情報セキュリティと知財管理シリーズ第1回:技術流出で書類送検!

営業秘密の持ち出し事件から学ぶ、企業が取るべき情報管理対策とは?

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2025年8月、次世代のプラスチック技術で注目を集めていた新素材ベンチャー企業「TBM」の元幹部が、自社の営業秘密を不正に持ち出し、自らの新会社での活用を企てていたとして書類送検されました。

情報漏えいや営業秘密の持ち出しは、決して他人事ではありません。特に中小企業や個人事業でも、知らぬ間にトラブルに巻き込まれる可能性があるのです。

今回はこの事件を通して、営業秘密の定義や、実際に起きた過去の事例、そして企業がとるべき情報管理の対策について、わかりやすく解説します。


営業秘密の持ち出しで書類送検――今回の事件とは?

◆ TBM事件の概要

2025年8月、カーボンリサイクル技術を有する企業「TBM」の元室長が、社内の分析データ約80ファイルを外部サーバーにアップロードしたとして、不正競争防止法違反(営業秘密の領得)の疑いで書類送検されました。

データは、同氏が設立予定だった新会社で活用する意図があったとされ、もう一人の元社員も関与していたと報じられています。

◆ 営業秘密とは?

不正競争防止法では、以下の3つの要件をすべて満たす情報が「営業秘密」として保護されます。

  1. 秘密として管理されていること
  2. 有用な情報であること
  3. 公然と知られていないこと(非公知性)

「自社の技術」や「顧客リスト」「設計図」「開発中の試作品情報」なども、条件を満たせば営業秘密に該当します。


過去にもあった!技術持ち出しの事例とその背景

1. ポリカーボネート樹脂製造技術の不正取得事件(PCプラント事件)

  • 企業の従業員を通じて、ポリカーボネート樹脂製造装置に関する設計図面や技術情報を不正に取得し、中国企業に開示したとして、不正競争防止法違反が認められた事例です。被害賠償請求額では約3億円中、1100万円の損害が認定されました
  • 「樹脂」「プラスチック」製造装置の中核技術であるため、「次世代プラスチック技術」に該当する可能性もあります。

2. ガラス瓶製造技術の持ち出し事件(日本山村硝子)

  • 「超軽量ガラス瓶」の成形技術プログラムを元社員が中国企業へ送信し、対価として総額1.9億円相当の振込があったとされています
  • ガラス技術ですが、「素材製造技術」として応用可能な範疇にある点で参考になります。

3. 電子部品メーカーから車載電装技術の流出(アルプスアルパイン事件)

  • 2023年12月5日、電子部品大手・アルプスアルパインの元社員が、自動車向け制御システム設計データを不正にコピー・持ち出し、転職先(某大手自動車メーカー)での利用を企図していた疑いで逮捕された事件
  • プラスチック会社とは別領域ですが、技術流出という視点で参考になるケースです。

4. 最新事例:半導体関連での営業秘密漏洩

2025年7月に、半導体部品メーカー「クリエイティブテクノロジー」の元副社長が、静電チャック販売価格や顧客情報を部下と共謀して持ち出したとして逮捕されました

◆ 共通点は?

  • 転職・起業と絡むケースが多い
  • データの管理が不十分
  • 「自分の成果だと思っていた」意識のズレ

情報管理に潜むリスクと、見過ごされがちな落とし穴

◆ 形式だけの管理で営業秘密にならないケースも

「機密」と書いていても、実際にアクセス制限や管理がなければ保護対象になりません。紙の書類も電子データも、実態に即した管理が必要です。

◆ 無意識な持ち出しが起きやすい

退職時に「自分の資料」と思って保存してしまう例も。クラウド同期やUSBなどで、自動的に情報が移動してしまうこともあります。

◆ 外部サービスやスマホ利用の落とし穴

無料のファイル共有アプリ、個人スマホ、LINE・Chatアプリなど…便利さの裏に情報漏えいリスクが潜んでいます。

◆ 中小企業こそ要注意

「うちは関係ない」と思われがちですが、むしろ管理が甘いと狙われやすいのが現実。顧客データや見積書、業務フローなども立派な営業秘密です。

◆ 守るべきは「技術」だけじゃない

営業マニュアル、トークスクリプト、人材育成資料、業務メール…これらも流出すれば、競合にとっては貴重な情報になります。


情報漏えいを防ぐには?営業秘密の管理と実務対策

◆ 1. 秘密情報の明示と管理ルールの整備

  • 「機密」マークの徹底
  • 社内でのアクセス制限
  • サーバーの管理体制見直し

◆ 2. 社員教育と退職時面談の徹底

  • NDA(秘密保持契約)の締結
  • 退職時の持ち出しチェックリスト
  • 意識づけが最大の防止策

◆ 3. ITツールを活用したログ管理・監視

  • ファイル操作ログの取得
  • USB使用制限やメール監視
  • 社外クラウド連携の制限

個人や小規模事業者にも関係ある?

◆ 顧客情報やノウハウの扱いにも注意

  • 顧客リストや見積書は、情報資産です。
  • 業務委託契約・共同開発契約でもNDAは必須。

◆ 契約書でトラブルを未然に防ぐ

行政書士として携わる契約書にも、秘密保持条項を入れることで、いざというときに備えることができます。


まとめ:情報管理は「漏れてからでは遅い」

営業秘密の持ち出しは、故意・過失を問わず発生しうるリスクです。しかも一度漏れた情報は、取り戻すことができません。

社内でのルール整備、意識づけ、そしてツールの導入など、できるところから少しずつ対策を始めていきましょう。

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🔗 この記事は、当事務所の「知財シリーズ」と連動した【実務コラム】です。

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👉第1回:「著作権だけじゃない!」~知財って、実はあなたのすぐそばにある~
👉第2回:「名前」や「ロゴ」にも知的財産があるって本当? 〜商標のお話〜シリーズ第2回

「情報を守る」ことは、「知財を活かす」ことの第一歩です。

🔗外部リンク

経済産業省:営業秘密~営業秘密を守り活用する~

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