🍱食の安心×知財シリーズ第6回:IPMって何?持続可能な農業と知的資産の関係

目次

1. はじめに

こんにちは!

前回は「GAP(適正農業規範)」を取り上げました。今回はさらに「病害虫や雑草の管理方法」に焦点を当てます。そのカギとなるのがIPM(総合的病害虫管理:Integrated Pest Management)です。化学農薬に頼り切らず、複数の手段を組み合わせることで、安全性・環境保全・持続可能性を両立させる仕組みです。

2. IPMとは?―総合的病害虫管理の考え方

IPMは「病害虫の発生をゼロにする」のではなく、発生を一定水準以下に抑え、経済的な被害を防ぐことを目的としています。

具体的には以下の方法を組み合わせて行います。

    • 生物的防除:天敵昆虫や微生物を利用して病害虫を抑える
    • 耕種的防除:輪作や播種時期の調整、健全な土づくりで発生を防ぐ
    • 物理的防除:防虫ネット、光や色を利用したトラップ、温度管理など
    • 化学的防除:必要な場面で最小限の農薬を使用(抵抗性対策も含む)

農薬だけに依存しないため、農業者・消費者・環境の三方にとってメリットがある仕組みといえます。

3. IPMのメリット

  • 農薬使用量の削減:消費者への安心感が高まり、輸出市場でも「低農薬栽培」として評価されやすい
  • 農業者の健康リスク軽減:農薬散布の頻度を減らし、作業者の安全も守れる
  • 環境への配慮:水質汚染や生物多様性への悪影響を抑え、持続可能な農業へ貢献
  • 経営の安定化:病害虫に強い栽培体系をつくることで、収量や品質の安定が期待できる

4. 導入事例

📌事例1:イチゴ農家の天敵昆虫利用

ある地域のイチゴ農家では、アブラムシ対策に「テントウムシ」を導入しました。さらに黄色粘着板を設置することでコナジラミの発生も抑制。結果として農薬散布回数を半分に減らし「安心・安全なイチゴ」として地元スーパーへの販路拡大に成功しました。

📌事例2:水田での除草管理(合鴨農法とロボット技術)

水田では雑草管理が大きな課題ですが、合鴨を放すことで雑草や害虫を食べてもらう「合鴨農法」が広がりました。近年ではAI搭載の除草ロボットも登場し、環境負荷を減らしつつ雑草を効率的に除去。農薬に頼らない持続可能な水田管理として注目されています。

📌事例3:施設園芸での総合対策

トマト農家では、防虫ネットや換気管理などの物理的対策に加え、病害虫が発生した場合のみ限定的に薬剤を使用。結果として収穫量の安定と農薬コスト削減を同時に実現しました。こうした「複合的な対応」がまさにIPMの実践です。

5. 政策・支援との関係

農林水産省は「IPMの普及推進」を掲げ、技術マニュアルや補助事業を通じて導入を後押ししています。
また、GAPの審査基準の中にも「病害虫管理」の項目があり、実質的にIPMの要素が取り込まれています。
つまり、IPMの取り組みはGAP認証の取得とも相乗効果を持つのです。

6. IPMと知財・知的資産

IPMは農業の技術だけでなく、知的財産や知的資産の側面とも深く結びつきます。

    • 特許や育成者権:天敵昆虫や耐病性品種の開発には知財権が関与
    • ノウハウ(知的資産):農場ごとに工夫した栽培記録やマニュアルは、経営を支える重要な資産
    • 秘密保持契約(NDA):外部業者や共同研究先と技術を共有する場合、ノウハウ流出を防ぐために必須
    • 企業価値担保権(2026年施行予定):知的資産も将来の担保価値となりうる

つまり、IPMの導入は「農業技術の進化」であると同時に「知財戦略の一部」として捉えることができます。

7. おわりに

IPMは、農薬に頼らず複数の方法を組み合わせることで「農業者にとっては効率的で持続可能な経営」「消費者にとっては安心」を両立できる仕組みです。
これまでのHACCPやGAPと同様に、食品・農業分野の信頼性を支える重要な要素であり、今後ますます普及が期待されます。

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📚過去記事はこちら

▶第1回:O-157がきっかけだった ― HACCPとの出会い!

▶第2回:味だけじゃない“見えない価値”も守る― 小さなお店が知っておきたい知的財産リスクとは?

▶第3回:見た目で選ばれる時代― パッケージ・店舗デザインの“知財リスク”と守り方

▶第4回:HACCPって何?飲食店・製造・卸まで―安心をつくる“衛生管理”の基本

▶第5回:GAPってどういう仕組み?―信頼される農産物づくりとは

🔗参考リンク

東京都産業労働局:IPM(総合的病害虫・雑草管理)の進め方

福岡県:IPM(総合的病害虫・雑草管理)の実践指標を策定しました

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