、聴衆や観衆から料金を受けずに公に再生する場合など、一定の場合は二次使用料の対象外とされています。

実際にどのような利用者から、どの程度の二次使用料を、どのような方法で徴収するのかについては、施行に向けて具体的な仕組みを整える必要があります。

文化庁の検討でも、利用者側に過度な負担を生じさせないことや、音楽利用を萎縮させないこと、簡便で効率的な徴収方法を構築することなどの必要性が示されています。

したがって現時点では、「すべての店舗が、すぐに一定額を支払わなければならない」と決まったわけではありません。

店舗などで音楽を利用している事業者にとっては、今後決められる施行日や、対象となる利用、二次使用料の額、徴収方法などを確認することが大切です。

「創る人」だけでなく、「演じる人・音源を制作する人」の権利へ

著作権というと、作詞家や作曲家など、作品を創作した人の権利を思い浮かべる方が多いかもしれません。

しかし、音楽は、作詞・作曲をした人だけで完成するものではありません。

実際に歌う人、演奏する人、その音を録音し、音源として制作する人など、多くの人の力によって私たちのもとへ届けられています。

今回のレコード演奏・伝達権は、音楽を創作した人だけでなく、音楽を実演し、音源として社会へ届ける人にも、その利用による利益を還元するための仕組みです。

また、著作権法は単に無断利用を取り締まるための法律ではありません。

著作物や実演、音源を社会で円滑に利用できるようにしながら、その文化を支える人たちへ適切に対価を還元する役割も担っています。

今回の法改正は、デジタル化や音楽のグローバル化が進む中で、実演家やレコード製作者への利益還元のあり方を見直す、大きな転換点の一つといえるでしょう。

まとめ

レコード演奏・伝達権は、市販のCDや配信音源などが店舗で公に再生された場合や、公衆送信される音源が公に伝達された場合に、実演家やレコード製作者が二次使用料を受け取ることができる権利です。

これは、音源の利用を禁止する許諾権ではなく、利用の対価を受け取る報酬請求権です。

2026年6月17日に改正著作権法が成立し、同月24日に公布されましたが、2026年8月現在、まだ施行されていません。

施行日は、公布の日から3年を超えない範囲内で、政令によって定められます。

また、実際の二次使用料の額や徴収方法などについては、音楽を利用する店舗や事業者へ過度な負担が生じないよう配慮しながら、施行に向けた仕組みを整えていくことになります。

今回の法改正は、単なる店舗BGMの使用料の問題ではありません。

実演家やレコード製作者の権利保護、国際的な制度との調和、日本の音楽の海外展開、そして音楽を支える人たちへの適切な対価還元に関わる制度改正です。

今後、施行日や具体的な運用方法がどのように定められるのか、引き続き注目していく必要があります。

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