🌱知財シリーズ第4回　契約してこそ活かせる！知財の利用と守り方　

こんにちは！
当事務所では、個人事業主や小規模事業者の皆さまの知財（知的財産）に関するお悩みをサポートしています。私自身も日々勉強を続けながら、「ちょっと難しいけれど、全然できなくもない！」を合言葉に、皆さんと一緒に学んでいけるブログを目指しています。

知財の世界シリーズの第3回までお伝えしてきました。

今回は、少し趣向を変えて「契約」のお話しです。

◆はじめに：登録したら終わり、ではない知財の世界

商標・特許・意匠といった知的財産権は、登録によって法的な効力を持ちます。
ですが、それだけで安心してはいけません。

これらの権利を**「誰が使うのか」「どのように使えるのか」を明確にしておかないと、後で思わぬトラブル**に発展することがあります。

知財は“使ってこそ価値がある”。
そして、その「使い方」を決めるのが契約です。

◆「登録だけ」では守れない

たとえば、商標を登録した企業が、ライセンス契約なしに他社にブランド名を使わせていたとします。
もしその他社が不適切な販売活動をした場合、ブランド価値が損なわれる恐れがあります。
これは使用許諾条件を明確にしていなかったことが原因です。

逆に、きちんと契約しておけば、
・「使用はこの範囲まで」
・「品質管理に従うこと」
などのルールを設け、自社ブランドを守ることができます。

◆商標・特許・意匠でも「契約」が必要な理由

商標や特許は、企業のブランディングや技術力を支える大切な資産。
たとえば以下のような場面では、契約の有無がトラブルの分かれ道になります。

• 商標を共同で出願したが、後で「勝手に使った」と揉めた
• 他社の特許技術を使って製品を作るとき、ライセンス条件が曖昧だった
• 意匠権を持つデザイナーとの合意が口頭のみで、訴訟に発展した

◆こんなときは契約を結んでおこう

【商標】

• フランチャイズ契約（店舗名やロゴの使用許諾）
• OEM商品へのブランド名使用
• 登録者と使用者が異なるとき

【特許】

• ライセンス供与（使用権を与える）
• 共同開発契約（成果物の権利配分）
• 下請け企業への技術提供

【意匠】

• 商品パッケージや外観デザインの委託
• キャラクターやロゴマークのデザイン使用
• デザイナーとの意匠権の譲渡契約

◆契約で明確にしておきたいこと

1. 誰に、どの範囲で使用を許すのか（使用権の範囲・地域・期間など）
2. 再許諾の可否（他社に再使用を認めるか）
3. 対価・ロイヤリティの有無とその計算方法
4. 契約終了後の取り扱い（回収・廃棄・再利用の制限など）
5. 違反時の措置（損害賠償や差止請求の可否）
   

◆ 特許・実用新案・意匠：実施権の契約

技術的アイデア（特許・実用新案）やデザイン（意匠）を他人に使わせるには、「実施権」の設定が必要です。

この実施権には、以下の2つがあります。

• 専用実施権：一定の範囲で独占的に使わせる権利。他の人は使えません。
• 通常実施権：非独占的に使わせる権利。他の相手にも許諾可能です。

例えば、自社で開発した特許技術を地方の製造業者にライセンスする場合、排他的に使ってほしいなら「専用実施権」に。複数社に広く展開したいなら「通常実施権」にします。

なお、専用実施権を設定するには登録が必要です（特許庁への手続き）。
一方、通常実施権は契約書だけで成立します（ただし第三者対抗のためには登録も可能）。

◆ 商標：使用権の契約

ブランド名やロゴなどの商標を使わせる場合は「使用権」の契約になります。
商標は「誰が提供する商品・サービスか」が重要なので、
使用権を与える際は品質管理の義務が発生します。

商標にも2種類の使用権があります。

• 専用使用権：他人が使えないようにする独占的な権利
• 通常使用権：他者にも使わせられる非独占的な権利

例）フランチャイズ契約では、加盟店が本部の商標を使う「通常使用権」を設定するのが一般的です。

◆ 著作権：使用許諾の契約

音楽・文章・写真・イラストなどの著作物を他人に使わせるときは「使用許諾」の契約を結びます。
著作権法では「実施」や「使用」という言葉はあまり使わず、
「複製」「上映」「翻訳」など、具体的な利用形態ごとに許諾を与えることになります。

例えば、イラストの使用許諾契約では、

• どの媒体で使うのか（WEB・印刷物・SNSなど）
• 使用期間や地域
• 二次使用や改変の可否

などを細かく定めておくと、後のトラブルを防げます。

◆ 用語の違いを整理しておきましょう

ここまでに出てきた「実施権」「使用権」「使用許諾」は、対象となる知的財産によって用語が異なりますが、本質的には**「他人に使わせる契約」**という点で共通しています。

◆ 職務発明や共同発明・創作の場合

企業や組織で働く中で得られた発明・創作は、**職務発明（または職務著作）**とされることがあります。

• 職務発明（特許）：会社の業務として発明したもの → 原則として企業に権利が帰属（職務発明については下記に記載しています）
• 共同発明・共同出願：複数人で発明した場合 → 共有になるが、出資比率や貢献度により契約で調整することが重要

特に、大企業と中小企業や個人が共同開発を行う場合、立場の違いが契約内容に大きく影響します。
こういった契約で、「そんなはずじゃなかった」というケースも多く聞きます！
相手の提示する契約を鵜呑みにせず、自分の貢献に見合った条件になっているか、冷静に確認する必要があります。

◆ 職務発明と「あらかじめの取り決め」

会社の社員が仕事として行った発明は、「職務発明」として特許法の対象になります。

ただし、実際にその発明の権利（特許を受ける権利や、特許権そのもの）を会社が取得できるかどうかは、会社と社員との間に**あらかじめ明確な取り決め（契約・就業規則・勤務規程など）**があるかにかかっています。

🔹 特許法第35条（職務発明）
発明者が職務上した発明について、企業が「特許を受ける権利を承継する」ためには、
・その旨の定め（契約、就業規則等）
・発明者への相当の金銭的待遇（「相当の対価」）
が必要です。

もしこうした取り決めがなければ、たとえ勤務時間中に会社の設備を使って発明していたとしても、その発明の「特許を受ける権利」は社員本人のものとなるのが原則です。

◆ 取り決めの具体例（契約書や規程）

• 就業規則の中に「職務発明は会社に帰属する」旨の記載をする
• 入社時に「知的財産に関する取扱契約書」を交わしておく
• 社内発明届と、報奨金や奨励金の制度を整備しておく

こうした制度整備によって、社員との間でトラブルにならず、かつ発明の適切な管理や活用が可能になります。

◆契約は「攻め」と「守り」の両方に効く

知的財産は、活用すればするほど価値が増す資産です。
でも、その“活用”のルールを定めなければ、自分の首を絞める結果にもなりかねません。

「うちは中小企業だから…」と思われるかもしれませんが、
むしろ中小企業や個人事業者こそ、契約でしっかり守ることが大切です。

◆ おわりに

知財は「登録して終わり」ではありません。
他人に使ってもらうことで初めて価値が生まれるケースも多く、
そのためには適切な契約を通じて利用範囲や条件を明確にしておくことが不可欠です。

特に、小規模事業者や個人が相手と対等に交渉するには、「契約に強くなる」ことが重要な武器になります。

知財を登録するには費用がかかります。現在は、知財をどのように生かすのか（ライセンス等）といった知財ビジネスが主流で、「知財＋営業秘密」を組み合わるケースも多くあります。
知財を上手く使うことが、今後重要になってくるのでしょう。

知財の話って、ちょっと難しそうだったり、答えがすぐに出ないこともよくあります。
でも、だからこそ、私も学びながら、こうして少しずつでも伝えていけたらと思っています。

どのくらいの方に届いているのかはわかりませんが、
「へえ、知らなかった！」「ちょっと役に立ったかも」と思ってもらえたら本当にうれしいです。

また気が向いたときに、のぞいていただけたら嬉しいです。
私もまだまだ勉強中ではありますが、「知らなかった」で困る方を少しでも減らせるよう、
これからも知財のことを、できるだけわかりやすく発信していきます。

知財をもっと身近に。もっと味方に。

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📚過去記事はこちからら

・第1回：「著作権だけじゃない！」～知財って、実はあなたのすぐそばにある～
・第2回：「名前」や「ロゴ」にも知的財産があるって本当？ 〜商標のお話〜
・第3回：「特許」ってすごい！〜未来を変える発明のチカラ〜

🔗外部リンク

👉特許庁：中小企業の皆さまへ　知的財産を事業に活かそう

🔜次回予告（第5回）

第5回は、衣装と知財の交差点（応用編）〜ファッションに活きる著作権・意匠・商標〜
ファッションを切り口にして、「著作権」「意匠」「商標」といった知的財産がどのように関わるのかを予定しています。

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