知財のグレーゾーンシリーズ第2回:不正競争防止法の落とし穴

――「盗用された!」と思っても守れないこともある?


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知財のグレーゾーン第2回:不正競争防止法の落とし穴

はじめに:盗まれた!…でも守られない?

起業や副業を始めると、「これ、自分のアイデアだったのに」「まさか、あの人が…」という場面に出くわすことがあります。

たとえば──

  • オリジナルで考えたサービス名やロゴを、よく似た形で他社が使っていた
  • 商談や打ち合わせで話した内容が、なぜか別の会社から先に発表された
  • SNSに投稿した自作のレシピや作品画像が、無断で別アカウントに転載されていた

こうしたケースは、まさに“盗用された”と感じる瞬間です。

しかし、残念ながら日本の法制度では、「パクリ=即違法」とはなりません。 相手の行為が法的に“アウト”かどうかは、非常に細かい要件や証明の難易度が絡んでくるのです。

特許や著作権などの“登録型”の知財ではない、「不正競争防止法」という法律も、ある意味グレーゾーンを守る頼れる存在。 ただし、万能ではありません。使える条件があるのです。

この記事では、「何が守られて」「何が守られないのか」―― グレーゾーンの現実を、豊富な事例と共に、読み応えたっぷりにお伝えします。

不正競争防止法ってどんな法律?

「不正競争防止法(略して“不競法”)」は、その名のとおり、ズルを防ぐ法律です。 でも、ズルにもいろいろありますよね。

この法律がターゲットにしているのは、たとえば次のような行為です。

  • 元社員が会社の顧客リストを持ち出して、新会社で営業をかけた
  • 有名になったロゴやキャッチコピーを、他社がそっくり使って商品を販売
  • SNSで人気になったレシピをそのままコピーして、商用サイトに掲載
  • まだ発売前の商品を撮影して、ライバルが先に模倣して販売した

これらは、いずれも「不正な手段で他人の努力を利用する」ことにあたります。 つまり、企業やクリエイターが積み上げてきたブランド・信頼・ノウハウなどの“無形資産”を守る法律なのです。

特徴的なのは、登録がなくても使える点。 特許や商標は出願・登録が前提ですが、不競法は実態があれば使える“現場型”の武器ともいえます。

ただし、それだけに「これは不正だ!」と主張するには、要件や証拠がとても厳格です。 このあとの章で、実例とともに“落とし穴”を掘り下げていきます。

こんな落とし穴に注意!3つの事例

① ロゴやパッケージを真似されたけど…?

飲食店やECブランドを立ち上げたばかりの時期に、「似たようなロゴの店が近くにできた」という相談は意外と多くあります。

しかし、たとえ似ていたとしても「自分のものが守られる」とは限りません。

なぜなら、「周知性」というハードルがあるから。

周知性とは、同業者・取引先・顧客などの間で、その名称やロゴが“商品やサービスの出所を示すもの”として広く認識されていることを意味します。

重要:全国的に知られている必要はありませんが、特定の業界・地域で識別力があるといえる実績が必要です。

さらに「混同」が必要です。つまり「他社の商品と間違えて買ってしまうほど似ている」ことが求められます。

📌 実務アドバイス:

  • 商標登録の検討は「使い始めた直後」がベストタイミング
  • ロゴをメディア・Web・名刺などに一貫して使用し、使用実績を積み上げる
  • 地域イベントやレビューサイトへの露出も“周知性の証拠”に
  • 顧客アンケートや口コミも“第三者評価”として有効

② アイデアや企画書を出したのに、相手が先にリリース!

「提案したアイデアがそのまま使われた」という体験は、フリーランスや個人事業主にとって非常にストレスです。

しかし、不正競争防止法で保護されるには「具体的な形態」や「技術的成果」が必要であり、単なる構想やアイデアは対象にならないことが多いのです。

さらに「秘密性」「模倣の容易性」といった要件も問われるため、ハードルは高めです。

📌 実務アドバイス:

  • 提案書には日付・バージョン・著作者名を明記
  • 提出記録を保存(送信メールやクラウド履歴)
  • NDA(秘密保持契約)は信頼関係の証拠+心理的プレッシャーとしても有効

📝 補足:営業秘密との違いにも注意。「秘密管理・有用性・非公知性」が要件として求められます。

③ SNSやWebで「投稿が勝手に使われた!」

X(旧Twitter)やInstagramなどに投稿したオリジナルコンテンツが、無断転載される被害が増えています。

通常は著作権侵害で対応しますが、次のような条件下では不正競争防止法の適用も視野に入ります:

  • 投稿がある程度認知されている(フォロワー・シェア数など)
  • 転載相手が商業利用している(広告付き、商品販売など)
  • 自社の評判を落とすような形で使われている

📌 実務アドバイス:

  • 投稿のバックアップやスクリーンショットを定期保存
  • 画像ツールで著作・出典マークをつける
  • 無断転載を見つけたら“記録→通報→専門家へ”の順で対応

罰則・損害賠償などの救済措置

  • 刑事罰:営業秘密侵害には最大10年以下の懲役、または2,000万円以下の罰金(法人は最大3億円)
  • 民事請求:差止請求、損害賠償請求などが可能

違法に情報を持ち出したり、不正にブランドを利用した場合は、民事・刑事の両面で責任が問われます。

実は守られない「正当取得」のケース

以下のような「正当な手段で得た情報」は、不正競争には該当しません:

  • 公開情報を分析して得たリストやノウハウ
  • 合法的に購入した商品の調査結果(リバースエンジニアリング)
  • 元社員が記憶を頼りにノウハウを活用

このため、契約書や社内ルールで「何を秘密にするか」を明確にすることが重要です。

まとめ:不正競争防止法を味方にするには?

不正競争防止法は登録不要で使える強力な法律ですが、「守られる側」になるには日頃の備えが欠かせません。

「パクリ」と感じても、要件や証拠が足りなければ救済されない現実があります。
逆に言えば、記録・契約・実績があれば、自分のビジネスを守る武器にできるのです。

ちょっとした知識と準備が、大切なアイデアやブランドを守る力になります。
気になることがあれば、いつでもお気軽にご相談ください!

📚過去記事

🔗外部リンク

経済産業省:不正競争防止法の概要

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