【著作権の基礎シリーズ:第12回】 翻訳権・翻案権ってなに?
―「アレンジ」はどこまで認められる?
文章を翻訳して紹介する、物語をアレンジする、既存の作品をもとに新しい作品を作る。こうした行為は、日常の中でも意外と身近に行われています。
一方で、「自分で手を加えているから大丈夫」と思ってしまいがちな分野でもあります。
しかし著作権法では、これらの行為は「翻訳権・翻案権」として明確に位置づけられており、原則として著作者の許諾が必要です。
今回は、翻訳権・翻案権の基本とともに、特に重要となる二次的著作物の考え方について、条文と実務の視点から整理していきます。
まずは、翻訳と翻案の違いをイメージで見てみましょう。
翻訳(言語の変換)と翻案(内容のアレンジ)の違いをイメージで整理
目次
翻訳権・翻案権とは(第27条)
まずは条文を確認します。
(翻訳権、翻案権等)
第27条 著作者は、その著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案する権利を専有する。
この条文から分かるとおり、著作物をもとにして「別の形に作り変える行為」は、著作者だけが行うことができる権利とされています。
対象となる行為には、例えば次のようなものがあります。
- 外国語の文章を日本語に翻訳する
- 小説を脚本や漫画にする
- 既存の作品の設定やストーリーを変更する
- 作品をもとに新しい表現へ作り直す
ここで重要なのは、「創作しているように見えても、元の作品に依存している場合は翻案にあたる」という点です。
翻訳と翻案の違い
翻訳と翻案は、どちらも「作り変える行為」ですが、その性質には違いがあります。
翻訳は、言語を変える行為です。内容や構成を維持したまま、別の言語で表現します。
一方で翻案は、内容や表現そのものに変更を加える行為です。単なる言語の置き換えにとどまらず、構成や設定を変えて新しい作品として再構成します。
たとえば、次のようなケースは翻案に該当します。
- 小説を映画化する
- キャラクター設定を変えて再構成する
- 元のストーリーをもとに別の展開を作る
二次的著作物とは(第28条)
翻訳や翻案によって作られた作品は、「二次的著作物」と呼ばれます。
条文を確認します。
(二次的著作物の利用に関する原著作者の権利)
第28条 二次的著作物の原著作物の著作者は、当該二次的著作物の利用に関し、この款に規定する権利で当該二次的著作物の著作者が有するものと同一の種類の権利を専有する。
この条文が示しているのは、二次的著作物が作られた場合でも、元の著作者の権利はなくならないということです。
つまり、次のような構造になります。
- 二次的著作物の作者にも著作権がある
- しかし、元の著作者の権利も引き続き及ぶ
そのため、二次的著作物を利用する場合には、二次的著作物の著作者だけでなく、原著作物の著作者の権利にも配慮する必要があります。
文化庁Q&Aから見る実務上のポイント
文化庁の著作権Q&Aでも、翻訳や翻案に関して重要な考え方が示されています。
たとえば、著作権の譲渡を受けたとしても、翻訳や映画化をする際には、改めて了解が必要となる場合があるとされています。
この点は、著作権法第61条にも明確に規定されています。
(著作権の譲渡)
第61条 著作権は、その全部又は一部を譲渡することができる。2 著作権を譲渡する契約において、第27条又は第28条に規定する権利が譲渡の目的として特掲されていないときは、これらの権利は、譲渡した者に留保されたものと推定する。
この条文が示しているのは、単に「著作権を譲渡する」とされていても、それだけでは翻訳権(第27条)や二次的著作物に関する権利(第28条)まで含まれるとは限らないという点です。
むしろ、契約の中でこれらの権利が明確に記載されていない場合には、次のように扱われます。
- 翻訳権・翻案権(第27条)は譲渡されていない
- 二次的著作物の利用に関する権利(第28条)も譲渡されていない
- これらの権利は元の著作者に留保されていると推定される
この「留保される」という考え方は、実務上非常に重要です。
著作権を取得したつもりでも、翻訳やアレンジ、映画化などを自由に行えるとは限らず、別途許諾が必要になるケースがあります。
契約書にどこまでの権利が含まれているのかを確認することが、トラブル防止のためにも不可欠です。
映画の著作物について少しだけ
翻案の代表的な例として、「映画化」があります。
小説を映画にする場合は、第27条の「映画化し、その他翻案する権利」に関わることになります。
さらに、映画については著作権法第29条で特別なルールが定められており、映画の著作権が誰に帰属するのかについて、通常の著作物とは異なる整理がされています。
映画は、多くの著作物や多くの関係者が関わって作られるため、制作契約や権利処理が非常に重要です。
本記事では詳細には立ち入りませんが、「映画は翻案の典型例であり、しかも特別なルールがある」という点は押さえておきたいところです。
実務で注意したいポイント
翻訳権・翻案権に関しては、実務上、次のような誤解が少なくありません。
- 翻訳すれば自分の作品として自由に使える
- 要約であれば問題ない
- パロディなら許される
- キャラクターを使った創作は自由である
しかし実際には、元の作品との関係性が残っている限り、著作権の問題が生じる可能性があります。
特に注意したいのは、次のような点です。
- 内容が分かる程度の要約は翻案と評価される可能性がある
- 二次的著作物の利用には原著作者の権利も関係する
- SNSやブログでも問題となるケースがある
「少し変えたから大丈夫」と考えるのではなく、元の著作物への依拠があるかどうかを意識して判断することが大切です。
まとめ
翻訳や翻案は、新しい創作活動として重要な役割を持つ一方で、著作権の中でも特に誤解されやすい分野です。
自分で手を加えているから自由に使える、というわけではなく、元の著作物との関係を常に意識する必要があります。
第27条は「作り変える権利」、第28条は「権利が重なる仕組み」を示しています。
この2つをセットで理解することで、実務における判断がしやすくなります。知らないうちにリスクを抱えてしまわないためにも、基本的なルールを押さえておくことが大切です。
📚 過去記事
- 第1回:著作権にはどんな権利があるの?
- 第2回:複製権ってなに?
- 第3回:上演権・演奏権
- 第4回:家でDVDを見るのはOK?上映会は?
- 第5回:公衆送信権ってなに?
- 第6回:公の伝達権ってなに?
- 第7回:口述権ってなに?
- 第8回:展示権ってなに?
- 第9回:「譲渡権」ってなに?
- 第10回:「貸与権」ってなに?
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